表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/127

第6話「-暗闘-青木ヶ原樹海」第4章その6

今にも振り下ろそうと上段に構えたまま、

「なんですとっ! そんなばかな…」

と空を見上げて誰かと話しているようだった。

「貴様ら、やってくれたな…!」

怒りで顔を真っ赤にした按針は、

そう言うと振り上げていた刀を鞘に収めると、

「覚えておれっ!」

と按針はベタなセリフを残して、風のように消え去った。

向こうの方が圧倒的に優勢なのに、

敵の手勢が一斉に後退していった。


「いったいどうしたっていうの?」

あまりの急展開に何が起こったのかわからなくて

その場にへたりこんでいる私たちに、

「瑞葉ちゃんのお手柄なのです♪」

と駆け寄ってきた萌が言った。

挿絵(By みてみん)

え? お手柄? じゃあ、連中、ホントに撤退したの!?

半信半疑な私たちに萌が状況を説明してくれた。

それによると、

富士火山帯に異常があったり、

教会の関係者の進入を認めた場合、

アララト山周辺を搭載する大出力レーザーで焼き払うと

オーソドクス教会本部を脅したらしい。

そのために、

検非違使の別当飛鳥薫子が

武家政権に働きかけて、

日本の資源探査衛星<オオタカ>を

極東オーソドクス教会の総本山のある

アララト山上空の静止衛星軌道上に静止させていた。

じつはこの<オオタカ>、

資源探査衛星とは表向きの話で

3ギガワットの戦術高エネルギーレーザーを搭載した軍事衛星だった。


「なるほど…。教会はアララト山の地下に眠る箱舟を失うリスクは

犯せないというわけですか…」

ずっと伝説だと思われていたノアの箱舟は、

何年かまえの調査でトルコのアララト山の山頂ではなく、

そのままの形で地下に眠っていることが分かって

テレビで大騒ぎしてたっけ。

以来オーソドクス教会はコンスタンチノープルからアララト山に

総本山を移していた。

「瑞葉、さっき言ってた超法規的行動って…」

音音がそう聞くと、瑞葉はこくんと頷いて、

「オオタカが攻撃されても大丈夫なように、

防御衛星<ミサゴ>と<チョウゲンボウ>も配備してもらった…」

と言った。

「それってJSSDF(Japan Space Self-Defense Force)の最新衛星…。

あ、そうですわ、中納言飛鳥薫子さんの実家って…」

弾正府の頭脳と言われる音音だけに

何か思い当たるところがあったらしい。

それを聞いた萌が、

「はい。検非違使別当薫子様のご実家が

宇宙関係の事業に顔が利きますし、

日本の同盟国トルコの中枢には

政教分離をさらに推進したいとの思惑がありますから」

となんでもないことのように答えた。

こんな方法があるなんて、私は思いもしなかった。

考えついた瑞葉は、

今の国際状況や国内事情をちゃんと把握してるんだ…。

そんな瑞葉もすごいけど、

それを実行できる薫子もすごい--。

公卿なのに武家政権に近いと言われる彼女の行動力に舌を巻いた。

「飛鳥中納言に借りができちゃったみたいだね」

「そんなこと…。

薫子様も教会の驚異は認識しておられますし、

検非違使庁があるのも同じ鎌倉ですから。

神霊的なことはともかく、現実的な解決方があるならば、

それは検非違使の役目だろうと薫子様はおっしゃいました」

そう言われたものの、素直に頷けない自分がいた。

音音と萌と瑞葉がロシアとNATOへの根廻しがどうなってるのか話し始めると、

ちゃんと理解出来ない私は

さらに取り残されたような感覚になった。

周りを見回すと怪我人が随分出ているので、

人手が足りなそうなところを手伝いに行く。

葛葉ねえさまもいっしょに来て、

霊力を使って怪我の手当をしながら話はじめた。

「まあまあ結繪さん、

あまり考えこまないほうがよろしいですわ」

「葛葉ねえさま…。でも私……」

「もちろん、知識をつけることは必要なのです。

でも人には適正といいうものがありますから」

「適正ですか…」

「はい。適当な人材を適当な場所へ配置する、

適材適所が大事なのですよ。

あなたを補佐する音音さんが判断材料を、

結繪さんは、その材料を元にどうするか決める。

事実関係だけで効率重視で判断するなら、

人は必要ないのです。

私は、結繪さんの優しい判断が幽冥世かくりよを、

ひいては現世うつつをも救うことができると思っています」

「…ねえさま……」

私、期待されてるんだ…。

その期待に応えられるような人間になりたい。

そのためにはもっといろんなこと勉強しないと…。

「ところで……、

出発前に結繪さんたちが差し入れてくれたお酒なのですが、

もうなくなってしまったのです。

ですから、Qちゃんに酒保を開くように言って欲しいのです!」

「え!?」

「今月の割り当て分はとっくに飲みきってしまって、

今日いただいたお酒はホントに久しぶりで美味しくてつい…」

「もしかして、最近それで寝てばっかりだったとか?」

「はい。どうもお酒飲まないとやる気が出ないというか

力が出ないというか…」

「あはははっ」

「笑い事ではないのです。

今日だって、静葉ちゃんがもう1升飲んでたら、

あんな連中軽くひねってやりましたよ」

「はいはい。

では、Qちゃん先輩と交渉してみますね」

「あ、あとあと、

鬼裂と殺鬼とも話してきましたけど、

ほかにも何振りか妹がいるようなのですよ。

居場所さえ分かれば説得して

対鬼用の自立型遊撃部隊として弾正府に合力ごうりきするそうです」

「ホントですか!」

あの2人だけでも相当強いのに、

妹達といっしょに助けてくれるなんて!

他にどのぐらいの妹がいるんだろう?

と思っていると、

「ただ、やっぱりお酒は私たちと同じぐらいお酒が欲しいそうなのです」

と葛葉ねえさまは申し訳なさそうに言った。

やはりタダという訳にはいかないか…。

ねえさまたち伊達に長く生きていないので、

舌が肥えていて、結構値段のするお酒が好きなんだよね…。

暇なときは、音音の経営する居酒屋で

バイトでもしてもらおうかなと思ったけど、

きっと売り物のお酒を呑んじゃって余計高く付きそうなので

それだけは止めようと思いなおした。


第4章 おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ