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深更のミナ  作者: 安房 カズサ
第二章 入隊試験編
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第十九話 受験番号2199

ミナの受験番号――2199番が指定されている3階のP教室に着いた。


すでに他の受験生たちは着席しており、室内は低いざわめきに包まれている。

多くの受験生が膝の上や机にタブレットを置き、戦闘のコツや過去の試験映像を食い入るように見ていた。

武器の握り方、立ち回りのパターン、敵の行動予測――映像の中で教官の声が淡々と解説している。


教室の前の壁には、座席表が大きく映し出されていた。

ミナの席は、右端の一番後ろから二番目。


深呼吸をひとつして、机の間を抜けながら自分の席を探す。

(……あった、2199番)


机の端には「2199」と印字された透明なプレート。

椅子を引いた瞬間、背中のリュックが後ろの席の人に軽く当たった。


「あっ、すみません」


振り向きざまに頭を下げた、その時――


「あ"っ?」


聞き覚えのある、あの憎らしいガラガラ声。

先程、廊下で横柄な態度を見せていた少年が、足を大きく広げて座っていた。

タブレットには、敵を吹き飛ばす派手な必殺技の映像が一時停止されている。


「なんでお前がいんだよ」

少年は口の端を歪める。


「いや……受験番号2199だから」

ミナはタブレットを開き、自分の受験票を示した。


「俺は2200」


そこでミナは息を呑んだ。

もしかして………

考えたくない。考えたくないけど――


一次試験合格者は2200人。そして、すぐ後ろにはこの少年。つまり……


「私、一次試験の結果……最下位から二番目ってこと……?」


受験票を見下ろしながら、ミナの肩が落ちる。


「はっ? どういう意味だよ。俺が最下位って言いたいのかよ」

少年がすぐさま食ってかかる。


「いや、逆にあなたみたいな人、よく受かったよね? こんな態度悪いのに! なんで面接受かるの?」


「さすがに面接の時はちゃんとしてたよ。……バカか、お前」


「はぁー?」

ミナは思わず口を大きく開け、言葉を失った。


「……そういえば……お前、第七地球(ヴィルゴアース)の住民だったってホントなのかよ」


少年は手のひらを擦り合わせながら、小さな声で言った。


「そうだけど?? ……あんたも私が第二地球(オヒュークスアース)のスパイだって言いたいの?」


何度も何度も同じことを言われてきた。

もう疲れた――そう思いながら、ミナはなげやりに言い捨てる。


「……いや……」


少年は少し黙り込み、ふっと目線を落とした。

さっきまでの刺すような視線ではない。

声も、どこか柔らかくなっていた。


「……お前も、結構苦労してるんだなって思って……」


「えっ…」


思わぬ方向からの柔らかな言葉に、ミナは睨んでいた表情をゆるめる。

ほんのわずか、胸の奥の緊張がほどけかけた――その時。


「おはようございます」


教室の前の画面に、中年の四角い顔の男が映る。

足を広げていた少年も姿勢を正す。


「これより宇宙防衛隊候補生選考2次試験を始めます。」


静かだった室内が、ぐっと緊張で引き締まる。

ミナは思わず背筋を伸ばし、両手を膝の上で組んだ。


(……ここで挽回しなきゃ……)

心臓の鼓動が、ゆっくりと、しかし確実に速くなっていく。


――――――

二次試験は武器を使って、受験生同士が一対一で行う模擬戦闘だ。

受験番号の若い順にペアが組まれ、1番は2番と、3番は4番といった具合に戦う。

ミナの相手は、あの横暴な態度の少年。名前はカケルというらしい。


この試験では、勝敗そのものが合否を決めるわけではない。

たとえ負けても落ちるとは限らず、逆に勝ったからといって合格が約束されるわけでもない。

重要なのは、戦いの中で示す総合的な戦闘技術と判断力だ。

しかし、勝った方が合格に有利なのは明らかだ。


模擬戦闘は、専用の装置を使って仮想空間に入り込み行われる。

ミナはこれまでに、ナツキとの訓練で何度も経験していた。


その空間は、現実とほとんど変わらない感覚を再現している。

風が肌をかすめ、地面の硬さも伝わる。攻撃を受ければ本物さながらの衝撃と痛みが走るが、あくまでそれは仮想上の感覚であり、現実の体に傷が残ることはない。


だからこそ、思い切った動きができる一方で、痛みは恐怖心を呼び起こし、訓練とはいえ本能を試される場でもあった。


そして、武器は自身で持ち込んだものを使う。


控え室には、金属や合金の鈍い光があふれていた。

大剣、長槍、衝撃銃――受験生たちがそれぞれ磨き上げた武器を手にしている。


その中で、ミナの両手にあるのはひとつの柔らかく輝く球。――魄玉(はくだま)だ。

金属音の響く空気の中、その静かな光は、かえって異質だった。


「おい、それが武器かよ」

カケルは鼻で笑う。


「……確かに、これは武器じゃない……」


ミナが魄玉をぎゅっと抱きしめる。


「これは……第七地球(ヴィルゴアース)の死んだみんなの(たましい)。私にとっては、家族そのものなんだ。」


カケルは一瞬、視線をそらし、気まずそうに口を動かす。

「……なんか……いちいち重い奴だな」


――そうだ。私は、他の誰とも背負っているものが違う。

何十億の第七地球(ヴィルゴアース)の屍を背負っているんだ。


失敗は許されない。ここで躓くわけにはいかない。

生き残った意味を、自分の手で作るために――


こんな半端な奴に、負けるわけにはいかない。

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