奇妙な告白
「あなたのことがずっと好きだった。でも、あなたじゃない」
ある高校生の男子は、非常に困惑していた。というのも、屋上に呼び出され告白されたかと思えば、その相手が奇妙なことを口ずさんだからである。しかも、見知らぬ美少女が。
そうして男子がしばらく固まっていると、その少女は眉をひそめて口を開いた。
「どうして黙ってるの?とぼけるつもり?」
「とぼけるっていうか…………もしかしてどっかで会ったことあるか?」
「そうだけどそうじゃない。そもそもあなたじゃないし」
「…………告白する相手、間違えてないか?」
「間違えてない」
「……」
一通り問答してみても、男子にはその少女が心底理解できなかった。
口をあけたまま閉口する男子に、少女は近づき、その手がそっと胸に触れる。
「……そう。あなたがそういうつもりなら、私にも考えがあるから」
そう言い捨てて、少女は屋上から去っていった。
男子の心臓は、ドクドクと脈打っている。だがこれは、決して恋のドキドキなんてものじゃないのだろう。
少女が何をするつもりなのかは分からないが、きっと碌な事にはなるまい。
男子は、心の中で合掌した。
ああ、願わくは、平穏に日々を過ごせますように、と。
はたして、男子の願いが通じたのか、その後は恐れていた何かが起こることもなく。ただ彼女から、高校生の女子として至極真っ当で健全なアプローチを繰り返される日々が続き。そうしていつの間にか外堀を埋められていた男子は、彼女と付き合うことになったわけなのだが。
学校を卒業し、なんだかんだ交際が続いている今になって尚も、あの時の彼女の真意は分からないままだった。
それから数十年後。
男は寝室で、妻となった少女に見守られながら横になっていた。彼女は体質だとかで、見た目はあの頃のままの若々しい姿を保っている。こうして寝たきりで、いつ逝ってもおかしくない老いぼれには羨ましい限りだ。
「あなた、大丈夫?ほら、ローズティー淹れてきたから。好きだったでしょ」
「……ああ、ありがとう……」
男は少女からカップを受け取り、ゆっくりとそれを口に運んだ。
いつからか、少女が淹れてくれるようになった真っ赤なローズティー。好きでも嫌いでもなかったが、不思議と心のざわつきが落ち着くような気がして、次第に飲むようになったそれ。
しかし、今日は一段と心が落ち着かない。死期が近いことに、本能的に気が付いているのだろうか。
彼女との結婚生活は、まさしく順風満帆だった。子宝には恵まれなかったものの、出会った時からは考えられないほど幸せな日々を送れたように思う。気掛かりがあるとすれば、彼女を残して一人逝ってしまうことだが……。
いや、もう一つだけ。冥途の土産に、これだけは聞いておかなくてはなるまい。
「…………結局。あのときの告白は、どういう意味だったんだ……?」
「ああ、それは――」
男は、彼女の言葉を最後まで聞くことはなかった。しかし、その方が男にとっては幸せだったのかもしれない。
なぜなら――
「…………やだ、もうやだやだやだやだやだ!なんで!?どうして!?だれか……だれかたす――」
「私は貴女のことがずっと好きだった。千年だろうが一万年だろうが…………
一生一緒だよ?イブ」




