「凍結する西御門 襲来! 第二契約者」第2章 その3
「あっ! 三狼こっち見るなーっ!」
そう言って怒鳴る私の横で、
音音もこっち見てはぁはぁしてるし…。
そうこれ…、
これが音音の困った趣味。
音音って、普段はクールだけど、
レズっ気があって、
ちょっとエッチなスイッチ入ると
見境なく私を襲ってくる…。
今もそんなスイッチが入ったらしく、
なんだか目つきが怪しくなってるんですけど…。
あー、もうっ!
音音がそんな困ったHモードになったのも、
みんなこの妖怪がいけないんだからねっ!
「このエッチ妖怪!!
急いでるって言ってるでしょ!」
そう言ってるのに、大人しくなるどころか、
更に触手の数が増えて襲ってくる。
「もう! 言っても聞かないんじゃ、
<アレをやるしか>しょうがないよね!」
そう声を音音に投げつけると、
はっと正気に返る。
「そ、そうですわね」
そう返事をする音音と目を合わせると、
私は愛刀・子狐丸を天に向けて、
「かけまくもかしこき稲荷大神の大前に、
かしこみかしこみももうさく…」
と稲荷祝詞を上げ始める。
音音は、愛刀・狐が崎を地面に向け、
「本体真如住空理……」
と稲荷心経をとなえる。
すると中空から、
狐耳に狐のしっぽのある
ふたりの美しい巫女様が姿を現す。
ふたりは私と音音が契約する守護妖、
五尾狐の有明葛葉ねえさまと
四尾狐の阿部静葉ねえさま。
1385年に玄翁和尚が殺生石を砕き、
そのとき飛散したかけらから顕現したふたりは、
せいぜい20歳ぐらいにしか見えないけど、
ホントはもう600歳に近いらしい。
普段は西御門学園内にある
空中庭園二楽亭に住んでいて、
こんなときには力を貸してくれる。
「うー、なんですか、コレ…。狢臭いのです~っ!?」
出現するや、葛葉ねえさまが呻く。
「臭すぎますわ~~っ」
ふたりとも、少しでも悪臭を防ごうと、
顔の前に巫女服の裾をかざして、鼻を隠してる。
そうか、相手は狢なんだ…。
狢といえば、狸の親戚。
ウチの学校にもエロ狸がいるけど、
道理でエロい感じがすると思った。
「葛葉ねえさま、静葉ねえさま!」
「あらあら、結繪さん、
その格好はどうなさったのですか!?」
私のスカートが破れてるのに気づいて
そう言ってくれた葛葉ねえさまに、
「それより、
この人達を病院に連れていきたいんですけど、
この狢が言うこと聞いてくれなくて」
と窮状を訴えると、
葛葉ねえさまと静葉ねえさまは、黙って頷いた。
立ち上がって私に背を向けると、
「ここからは、
私たちがお相手してさしあげましょう。
あなたたちは、その間に救護を呼びなさい」
そう言って袂から御札を取り出し、
部屋の四方に投げつけると、
何事か祭文を唱え始める。
「こ、この祭文は稲荷の…。
ぐげげげげげぇ、なんで稲荷神の眷属がここに…」
狢が驚くのには構わず、
祭文を上げつづけるふたり。
そして最後に、
「えいっ!」
とハーモニーを奏でるように
気合いを掛けると、
御札から文字がトゲのように突き出して、
辺りを貫いていく。
「ぎゃああ!!!」
あたりの肉壁が消え、
普通の林の風景に戻った。
その6に続く。