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二楽亭へようこそ! 外伝「河童の徳利」前編

「キザクラ、オオゼキ、クボタ! 

出かけるから付いてきなさい」

ふんわりとした髪を、

頭のてっぺんで組みひもで結わえた音音が言い放つと、

後ろも見ずに玄関を出ていく。

挿絵(By みてみん)

車寄せに停まっていた黒いリムジンの前に立つと、

どこからともなく3人の黒づくめの男が、

忽然こつぜんと現れた。

黒縁セルロイドのサングラスに黒いソフトフェルト帽をかぶり、

細身の黒いタイを締めた黒スーツ姿は、

いかにもボディーガード然としている。

一人がドアを開いて、

音音の頭がドアのフレームに当たらないように手をかざすと

音音が最後部の座席に乗り込んでいく。

ドアを開けていた男は助手席に、

もう二人は音音に向かい合うようにして着席する。

「茅ヶ崎の大曲へ」

「---!!!」

すでに乗り込んで居たドライバーに、

行き先を告げる音音の一言を聞いた黒ずくめ3人が、

声にならない声を上げた。

「あら、どうかした?? 

もしかして、河童のお宝でもあるのかしら?」

3人はダラダラと汗を流しながら、

うつむき加減にお互いアイコンタクトを取っている。

「まさかとは思いますが、

河童の徳利とっくりの話をお聞きになったんですかい?」

リーダー格のキザクラがおそるおそる尋ねると、

「よく知ってますわね。

その通りですわ。

少しだけ底に残しておけば、

再びお酒でいっぱいになっているという河童のとっくり。

それを手に入れに行くのですわ」

と事もなげに答えた。


3人にとって主人筋とはいえ、

まだ中学生か高校1年生にしか見えない音音。

なのに、

怪しげな光がともるかのような眼光で周囲の3人を完全に圧倒している。

「しかしありゃ、

随分昔に徳利の底を3回叩かれて、

お酒は打ち止めになっているハズで…」

何百年も前に、

河童を助けてくれた人にお礼として出したという徳利は、

いわくつきの代物だけに、

河童の手元に戻っていた場合、

おいそれとは出してくれないかもしれない。

その場合眷属と事を構えなきゃならないかもしれない…。

そう思うと気が乗らない3人なのだ。

「そんなものはサンプルさえ手に入ればかまわないですわ。

我が化野家の財団ラボで解析できるのですわ。

データが取れれば持ち主に返しても返してもかまわないし」

そういわれて少しほっとする河童たちに満足したように

音音が話し続ける。

「もしそれが私の予想通り空中元素固定装置なら、

なんでも作り出すことができるのですわ!

つまり食材はすべてタダ! 

日本の外食産業は私の”道楽チェーン”の前に跪くことになるのですわっ!」

高笑いする音音を余所に、

何でも作り出せると聞いた3人が目の色を変えた。

「俺だったらやっぱり酒だな」

「いやなんでも出せるんだぜ! 

俺だったら女だ。絶対女を出してもらうっ」

「お前らアホか! そんな凄い装置だったら金だろ。

そしたら酒でも女でも買い放題だせ!」

「おお~~っ!」

それを聞いていた音音が、

「これだから河童は浅はかだというのです。

お金など大量に出したりしたら、

その国のプライマリーバランスが崩れて、

ハイパーインフレになって酷い目に遭いますわ。

マテリアルを出しても、価格の暴落を招きますわ」

と軽蔑仕切ったような目でつきで見ながら言い放った。

「さすが音音お嬢様だ--

難しすぎて何言われたかさっぱりわからん」

「俺もだ」

「異議無し!」

「でも音音さまの言うこと聞いとけば間違いないしな」

「ああ」

「異議無し!」

よく分からないのに納得している風なのは、

これまでに音音に何度か逆らった経験則から、

言うとおりにした方がいいということを学習しているかららしい。

「とにかく! 河童の徳利が欲しいのですわ」

音音はそう言うと、

徳利の特徴を書き込んだ紙を拡げて見せる。

<五郎左衛門の河童徳利  

高さ七寸(約二十一センチ)、

底四寸(約十二センチ)の約三合(約500ml)徳利。

口のところが少しかけているらしい>

「大曲に居るのは、あなた達の眷属なのでしょう? 

現地で聞き込みして、この徳利を見つけてちょうだい! 

見つけ出したモノには<生産者の顔が見えるブランドキュウリ>の

一生食べ放題券を差し上げますわ」

その一言を聞いた3人の目つきが、サングラス越しにも変わるのが分かる。

「お嬢様、到着いたしました」

程なくリムジンが現地に着くと、

3人が徳利を求めて脱兎のごとく掛け去って行った。

   

                    後編に続く

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