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第1話 「凍結する西御門 襲来! 第二契約者」 第1章 その1

元版はそねぶろにあります。 https://niraku.blog.ss-blog.jp/2010-03-02

扉イラスト かんちゃん

挿絵(By みてみん)


序章


『むかしむかし、那須野というところに、

立ち昇る瘴気しょうきで近づくものを殺してしまう

殺生石という石がありました。

元を正せばその石は、

かの昔、朝廷に悪事をなした九尾の狐・玉藻たまもの前が

退治されたときにできたものでした。

その殺生石の話を聞いた、ときの帝が

僧・玄翁げんのうを遣わし殺生石を砕かせ、

それ以降、瘴気で生き物が死ぬことはなくなったといいます----』

これが普通知られている、

九尾の狐・玉藻の前と殺生石の簡単なお話。

だけど、そのお話には続きがあって…。


第一話 「凍結する西御門 襲来! 第二契約者」

第一章 その1


紹和20年3月31日――。


『――大本営発表。硫黄島守備隊ヨリ、

戦局ツヒニ最後ノ関頭ニ直面シ、

本日夜半ヲ期シ、最高指導官ヲ陣頭ニ

皇国ノ必勝ト安泰トヲ祈念シツツ、

全員壮烈ナル総攻撃ヲ敢行ス、

トノ打電アリ。

通爾つうしん後、硫黄島守備隊ヨリノ通信ハ絶エ……』

薄暗い部屋に、

ザザッというノイズ混じりのラジオからの声が、

日本の苦しい戦況を伝えている。

ゆらゆらと揺れる、部屋の四方に灯る百目ろうそくの光のなか、

平安時代の貴族のような束帯そくたい姿の男達が

ボソボソと会話を続けている。

「……硫黄島も落ちたか…」

「此度は、第二契約者どもの思惑に、

大和人がのせられた格好だが…」

「のらずとも、唯一の神を押し立てて、

ごり押しで乗り込んで来ていたであろうよ」

口の端に皮肉な笑みを、

扇で隠すようにしながら男は話しを続ける。

「こののちは、米軍の動きに呼応して、

日ノ本に入り込んでいる契約者の先兵どもが、

鎌倉府を攻めるでしょうなぁ」

「現世(うつしよ)はいたしかたなし…。

人間世界を盾に幽世(かくりよ)を死守し、

何時の日か、日ノ本の精神を復興すべし」

「結局は“鎖国”しかあるまい…」

男たちは目配せして頷きあうと、

ゆらゆらと立ち上がりながら足元から消えはじめる。

「ことは決した…」

「ではこの後は、現世の世事は狐の姫たちにおまかせしましょうぞ」

「しましょうぞ…」

それを合図に、ろうそくの灯りがスッと消え、

部屋は闇に閉ざされる。


同年同日・鎌倉・西御門にしみかど――。

うちっぱなしのコンクリートの部屋には

通信機器が多数備え付けてある。

その機器の前に座るオペレーターたちは、

詰襟つめえりの学生服と、

セーラー服を着た高校生の男女。

彼らはひっきりなしに入る通信への対応に追われている。

その中の一人が、

はじかれたように立ち上がると、

振り向いて声を張り上げる。

「申し上げますっ! 

い、稲村ヶ崎最終結界が突破されましたっ!!!」

「何っ! ば、ばかな…。新田義貞に破られて以来、

強化し続けてきた結界だぞっ!」

部屋の中に動揺が走る。

「極楽寺に展開中の部隊を長谷寺まで下げろ!」

すかさずそう指示を出し、動揺を抑えたのは、

大きな兵棋へいき演習用の机の前に立っている

白い学ランを着た学生たちだった。

しかしそのあとも、

状況の悪化を知らせる情報が続々ともたらされる。

「坂ノ下、鷲部司(わしのべのつかさ)

鷲観(わしみ)伝十郎様お討ち死! 

鷲部も被害甚大です!」

「狼部(ろうぶ)はどうしたっ!?」

下馬四ツ(げばよつ)に部隊再集結中です。

現在、狼部司(ろうぶのつかさ)

三峯弦一狼(みつみねげんいちろう)殿のみ、

湘南海岸道路より坂の下へ先行中!」

「頼むぞ、弦一狼…」

白い学ランを着た中で、

ただひとり学帽をかぶっていた学生が、

机上の地図を睨みながらつぶやいた。


その2につづく

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