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深更のミナ  作者: 安房 カズサ
第一章 地球滅亡編
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第一話 午後0時

深い夜の空には 永遠に続く暗闇が広がっている。

その暗闇は残酷に私から光を奪ってくる。

昼休みが始まるチャイムがなった直後。6年2組の教室にはざわめきと、カーテン越しの陽射しが柔らかく降り注いでいた。


「ねえねえねえ!昨日バズってたツイート見た?? 時計塔の上空にUFOがいたってやつ!!」


前の席の女子が椅子をくるっと回し、目を輝かせながら振り返る。

彼女の言葉に、近くの数人が顔を上げた。


「えー、またそういうネタ? どうせ合成写真でしょ。見た目はそれっぽいけどさ」


隣の男子が笑いながら言うと、すぐにまた別の子が声を重ねた。


「でもね、実際に“見た”って人、かなり多いんだって!テレビでもやってたし!」


子どもたちの会話はどんどん盛り上がっていく。誰かがタブレットで画像を開き、周りに見せながらキャッキャと笑う。


「ねえ、ミナはどう思う? 宇宙人とか、UFOとか、信じる?」


ふいに名を呼ばれて、ミナはノートから顔を上げた。

彼女は少しだけ間を置いて、穏やかに答える。


「宇宙人かぁ……」


そうつぶやいた声には、まるで夢の中の話をしているような口ぶりだった。


そのとき、教室の時計が、午後0時ちょうどを指した。


「ねえ……ちょっと、外見て」


隣の席の女子が、急に不思議そうな声でつぶやく。


ミナもつられて窓の方を見た。


空が、壊れていた。


真っ青だった昼の空に、白く鋭い亀裂が走っていた。まるで空そのものに、ガラスのようなヒビが入ったように。


その白い亀裂は、じわりじわりと広がっていく。


そこから漏れ出す光は、徐々に強く、そして熱を帯びはじめた。

青空の色はすでに消え失せ、白く焼けるような閃光が、教室の中を斜めに貫いてきた。


「なに、あれ……?」


教室のあちこちでざわつきが広がる。誰かが立ち上がり、別の子が叫びそうになる、そのしゅんか――


パアアアアアアッッ


音もなく、強烈な白い光がすべてを包んだ。


教室の景色がにじみ、色が消えていく。


気づくと、ミナ以外のすべてのクラスメイトが消えていた。教室には誰もいない。机の上にはプリントや教科書がそのまま残っている。

ざわめきも、笑い声も、椅子を引く音も、すべての音が教室から消え去っていった。


「みんな……? 」


時間が止まったような静寂のなかで、ミナはただ立ち尽くしていた。

人がいなくなったのは6年2組の教室だけではなかった。隣のクラスも、下の学年のクラスも、体育館にも、職員室にも、どこにも人がいないのだ。


(これは夢? )


ミナは学校の外に出た。町は静まり返り、人の気配がまるでない。

人影のない交差点には、信号の色だけが無意味に切り替わり続けている。

そして、道路には、複数の車が、ぶつかり合ったまま動かずに止まっていた。ボンネットが大きく歪み、フロントガラスには亀裂が走っている。車の中にはまだハンドバッグや買い物袋が残されているが、運転していたはずの人の姿はどこにもない。


まるで、一瞬のうちに誰もかもが消え去ったように。


ミナは家に帰った。玄関の扉を開けても、いつもの温かい香りはなかった。


「……お母さん?」


……返事は、なかった。

テレビの画面がつけっぱなしになっていたが、砂嵐がザザァ……と無機質な音を鳴らしているだけだった。


(一体…何がおこったんだ?)


ーーー


「お姉ちゃん、一緒寝ようよ」


ある日のこと。

パジャマを着た妹の未希ミキが、ミナの部屋の前で不安そうな顔してのぞいていた。


「また何か怖い動画見たんでしょ。仕方ないなぁ……いいよ。」


ミナは困ったように笑って、未希と同じ布団に入った。


「ねぇ、20××年の7月、本当に地球最後の日がくるのかな?」


「そんなの、ただのデマだよ。大丈夫。」


「でも隕石が落ちてきて、みんな死んじゃうって……」


ミナは未希をそっと抱き寄せた。


「平気だよ。みんな一緒なら、怖くないよ。天国にだって一緒に行けるんだから。」


ひとりぼっちが一番怖いーーー


(もしかして、今日が地球最後の日?みんな死んで私だけ生き残ったってこと?でも今日は5月だし…。それとも私があのとき死んで、ここはあの世ってこと?)


ミナは未希の部屋のベッドのうえで、枕を抱きしめたまま、その場に膝をついた。息が詰まるほどの孤独が、胸を締めつけてくる。


「みんな…一人にしないでよ…」


ミナが呟いたその瞬間だった。


——ガシャーン


背後から、窓ガラスが砕け散る音。

反射的に振り返ったミナの視界に、ひとりの少年の姿が映る。


見知らぬ少年だった。

ボサボサの髪。くたびれた、薄い服。

手足には、いくつものあざや傷が生々しく浮かんでいた。

無言で、ただじっとミナを見ている。


(人だ!)


心臓が跳ね上がる。

恐怖よりも先に、安堵が涙を誘った。


幽霊かもしれない。不審者かもしれない。でも、そんなことどうでもよかった。


「あの……!」


言いかけたその瞬間、少年の姿がふっとかき消える。


(え……?)


混乱する間もなく、背後からぬるりと腕が伸びてくる。

ミナの身体が固まる。

冷たい手が、彼女の口を塞いだ。


ー殺される!!


全身を稲妻が走るような恐怖が貫いた。

叫びたいのに声が出ない。身体が動かない。


視界が、ぐらりと揺れる。

頭がぼうっとして、意識がすとんと落ちていくーー


ミナはその場に、音もなく倒れ込んだ。



ーーーーーーー

真っ暗な宇宙に、爪のように鋭く尖った一つの小さな宇宙船が光より早い速度で走行していた。宇宙船は漆黒の外装で、真っ暗な宇宙に溶け込んでいる。


機内には20代半ばくらいの女性と30代前半ほどの男性が座っていた。


無機質な空間に、突如として無線の声が響く。

「おとめ座超銀河団方面からSOS信号受信。

戦闘部隊第8班、出動を命ずる」


「ナツキ、行けるか?」

男性が操縦席にいる女性に声をかける。


「はいっ、タクミ班長」


「敵の罠の可能性もある。くれぐれも気を付けるように」

無線の向こうの声が重く続く。


黒い宇宙船は応えるように、音もなく空間をすべり、光の彼方へと消えていく。


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