異世界に豊橋カレーうどんを持ち込んだら、なぜか教祖になった件
しいなここみさまの華麗なる短編料理企画参加の一品です。
なにも考えず読んでください。
この物語を豊橋の友人に捧ぐ
「な、なんだこの料理は!今までに食べたことがない味!とてもおいしい!」
この料理が、世界を変えた。
◇ ◇ ◇
「落ち着いて聞いてください。あなたはトラックにひかれ、亡くなりました。あなたが望むなら他の世界に転生することができます」
俺は概要などを聞いた後、転生を希望した。
「義務とかって、あるんですか?」
「そうですね、私への毎月のラブレターですかね」
「それは考えておきます、他にないなら転生させてください」
「それでは前世にとらわれず、幸せにお過ごしください」
担当の天使が笑顔で送り出してくれた。
◇ ◇ ◇
俺が転生して、1か月がたった。
いまのところ、楽しく過ごしている。
まず、冒険者ギルドに登録した。
そこで出会った男3人とパーティを組んで、生活費を稼いでいる。
直近で受けた仕事は、「貴族のボードゲームの相手」だった。
ボードゲームはチェスだったので、学生の時チェス同好会だった俺が勝利した。
仲間から「接待しろよ」と怒られたが、気にしていない。
楽しい毎日。でも、なにかがたりない――そう思った。
◇ ◇ ◇
――それは、店頭で”とろろ”のような芋をカッピカピにした商品が売っているのを見た時だった。
あぁ、足りないものって、これだったんだと直ぐにピンときた。
とろろもどきを購入し、拠点へ早足で戻る。
夏の暑さを俺の高揚感が打ち消していた。
キッチンに立った俺は、急いでカレーを作り始める。
異世界なのに存在した「米」を器によそう。
米は素晴らしい。これまでに10人くらいは救ってると思う。
米の上に買ってきたとろろもどきをのせ、うどんをのせ、出来上がったカレーをかける。
ちなみにうどんはそこまでコシがない。
何はともあれ。
――豊橋カレーうどんのできあがり!
そう、俺の出身、豊橋市の名物、豊橋カレーうどんである。
実際には豊橋市民でもあまり食べたことがない人がいるらしいが、ご当地創作料理にはよくあることだろう。
この料理、カレーが好きで、麵も好きである俺にぶっ刺さった料理なのだ。
一口食べて味を確認すると、パーティメンバーたちにもふるまった。
「これはうまいな」
「お前料理できたんだ、不器用だと思ってた」
「売れるよ、これ!」
若干一名失礼なやつがいた気がするが、気にしないこととする。
とにかく、うますぎるので冒険者活動の傍らで一日10食限定で売り出した。
すると、これが好評だった。
俺は調子に乗って豊橋カレーうどんの販売を拡大した――。
◇ ◇ ◇
転生から1年がたった。
あれから、豊橋カレーうどん――もとい「カレーウドンオブトヨハシ」はすごく人気になった。
ちなみにトヨハシは俺の本名だと思われている。
その人気は、街を歩けばすぐにわかるほどだ。
もともとは武器屋だったであろうカレーウドンオブトヨハシの店。
もともとは洋食屋だったであろうカレーウドンオブトヨハシの店。
カレーウドンオブトヨハシの壁画が描かれた王宮。
――なんでだよ。
そこまでならもう国旗もカレーうどんにすれば?
周りの人々の会話でも。
「いや――オレ、もともと冒険者だったんだけど、麺棒のほうがあってたわーw」
とか言っている鍛え上げた剣さばきで麺棒を振る男。
「スパイスの調合に……魔方陣はいらない……」
ぼそぼそつぶやく魔導士。
――くるっちゃったな。
その片鱗は、教会の中でも――
「やはり、下から上へと混ぜるのが正義なのです!」
「いやいや、おいしいものは上からそのままいただくのがよろしいでしょう」
そう、あらそう二人。そして――
「君たち、争うな。仲良く食べるとよりおいしいのだ」
そう言う俺。
「教祖様、今日もカレーウドンオブトヨハシがおいしいです」
「教祖様」
「教祖様!」
――そう、最初に豊橋カレーうどんを広めた俺は「教祖」として認識されているのだ。
意味が分からない。
まぁ、でも――
おいしければいっか。
豊橋:愛知県の市です。
豊橋カレーうどん:豊橋の名物です。うまい。
私は豊橋の出身ではありません。