第3話「瑞葉が来た日」その2
--数日前。
東京駅から久里浜駅までを結ぶ横須賀線。
その途中、北鎌倉と鎌倉の間には1カ所トンネルがある。
そのトンネルを抜けた鎌倉寄り、
扇ガ谷に線路の下をくぐるアンダーパスがあり、
最近、そこで落ち武者の幽霊が出るという噂がたっていた。
「鎌倉府長からの依頼を無碍にはできないでしょう? 結繪様」
鎌倉府立西御門学園の敷地内にある
武道棟の最上階・武道連合会長室の中で、
私の机の前にいる生徒会長・宮本鳩太郎が
やれやれという感じで言った。
長髪の貴公子といった感じの彼は、
実際、文武両道に優れた学園のアイドル…というのは表向きの話で、
本来の彼は、
鎌倉府の心霊事件の刑事警察権を預かるこの私、
那須野弾正尹結繪が率いる十三部集のひとつ、
鳩部を統括する司をしている。
「全く面倒なことですわ、通称Qちゃん」
嫌がるのを承知で音音がまぜっかえす。
「その呼び方はやめてくださいと何度も…
って通称ってなんですか!??」
こんな風に怒ってるけど、
普段の態度から考えると、
Qちゃんって実はドMなんじゃないかと、私は疑ってる。
「そんなこと、稲村ガ崎高校の検非違使にでも
やらせとけばいいでしょ?」
「彼らに霊的捜査なんて出来ないから
弾正府に依頼がきてるんでしょう…」
「でも、実際になんか被害があったわけでもないし…」
「あってからじゃ遅いんです」
鎌倉というのは土地柄、
曰くつきの物件や場所がたくさんある。
ちょっとほじくり返したりすると、いろんなものが出土する。
ちなみに由比ガ浜にある簡易裁判所では、
その建物を建てるときに、900体以上の人骨が出土したらしい。
だから、”出る”という噂の類ならいくらでもある。
でも、扇ゲ谷あたりでは、
今まであまりそんな話を聞いたことがないので、
ちょっと不思議な感じがするのは確か。
「とにかく! ネガティブな噂は観光地鎌倉にとって致命的なので、
すぐさま噂の素を解消してくれと、鎌倉府長よりの依頼です」
「ふ~~ん。で、誰が行くの?」
その3につづく