「凍結する西御門 襲来! 第二契約者」第2章 その2
私と音音は授業を終えたあと、
護衛がわりに幼なじみの同級生・
三峯三狼(みつみねさぶろう)を伴って校門を出た。
三狼は名前の通り、狼に守護された狼部・三峰家の次男。
弾正府を守る十三の家・十三部集の中でも
最強と言われている狼部だけど、三狼はあんまり強くない。
私たちは3人とも弾正府の人間なので、
帯刀しても大丈夫なんだけど、
目立つので竹刀を入れる袋に入れて行く。
雪ノ下から大町、材木座へ抜け、
幽霊トンネルの異名を持つ
名越トンネルを通り、
その途中で厨子マリーナに続く道に曲がる。
情報では、
その道の東側、小高い山の上にマリーちゃんの家があるという。
ハイキングコースのような
舗装のされていない道へと足を踏み入れていく。
泥道でシューズが汚れるよう…。
その道の途中で三狼が、
「人の匂いがする」
と、辺りの空気を嗅ぎながら言った。
三狼の鼻が利くのは折り紙つきなので、
誰かが入り込んだ可能性が高い…。
現場に急いだものの、
そこに着いたときには、
すでに立ち入り禁止表示テープは切られたあとだった。
そして、その向こうの、
ぬかるんだ土の上には、
5人分ぐらいの足跡が三角屋根のマリーちゃんの家の玄関へ向かって、
くっきりと残っていた。
「あちゃー」
「結繪ちゃん、まだ間に合うかもしれないですから、急ぎましょう」
確かに音音の言うとおり、
こうなると一刻を争う。
ドアをドカッと蹴り破って中に侵入する。
女の子としてはどうかと思うけど、この場合は仕方ない…。
マリーちゃんの家は、
外から見ると結構広そうに見えたけど中は狭かった。
そして内部の、
まるで”肉”で出来ているようなぶにぶにした壁に、
5人の男女が両手を広げた格好で拘束されていた。
顔は土気色をしていて、
かなり生気を吸われている感じだ。
でもよかった、まだ息がある。
これなら助かる。
三狼が自分の背丈に近い160センチ斬馬刀を鞘から抜くと、
手近にいた女の子の戒めを切り裂いていく。
私も愛刀・子狐丸の鯉口を切り、
拘束している肉に斬りつける。
音音も同じように愛刀・狐が崎で肉を切り裂いていく。
すると……。
「ぐぎゃああっ!!!」
突然天井から不気味な叫び声が聞こえて、
天井いっぱいに大きな顔が現れた。
「貴様ら、何をする!
そんなモノで切ったら口内炎になるではないかっ!」
それを聞いた音音が、
怒りを含んだ声で答える。
「どこの妖か存じませんが、
この鎌倉府で不逞をはたらくなんて
良い度胸をしてらっしゃいますわ」
「早く病院にはこびたいんだから、
大人しくこの人たちを解放しないと、痛い目みてもらうけど…」
「ふん、小僧と小娘ふたりが凄んだところで
痒くもないわっ! ほれっ!」
そのかけ声とともに、
触手が地面や壁から生え出してくる。
伸びてくる触手を切り落とすものの、
数が多すぎてきりがない。
しかも切り口からは、ねっとりとした血が流れ、
脂分が濃いのか、あっという間に刀の切れ味が悪くなってくる。
こいつ、メタボリックなんじゃ、と気を取られた隙に
調子に乗った触手に制服を切り裂かれた。
やーっ! 下着が見えちゃう!
しっかりそれを見たらしい三狼が、鼻血を出してその場でしゃがみ込んだ。
第2章 その3に続く