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第3章 ① 「白いアネモネを探しに」

「私、実は記憶障害を患っているんだ、、、」


話は中学2年の夏休み終わりに遡る。その日は部活の練習があり、その帰り道だった。私は事故に遭ってしまった。その影響で一週間ほど目を覚まさなかったが、問題はそこではない。目を覚めてから一時期、家族、友人の記憶がなかった。医師からは事故後の後遺症で一時的ものだと言われ、少しすれば治るだろうと言われた。記憶を取り戻すために家族や友人、とくに美夢ちゃんにはすごく助けてもらった。そのおかげもあってかその時は一週間ほどで記憶をある程度取り戻すことができた。しかしそう簡単に後遺症とは治らないものだと、この時の私は思ってもいなかった。事故から三ヶ月ほど経ったある日、突如としてたくさん助けてもらった美夢ちゃんの記憶がなくなった。私の中から一つの花びらが散るみたいに美夢ちゃんとの思い出だけが散っていった。

そこで私は病院に検査に行くと、解離性健忘の系統的健忘であると診断された。

系統的健忘とは特定の人物・場所・出来事に関連する記憶だけ失う記憶喪失だ。

今回はたまたま美夢ちゃんが特定の人物となってしまった。そのことを知らせた時の美夢ちゃんの絶望した顔を私はいまだに覚えている。覚えて欲しいことを忘れ、覚えいたくないことに限って覚えている。なんて悲惨なことだろう。そう思うたび「なんで事故に遭ってしまったのだろう」と自分を責めて追い詰めてしまう。しばらくの間ずっとそうして塞ぎ込んでいた。そんな時にも美夢ちゃんはずっとそばにいてくれた。忘れられていて私よりも辛いはずなのに支えてくれた。本当にそれが有り難かった。それから数ヶ月が経ってから少しずつ美夢ちゃんのことを思い出すことができた。そして自分の記憶のこともやっと受け入れることができてきた。美夢ちゃんがそばで支えてくれたからできたことで、支えがなければ今の私がなかったと思う。本当に感謝でしかない。

それからというもの度々突然記憶を失うことはあったが特定の人物をまるっきり失うということはなく少しずつ症状も和らいできた。ただ医師によると完治には至るかわからないらしい。それに今は和らいでいてもいつかまた悪化するかもしれないらしい。辛い現実だ。しかし受け入れないといけない。私はこのことに向き合って生きていかないといけない。私はまた塞ぎ込んでしまいそうだった。そんな時美夢ちゃんが

「私も一緒に背負うから。例えまた忘れられても。いずれ希望はあるから!」

とまっすぐな目で説得されてまた救われた。そのおかげで私はしっかり向き合って生きていくと決意できた。


それから数年後

今日は4月6日。3日後には高校の入学式を控えた私はその日いろいろと物を揃えるために美夢ちゃんと買い物をする予定だった。朝、思っていたよりもずっと早く目が覚めた。現在午前6時半、約束の時間は午前10時半。結構時間が空いてしまっていた。二度寝をしようかと少し迷ったが、後々がめんどくさくなるし、久しぶりに散歩をしたいな、と思い立ち準備を始めた。いろいろと準備が終わり、9時ごろに私は家を出た。少しずつポカポカし出して来た朝日を浴びながら近所を歩く。すると近くの公園に咲いている桜の木が目に入る。綺麗に咲いている。そこで私はあの場所の桜、今すごいんじゃないかと思い、そのあの場所に向かうことにした。それから約10分ほど歩いて、私は堤防敷の桜並木にたどり着く。ちょっと周りから小高くなっている堤防の両側に桜の木がずらっと満開になって立ち並んでいる。まるで異世界の入り口のような桜のトンネルを作っていた。思わず口から「綺麗だ」と言葉が漏れた。そして無意識にスマホのカメラを構えて写真を撮る。一枚また一枚と何枚も撮っていた。撮った写真を見返していると一番新しい写真にある男性が写っていた。ふと視線をスマホから前へ移すと、桜の花を愛でている男性がいた。見た感じ身長は少し高めで痩せ型、優しそうな顔ですごく落ち着いた雰囲気がある人だ。そして何より背景に桜があることですごく綺麗に映る。思わず、見惚れてしまう。すると私の視線に気付いたのか彼がこっちを見て、目が合う。彼は優しい目をしていた。お互いにずっと目が合っていて少し気まずくなり、私は目を逸らす。彼も目を逸らしているのがわかった。その後私は彼の横を通り過ぎる。正直少し彼と話してみたかったが、そんな勇気私にはない。

通り過ぎてしばらくする。突然後ろから「ズサッ」となにかが落ちるような音がした。私は音のした方へ振り返る。するとさっきの彼がフラつきながら地面に倒れそうになっていた。明らかに何かで倒れそうになっている。私はとっさに彼の元へ体が動いた。そして彼に寄り添って支える。少し軽いと思ってしまう。とりあえず彼を地面に座らせる。なぜ倒れかけていたのか原因はわからなかったが彼の呼吸が荒くなっているのがわかり、手に持っていた水を彼に差し出した。とっさすぎて自分の飲みかけだったことを忘れていた。彼はそれに気づいているのか少し躊躇ったが、それを受け取って飲んだ。少し経って彼は落ち着いたようだった。それを見て私はホッとした。彼は私にお礼を言って、私は、落ち着いて良かった的なことを返す。そこで私は彼に質問してみる。そこから少しずつ会話になっていった。会話をしてみてわかったことがある。彼の名前は、双葉ふたば いつき 私と同じ年で東京から引っ越してきたらしい。そしてなんと私と同じ和佐高校に通うということに驚きだ!まさかこんな風に同級生に会うとは思っても見なかった。それが嬉しくて、彼ともっと親しくなりたいと思い、

「とりあえずこれからよろしくね!樹くん」

と名前で呼んでみた。すると彼は名前呼びはやめてと少し口調を荒くして言った。いろいろと良くないんだとか、少し距離を取られてしまったのを感じた。それでも私は親しくなりたいからついついからかってしまう。すると彼は少しムスッとしたあとに一瞬寂しく悲しそうな顔をした。そのタイミングで遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。美夢ちゃんが自転車でこっちにやって来ていた。スマホの時計を見ると10時になろうとしていた。なぜここだとわかったのか疑問になったが、美夢ちゃんにメールでここの桜並木の景色の写真を送っていたことを思い出した。するとこっちに来た美夢ちゃんが「その人は?」と聞いて来たので彼を紹介して、お互いに自己紹介をし始めた。彼が緊張しているのかすこし言葉に詰まっていて、微笑ましくなった。美夢ちゃんも来たことだし、「彼に1人で帰れるか」と聞くと、「たぶん大丈夫」とのことで私は「お大事にしてね」と言ってここで別れることになった。

彼と別れ、美夢ちゃんとしばらくまだまだ続く桜並木を歩く。すると美夢ちゃんが

「なんで、さっきの、双葉くんだっけ?となにしてたの?」

と聞いてきた。私は少し誤魔化すため

「人助けしてたの〜」

と間違ってはいないが少し言葉を濁す。

「なにそれ〜、絶対ちがうじゃん。」

「違わないよ〜」

続けて私はボソッと呟く。

「彼と話してみたかったんだよ、、、」

「ん?なんて言った?」

「なんでもないよ〜」

「え〜嘘だ〜気になるじゃん!」

「あはは、」

(双葉 樹くん。私は彼を知りたいなぁー)


翌日

朝少し遅く目覚める。ベッドから出ると目の前の机の上にある文房具と日記帳が目に入る。

(あれ?こんなもの買ったけ?)

(あ、そっか昨日美夢ちゃんと買いに行ったのか)

一瞬昨日のことを忘れかけていた。これから始まる学校生活のために買ったものだった。日記帳は私がもし記憶を失った時になんとなく対応できるようにと美夢ちゃんが言って、美夢ちゃんも日記をつけるらしく一緒に同じ物を買った。これまでは日記なんて怖くてつけていなかったが、いつまでも怖がらず、新しく挑戦してみると症状が変わってくるかもしれない。とりあえず今日からつけてみようと思った。


(それにしても昨日他にも何かあったような、、、まぁ、いっか!)

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