第1章 「ある日の黄色いゼラニウム」
僕はこの先、平穏に生きていくとばかり思っていた。しかしそう考えながら満開の桜を見ている高校1年生になる僕は野に咲く一輪の花のような彼女に出会ってしまう。僕はいろいろあってこの春、東京からこの町へ引っ越してきた。人付き合いをしなかったおかげか友達はいなかったため心残りはなかった。しかし清々しい気持ちにはなれず、引っ越しの片付けがひと段落ついた今、こうして町を散歩している。両親には迷子にならないようにと言われた。小学生じゃあるまいし、スマホのマップを見ればわかるし大袈裟すぎる。そんなことを思いながらマップを見て引っ越すときに気になった場所へ足を運ぶ。それが堤防敷の桜並木だ。花が好きな僕にとっておきの場所だ。もともとここは海沿いの堤防だったが埋め立てをして海からは少し離れてしまっている。にしても桜並木がずっと続いている。思わず、
「すげー、まるで桜のトンネルだ。」
と心の声を漏らしていた。そしてスマホのカメラを構える。幸い朝と言うこともあってか人はそんなにいない。いい写真が撮れた。微かに海の匂いがする風が桜吹雪をつくって心地いい。気持ちが落ち着く。あまりにも綺麗で興奮していろんな写真を撮り、撮り終わったら花に触れてみる。桜の香りが薫る。そんなことをしていると視線に気がつき振り向く。ある女の人と目が合う。凛として整っている顔立ち、桜吹雪に長い髪をなびかせる姿はとても美しい。野に咲く一輪の花のように美しい桜とはまた違う美しさを醸し出している。思わず見惚れてしまう。ハッとして気まずくなり目を逸らす。その瞬間、突然目の前がフラつき倒れかける。
(しまった。いろいろと見惚れて興奮して身体のことを考えていなかった。)
その時誰かに支えられるのがわかった。
「ち、ちょっと、だ、大丈夫ですか?」
さっきまで見惚れていた彼女が透き通る美しい声で話しかけてくれた。そうして支えられながら地面に座り込む。すると彼女が飲みかけの水を差し出す。
「ごめん。ここら辺自販機ないからとりあえずこれ飲んで。」
「すいません。頂きます。」
(ゴク、ゴク、ゴク)
「大丈夫そ?」
「本当にすいません。少し落ち着きました。ありがとう。」
「いえいえ、よかった〜。」
彼女はホッとしたのか胸を撫で下ろす。
僕は間接キスをしてしまい少し気まずくなって目を合わせれない。すると彼女が、
「貧血だったのかな?ひとまず一安心だ〜。」
笑顔で話してくれた。続いて
「そういえば家近く?あまり見ない顔だから。」
「うん。3日前こっちに引っ越してきた。」
「そうなんだ〜。こっち来る前はどこいたの?」
と彼女は興味津々に聞いてくる。
「東京にいた。生まれてからずっと。」
「へぇーいいな東京ー」
「僕はこっちの方がいいと思うけどね。こんな綺麗な桜並木見たことないし。」
「すごいよね!ここ!私お気に入りの場所なんだ!」
「そうなんだ。」
すごく明るく自慢するように話す。僕は、陽キャというのはこんな感じだったと思い出す。だからかまた目を合わせず逸らす。
「ところで自己紹介がまだだったね。私は北山春花。春から高一!あなたは?」
「僕は双葉樹。同じく僕も高一だよ。」
「そうなの?!高校どこどこ?」
彼女は目を見開いて驚きながらすごい勢いで聞いてくる。
「和佐高校だよ。」
それを聞いて彼女は口に手を当てて驚いていた。
「マジで?!本当に?!」
「うん。」
「私も和佐高校なんだよ!」
「そうなんだ。」
「なんでそんな軽いの?すごいじゃん。」
「そうかな?」
「そうだよ!とりあえずこれからよろしくね!樹くん」
僕は名前呼びに思わずムッとなってしまう。
「うん。よろしく。だけど名前呼びはやめて。」
「なんでなんで?いいじゃん。樹くん。」
「よくないから。いろいろと。」
僕の事情も知らないのに馴れ馴れしくしてついカッとなってきつい口調になってしまった。しかし彼女は気にしてない様子で
「仕方ないな〜。じゃ双葉くんって呼ぶよ〜。ただそのうち呼ばせてもらうからね〜!」
「そのうちが来ないと思うけど。」
「それはどうかなぁー?」
と含みのある言い方でニヤニヤしながら言ってきた。すると遠くから
「春花〜ごめん待たせた〜。」
「おっともうそんな時間か。」
スマホ見ながら彼女はそう言う。
僕は思わずスマホの時間を見た。時刻はもうじき10時になろうとしていた。
「ごめんごめん。思ったより準備に時間がかかっちゃった〜。」
「いいよ!全然大丈夫!」
「よかった〜。春花その人は?」
そう言いながら僕をみる美人でポニーテールいかにもスポーツ女子って感じの女子がそこにいた。
「この人は双葉樹くん。私たちと同じ高校なんだよ!さっきたまたま会って話してたんだー!」
「そうなんだ、、、あ、私は東雲美夢よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします。」
少しジロジロ見られてキョドってしまうついでに目を合わせれず泳いでしまう。
そんな様子を見ながら北山さんは微笑んでいる。
「じゃ、いつ、双葉くんここから帰れる?もし無理なら家まで送るけど、、、?」
「だ、大丈夫だよ。」
「そう?じゃ私たちは行くね〜。お大事にしてね!」
「うん。」
そうしてこの日は別れた。僕はこの後無事になにごともなく家に着くことができた。しかしいろいろとあったせいか家を出てから2時間ほど経っており、両親には連絡もしてなかったためすごく心配され、何があったのか散々聞かれた。今日のことを話すと両親は
「同じ高校なんだし、彼女にしっかりお礼を言いなさい。」
と言われた。わかってるし、お礼を言わないといけないのは、、、それに今日はずっと目を逸らして話してて失礼だったと思うし、いろいろと詫びなきゃなぁ〜と思いながら眠りについた。
この時はこの出会いが僕の平穏を変えるとは思ってもいなかった。




