第8話 「二楽亭へようこそ!」第一章 鎌倉攻防戦 その16
ユダはねえさまたちに気を取られてこちらの戒めが外れたのには気付いてない。
だけど、きつく縛られて鬱血した手足には感覚がなく、
すぐには動けない。
「馬鹿な--、本当に妲己に戻ろうというのですか?」
ねえさまちを合体させまいと、霊気の勢いを増すユダだけど、
ねえさまたちのひかりの壁に阻まれて、ふたりには直接届かない。
「仕方がないですね…」
ユダがそう呟いた途端、ユダのまぶしかった霊気の光が暗い色へと色を変えていく。
するとユダの周りにいた信徒たちが干からびるようにして倒れていく。
「教主どの、何をなさる!?」
ユダの側にいたシーボルトもがっくりと膝をつき、
干からびていく自分の手を差し出しながら問いかける。
「おお、シーボルト、
もともと屍だったオマエに貸し与えていただけの命、
ふたたび私と合一するだけだ。
光栄なことであり、何も不思議なことはあるまい」
そう言うと、
「キス オブ ザ デス(死の接吻)」
そうつぶやきながらシーボルトの頬にキスする。
「そ、そんな…。あああっ!」
絶叫とともにシーボルトが倒れ伏して動かなくなる。
信徒たちの干からびた死体がユダを中心に広がっていく。
その中には子供も混じっている。
少しでもユダから離れようとする信徒たちが、
仲間を押しのけ、倒れたモノを踏みつけにして逃げまどう。
(ひどい…)
「教主殿、乱心なされたか?
我らは神の王国を作らんと滅私奉公してまいった。
敵との戦いで倒れるのは本望でござる。
ただ守るべき女子供までご自分の御滋養になさるとは…。
どうかこれ以上の殺生はお控えくだされ…」
胸の傷が癒えかけた按針はのっそりと立ち上がりながら叫ぶ。
「やかましいっ!」
ぎらりと鋭い眼光が一閃すると、
霊気が刃の形をとり、按針の肩をざっくりと切り裂く。
「俺さまあっての王国だ。おまえたちは、
俺が幽冥世に入るための礎に過ぎんのだ。
大人しく我の血肉になるがいい!」
そう叫ぶユダが、背後に漂う霊気にぞくりと旋律したのが傍目からもわかった。
そのやりとりの間に葛葉ねえさまと静葉ねえさまの包まれていた光がなくなり、
その辺りだけ靄がかかっているようになっていた。
その16につづく