君と夏
モノローグ
「夏なんて嫌いだ。
君を思い出す匂いがするから。
蝉の声も、夕焼けも、花火も。
あの日の記憶ばかり連れてくる。
季節は何度巡っても、
僕の時間だけはあの日から動かないままで、
夏の風が吹くたび、
君の笑顔が胸に浮かんでしまう。
今年もまた、
夏は僕をあの日へと連れさっていく。」
窓から吹く風がカーテンを揺らす。
教室には夕日が差し込んでいる。
主人公は机に突っ伏して眠っている。
少女A
「ねぇねぇ!」
返事はない。
少女A
「起きてってば!」
肩を揺する。
主人公
「……ん。」
少女A
「やっと起きた。もう放課後だよ?」
主人公
「寝てたのか……。」
少女A
「寝てたのかじゃないよ! 六時間目ほとんど寝てた!」
主人公
「先生は?」
少女A
「呆れて帰っちゃった。」
主人公は苦笑する。
主人公
「ごめん。」
少女A
「今日は許してあげる。」
主人公
「どうして?いつもならアイス買うまで許してくれないのに」
少女Aは満面の笑みで答える。
少女A
「今日は花火大会だから!」
主人公は少し考える。
主人公
「あ……。」
少女A
「忘れてたでしょ?」
主人公
「少しだけ。」
少女A
「少しじゃない顔だったよ。」
二人は笑う。
---
夕日に染まる住宅街。
蝉の鳴き声。
二人は並んで歩く。
少女A
「今年も暑いね。」
主人公
「毎年言ってる。」
少女A
「だって暑いんだもん。」
コンビニの前で止まる。
少女A
「アイス!」
主人公
「また?」
少女A
「夏は毎日食べてもゼロカロリー。」
主人公
「そんなわけない。」
少女A
「細かいことは気にしない!」
主人公は笑いながら財布を出す。
主人公
「好きなの選んで」
少女A
「ほんと!?」
目を輝かせる少女。
主人公
「一つだけな。」
少女A
「やったー!」
---
店を出る。
少女は嬉しそうにアイスを頬張る。
少女A
「冷た〜い!」
主人公も一口食べる。
主人公
「頭痛い……。」
少女A
「食べるの早すぎ。」
主人公は笑う。
少女もつられて笑う。
夕焼けの中。
二人の笑い声だけが静かに響いていた。
(神社へ続く石段。提灯に明かりが灯り、祭囃子が聞こえてくる。)
少女A
「着いたー!」
主人公
「相変わらず元気だな。」
少女A
「今日は一年で一番楽しみな日だもん!」
二人は屋台を歩く。
焼きそばの香り。
金魚すくい。
射的。
子どもたちの笑い声。
少女A
「ねぇねぇ! 射的勝負しよう!」
主人公
「また負けても知らないぞ。」
少女A
「今日は勝つ!」
少女は真剣な表情で狙う。
――外れる。
少女A
「えぇー!」
主人公が撃つ。
景品が一つ倒れる。
店主
「お兄ちゃん、うまいね。」
少女は頬を膨らませる。
少女A
「ずるい!」
主人公
「たまたまだよ。」
主人公は景品の小さなイルカのキーホルダーを少女へ差し出す。
主人公
「ほら。」
少女A
「……いいの?」
主人公
「あげる。」
少女は嬉しそうに受け取り、大事そうに胸へ抱く。
少女A
「ありがとう。一生大事にする。」
主人公は少し照れくさそうに笑う。
---
主人公「ここからなら綺麗に見えるよ」
少女A「ほんとだ!」
祭りの喧騒から少し離れた場所。
夜風が静かに吹いている。
空いっぱいに、一発目の花火が咲く。
少女A
「わぁ…綺麗…。」
赤、青、金色。
夜空が鮮やかに染まる。
しばらく二人は黙って見上げる。
少女A
「ねぇ。」
主人公
「ん?」
少女A
「来年も一緒に来ようね。」
主人公
「…うん、来年も。」
少女A
「再来年も。」
主人公
「もちろん。」
少女A
「おじいちゃん、おばあちゃんになっても?」
主人公は笑う。
主人公
「その頃まで花火大会が続いてたら。」
少女は小さく笑う。
そして少しだけ真剣な顔になる。
少女A
「……私ね。」
主人公は少女を見る。
少女A
「来年になったら伝えたいことがあるの。」
主人公
「今じゃダメなの?」
少女は首を横に振る。
少女A
「今言ったら、きっと恥ずかしいから。」
主人公は少し笑う。
主人公
「じゃあ、来年聞く。」
少女は安心したように笑う。
少女A
「約束。」
二人は小指を絡める。
その瞬間、大きな花火が夜空に咲き誇る。
少女の笑顔は、花火よりも眩しく見えた。
――きっと僕は、この笑顔を一生忘れない。
(花火大会も終わり、人混みは少しずつ静かになっていく。)
虫の鳴き声が、夜の空気に溶けていく。
二人はゆっくりと家までの道を歩く。
少女A
「今日楽しかったね。」
主人公
「うん、楽しかった。」
少女A
「来年も絶対行こうね。」
主人公
「約束したからね。」
少女A
「えへへ。」
少女は嬉しそうに笑う。
少し歩いて、交差点に着く。
ここで二人はいつも別れる。
少女A
「じゃあ、また明日!」
主人公は何気なく手を振る。
主人公
「うん。また明日。」
少女も大きく手を振る。
少女A
「おやすみー!」
主人公は振り返らずに歩き出す。
少女も反対方向へ走っていく。
その背中を、夏の夜風がそっと包む。
---
(蝉時雨の振り注ぐ教室)
主人公はゆっくりと目を開ける。
教室には誰もいない。
夕日だけが教室を赤く染めている。
主人公
「……夢か。」
机の上には、一つのイルカのキーホルダー。
主人公は静かに握りしめる。
教室を出て、坂道を歩く。
向かった先は、小さな丘。
そこには一つの墓石。
白い花が供えられている。
主人公は新しい花束を置き、静かに座る。
主人公
「今年も来たよ。」
風だけが返事をする。
主人公は少し笑う。
主人公
「来年聞くって約束したのに……
結局、聞けなかったな。」
主人公は空を見上げる。
青空には大きな入道雲。
ゆっくりと思い出すように目を瞑る
どこかで子どもたちの笑い声が聞こえる。
主人公
「君がいなくなってから、
僕は夏が嫌いになった。
君を思い出すから。
忘れられないから。
……でも。」
主人公はイルカのキーホルダーを見つめる。
主人公
「君はきっと、
そんなこと望んでないよな。」
風が優しく吹く。
木々が揺れる。
主人公は立ち上がる。
主人公
「ありがとう。
今年も、会いに来ることができたよ。」
主人公は一歩踏み出す。
振り返らない。
歩き続ける。
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エピローグ
(夏空。)
蝉の声。
風鈴が揺れる。
主人公
「夏なんて嫌いだ。
そう思い続けていた。
だけど……
君と過ごした夏まで嫌いになってしまうのは、
少し違う気がした。
だから今年は――
少しだけ、夏を好きになってみようと思う。」
― End ―




