第2章 ② 「二つのイヌホオズキ」
高校に入学してから1カ月が過ぎようとしているある日。朝、僕は教室に向かって廊下を歩いていると自分のクラスの方から誰かの怒鳴り声が聞こえた。少し気になりながら教室を覗く。
すると一人の男子がもう一人の男子の胸ぐらを掴んでロッカーに押し当てている。周りの数人が止めに入ろうとしているが止めきれない。僕はその光景を見て驚いた。なぜなら胸ぐらを掴まれているのは、最近話す仲になった田辺くんだったからだ。
(どうして、田辺くんが胸ぐら掴まれているんだ、、、?)
いろいろと疑問に思うが唖然としてその場を動けない。そんなことをしている間に胸ぐらを掴んでいる男子が田辺くんを問い詰める。
「お前、はっきりと言えや!!なんでお前なんかの陰キャみたいな奴が北山と昨日一緒にいたんだよ!!てか昨日だけじゃない、時々お前と北山が一緒に登下校してるの見た奴がいるんだ!!お前ら付き合ってんのかぁ!!」
「ち、違うよ、つ、付き合ってなんかいないよ。」
「じゃなんで一緒に居たんだよ!!」
「そ、それは、そ、その、、、」
「はっきり言えや!ゴラァ!!」
より強く胸ぐらを掴む。
「く、苦し、い、、、や、め、て、」
「じゃ、ぱっぱっと言えや!!」
ここで胸ぐらを掴んでいる男子が誰だかわかった。彼の名前は加藤 陸翔いつも北山とかと一緒にいる陽キャ男子の中心人物だ。クラスのムードメーカー的存在で、サッカー部のキャプテンでもある。どうやら北山と田辺くんが一緒に帰っていたらしくそれが気に食わないらしい。
「おい、陸翔やめとけ!もうやめろ!」
「なんでや!入ってくんな!こいつがなんとも言わないのがいけないんだろうが!」
より強く胸ぐらを掴む。
(そんな状況じゃ言うものも言えんだろうが。)
僕は思わず、田辺くんと加藤くんの間に無理矢理割って入る。なんとなくいつも話しかけてくれる田辺くんがこんな状況になっているのを見て見ぬふりはできなかった。それに僕はどうやら正義感が強いらしい。
「おい!やめろよ!」
「双葉くん」
「なんや!入ってくんなや!俺はこいつに話があるんじゃい!!」
「それで胸ぐらを掴むのは違うやろが!」
彼がカッとなって怒鳴ってくるから思わずこっちも怒鳴ってしまう。しかしまた彼が僕を押し退いて田辺くんの胸ぐらを掴む。僕は押し出され頭に血が上り、逆に彼を田辺くんから引き離そうと強引に行く。すると今度は加藤くんが思いっきり地面に倒れ込んだ。それがいけなかった。彼がいきなり僕に向かって拳を上げ殴りかかる。
(ドゴッ)(ドンッ)
僕は地面に頭を打ち倒れ込んだ。
(やばい、痛い)
僕は立ち上がることができない。
「おい、ヤバいぞ」
「何やってんだよ!陸翔」
「ヤバ、殴ったよ、、、」
「マジやば」
周りの人たちがざわつき、廊下にも人だかりができ騒ぎになる。そんななか
「双葉くん、双葉くん、大丈夫?大丈夫?ごめんね、僕のせいで、ごめんね」
(違う、田辺くんは悪くない。僕が無理に行ったからだ。)
田辺くんが泣きそうな顔で僕のそばに来てすごく心配している。
(あ、あ、ヤバい、意識が朦朧と、す、、、)
「双葉くん、双葉くん、、、」
僕は意識を失ったらしい。気がついたら僕は保健室のベッドの上だった。近くには、田辺くんと北山さん、東雲さんがいた。
「ふ、双葉くん、大丈夫?」
田辺くんがまた心配そうに聞いてくる。
「だ、大丈夫だよ。なんとか」
「よ、よかった〜」
「ちょっといいかな?ごめんね〜、ちょっと見るよ〜」
と保健室の先生が僕たちの間に入ってきた。先生は僕が殴られた頬と頭を見る。
「見た感じ、頬は少し腫れて、頭はタンコブになっているくらいだから、氷で冷やしたら大丈夫そうかな?」
「すいません、ありがとうございます」
「とりあえず、大事に至らなくてよかった。じゃこの時間は安静にしてなさいね〜。先生はちょっと事情聞いてくるから」
「わかりました」
先生は保健室を出て行った。保健室には僕たち4人となった。すると北山さんが口を開く。
「ごめんね。今回の原因は私だから。本当にごめんなさい。」
まさか謝ってくるとは思わなかった。少し唖然としていると田辺くんが
「違うよ。春ちゃん、僕がちゃんと説明できなくて加藤くんを怒らせちゃったのがいけないんだから」
「違う違う、元凶私だから。勇ちゃんは悪くない」
2人が自分が悪いと言い合っている。いや2人は悪くないのに。僕と加藤くんの問題なのに。
僕は2人とも根から優しい人たちなんだと思った。
「2人とも悪くないよ。僕と加藤くんの問題だから、いろいろとごめんね。」
「違う私が、」
「いや僕が、」
2人は一向に引こうとしなかった。すると横にいた東雲さんが
「ゴホン、そんなこと言ってるとキリないでしょ3人とも。悪いのは殴った人なんだから。それに自分が悪かったって言う前に春ちゃんと勇くんは双葉くんにお礼が先でしょうが」
その言葉を聞いて2人はハッとして、僕に向き合う。
「双葉くん。僕を助けてくれて、ありがとう!」
「勇ちゃんを助けてくれてありがとう!」
2人がまっすぐな目で向き合ってお礼をしてきて僕は居た堪れない気持ちになった。
「いや、大したことじゃないよ」
「そんなことない!」
僕の言葉を食い気味に北山さんは否定してくる。
「あの状況で助けてくれるなんて、勇敢ですごくカッコいいよ!」
「あ、ありがとう」
ここで僕が否定しても彼女がまた否定すると思い彼女の言葉を素直に受け止めることにした。僕は少しむず痒くなって話題を変える。
「ところでさ、ちょっと気になったんだけどなんで名前にちゃんとかくん付けで読んでるの?」
「あ、あー」
3人が顔を見合わせてから僕に向き直る。
「あの実は、私たち3人幼馴染なんだよね〜」
「そうなの〜幼稚園からずっと同じでね〜」
僕はそれを聞いて驚いた。まさかこの3人が幼馴染だなんて予想だにしなかったからだ。
「じゃ、加藤くんが言ってた田辺くんと北山さんが一緒に帰ってだのって、、、」
「家が近所でたまたま一緒に居ただけなんだ」
「そうなんだ」
「おかしいよね〜加藤のやつ。別に勇くんと春ちゃんが一緒に帰っててもあいつに関係ないはずなのに。それなのに、勇くんを問い詰めて仕舞いには双葉を殴るなんて、どうかしてる」
東雲が少し口調を荒げながら言い、それを見ながら北山は複雑そうな顔をしていた。
「そ、そう言えば僕はもう大丈夫だけど、3人とも授業に戻らなくてもいいの?」
「あ〜、どうだろう?」
「サボりたいよね〜授業なんか〜」
「ダメだよ美夢ちゃんサボるなんて、怒られちゃうよ〜」
「と言いながら勇くんもサボりたいんじゃ、、、」
「や、やめてよ美夢ちゃん、、、」
「あはは、冗談だよ〜じゃ双葉くんも大丈夫そうだから私たちは教室に戻ろう〜」
「そうだね。双葉くん落ち着いたら戻ってきてね〜」
「うん、わかったよ。心配してくれてありがとうね。田辺くん」
田辺くんはその言葉を聞いてすごく嬉しそうに笑った。そして3人は僕がいるベッドのカーテンから出て保健室を後にする。僕は再び横になり、少し眠ろうとしたら急にカーテンが開いて北山さんが顔を覗かせた。
「双葉くん。本当にありがとう!じゃお大事に!」
そう言ってすぐ去っていった。
(嵐みたいな人だな。彼女は、、、)
そう思いながら僕は目を閉じた。
数時間後僕は特に問題なかったため4限目から授業に戻る。教室に入った時は少し視線を浴びて痛かった。身体の方は授業を受けても問題なく気づけば、昼休憩に入っていた。いつもだったら弁当は1人で食べるためあまり人が来ない旧校舎の屋上へ続く階段で食べる。今日もそのつもりで弁当を持って旧校舎の方へ行き、いつもの場所へ着く。するといきなり後ろから
「へぇー旧校舎にこんなところがあったんだ〜」
「びっ、くりしたぁ〜なんでいるの?北山さん?」
「え、いやぁ〜頭打ったのに1人で食べるなんて少し心配でさぁ〜」
「だからってついてこなくても、、、それに友達と食べなくていいの?」
「いいの、いいの!少し君と話してみたかったし」
「な、なんで?」
「いやぁーなんとなく?かな?」
「なんとなくって、、、」
「まぁいいじゃん!食べよ!食べよ!」
もう何を言っても彼女は聞いてくれなそうで僕は仕方なく彼女と一緒に食べることにした。
「ね、気になったんだけど勇ちゃんといつもなに話してるん?」
「、、、まぁ、趣味の話とか」
「へぇーそんなんだ!双葉くんの趣味なんなの?」
「読書と花が好きで花が映る風景を見ることかな」
「おお!どっちもすごいいいじゃん!私も本読むよ!」
「そうなんだ、、、」
このように彼女は一方的に僕に質問して僕はそれに答える。意外にも北山さんと本や漫画、アニメなどの好みが合って少しばかり話が盛り上がった。気づけば昼休憩も終わる時間になり、北山さんには今日のように他の人に誤解されても困るから先に戻るように促し、少ししてから僕も教室に戻った。教室に戻り、授業の準備をして席に着こうとしてると田辺くんが話しかけてきた。
「双葉くん、昼休憩教室にいなかったけどどこにいたの?」
その質問に僕はとっさに嘘をついてしまう。
「あ、あー、え〜と、先生に呼ばれてて、それで先生のところと保健室に寄ってたんだ〜」
「そ、そうなんだ〜」
田辺くんは少し疑念を持ったような顔をしたがすぐにいつもの笑顔に戻った。その後も授業が始まるまでたわいのない会話をしてると、視線があることを感じ、視線の感じる方を見る。北山さんと目が合う。すると口に人差し指を当てて「内緒ね」と言わんばかりの仕草をし、前に向き直った。僕はつい「何が内緒だよ」とツッコミたくなった。そんなことを考えてると先生が教室に入ってきて、5限目の授業が始まった。この後は僕の身体も何事もなく全ての授業、ホームルームが終わり、やっと帰路に着くことができた。今日一日はすごく長く感じた。
まぁいろんなことがあったからだろう。家に着くと母が出迎えてくれた。
「ただいま」
「おかえり、樹。先生から連絡があったんだけどあんた今日クラスの子に殴られたの?てか大丈夫なの?」
「うん、大したことはないよ!心配かけてごめん。」
「いいのよ。あなたが大丈夫って言うなら。」
「父さんにはこのことは?」
「まだ伝えてないけど、、、」
「伝えないでくれないかな?」
「どうして?」
「父さんに言ったら、殴った相手方の方に抗議しに行くでしょ?もう彼のこと責めたくないし、責めてほしくないから。」
「そ、そうなのね。わかったわ。樹がそんなふうに言うなら言わないでおく。けどね、、、自分の身体を大事にしてね。まだこれからどうなるのかわからないのだから。」
「うん。わかったよ。母さん。」
そう言って僕は自分の部屋に行く。母さんにも心配させて本当に申し訳ないと思った。確かに母さんの言ってた通り、僕はこれからどうなるのかわからないのだから。




