第十三話 夜空の下の笑顔
深夜遅く。
宇宙船は、静かに宇宙防衛隊のポートに着艦した。
待っていたのは、安堵の表情を浮かべるナツキと、いつも通りむすっとした顔のタクミだった。
やがて、ハッチが開く。
階段の上には、胸に魄玉を大切そうに抱いたミナの姿があった。
「……ナツキさん……」
かすれるような声を漏らしながら、ミナは小走りで階段を駆け下りる。
その小さな身体を、ナツキは無言でぎゅっと抱きしめた。
「……ナツキさん、ごめんなさい。勝手なことして……」
ミナの言葉に、ナツキは静かに首を横に振る。
「……おかえり。」
涙をこぼしながら、震える声でそう言った。
そのひと言が胸に沁みて、ミナの目にも自然と涙があふれた。
「ミナ、魄玉、取ってこられたんだね。すごいよー!」
そう言いながら、ナツキはミナの頭を両手でわしゃわしゃと撫でた。
タクミは少し驚いた顔をしたまま、その様子を見ている。
ミナはハッとタクミの方を向いた。
「タクミさん、本当に……宇宙船を貸してくださって、ありがとうございました!」
深く頭を下げる。ミナの茶色がかった髪が、ふわりと前に垂れた。
「……早く、宇宙船のカギ返せ。」
タクミは照れを隠すように、そっぽを向いて言った。
「えっ? 宇宙船にカギなんてあるんですか? いつも隊員用の頭のチップで動かすから……」
「……バカ。システム障害用に物理キーもあるんだよ。それくらい、隊員なら常識だ。ちゃんと覚えとけ。」
ぶっきらぼうに吐き捨てるように言うタクミ。
ナツキは眉をひそめた。
「でもっ。これでタクミさん、ミナのこと、認めてくれるんですよね?」
ナツキは人差し指で、タクミの額をつつく。
「…ふっ。武器を手に入れたって、宇宙防衛隊の試験に受からなければ宇宙防衛隊にはなれない。」
そう言いながら、タクミはミナの方に向き直った。
「精々、宇宙共通語の勉強でもしとくんだな。」
わざと見下ろすような態度。
ミナはこくんと、小さくうなずいた。
「カギはこっそり返しておく。……お前らも、さっさと帰れ。」
タクミはそう言い残し、本部の建物の中へと歩いていった。
「なんか……やーなかーんじー」
遠ざかるタクミの背中を見つめながら、ナツキが口をへの字に曲げる。
「ですねっ」
ミナは満面の笑みで応じた。
星たちの輝く夜空の下、二人は顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。
そして、止まらなくなったかのように――しばらくのあいだ、くすくすと笑い続けていた。
――――――
遠くの物陰に、宇宙船用ポートにいる三人を見つめる一人の男の影があった。
金髪の髪は後ろにかき上げられ、薄い紫味のかかったサングラスをかけている。
ミナとナツキの笑った顔を、男は訝しげに見つめていた。
(あのガキ……第七地球でひとり生き残ったっていう、ミナってやつだよな。)
男は顎をわずかに動かし、低く息を吐いた。
(……ルイのやつ、まさか……取り逃したってことか?)
紫のサングラスの奥で、冷たい光が走る。
深更のミナ 第一章 地球滅亡編 ー完ー
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
第二章は9/1から投稿予定です。
またお時間のあるときに読んでくださったら嬉しいです。