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第40話 無言の協力

ティムはレイナの遺体に目を向けた。彼女の最後の戦いを思い出し、その勇気から力を得た。


「レイナ、お前の力を借りるぞ」


レイナの傍らに落ちていたショットガンを拾い上げる。冷たい金属の感触が、現実の重さを伝えてきた。


「今だ!」


狼型ボスの頭部に照準を合わせ、引き金を引いた。轟音と共に放たれた散弾が装甲に命中し、赤い結晶表面に浅い傷が刻まれた。


怪物が怒りに満ちた咆哮を上げ、巨大な体でティムに向かって突進してきた。床が震え、その質量に圧倒される。


メアリーが咄嗟に動いた。教師として培った冷静な判断力が、瞬時に状況を分析する。


「ティム、続けて!」


鉄棒で怪物の側面を叩き、注意を逸らそうとした。


「パパ、頑張って!」


アールが再び缶詰を投げつける。その小さな行動が、父親に勇気を与えた。


「レイナさんのために!」


ヴァージニアも続き、芸術家の感性が怪物の動きのパターンを読み取ろうとしていた。


「ウーちゃん、守って!」


ジュディがぬいぐるみを投げる。その純粋な祈りが、奇跡を呼び起こすかのようだった。


子供たちの行動が、巨大な熊型の動きをわずかに鈍らせた。ナノマシンの制御系統に、何らかの混乱が生じているようだった。


ティムはその隙を逃さず、ショットガンを再び構えた。


「まだだ!」


連続で発砲し、弾丸が熊型ボスの頭部を直撃した。装甲に亀裂が走り、赤い結晶から不気味な光が漏れ始めた。


その時、シェルターの奥から足音が響き、武装した警備員たちが駆けつけてきた。彼らの表情には恐怖が浮かんでいたが、セクター7を守る使命感が体を動かしていた。


「援護する!」


先頭の警備員がプラズマ砲のスイッチを入れた。装置が唸りを上げ、緑がかった高熱の光線が放たれた。光線は熊型ボスの装甲を貫き、金属が溶解する激しい音と共に、焦げた臭いが広がった。


熊型ボスが初めて明確な苦痛の反応を示し、巨体が一瞬怯んだ。


「今だ!」


ティムがショットガンの最後の一発を放った。弾丸は怪物の頭部の亀裂に吸い込まれるように命中し、内部で何かが破裂する音がした。


警備員たちも一斉にプラズマを浴びせた。複数の光線が交差し、熊型ボスを緑の光の檻に閉じ込める。


「やれ!」


誰かが叫び、最後の集中砲火が始まった。緑の光線が怪物を貫き続け、装甲が次々と剥がれ落ちていく。赤い結晶が激しく明滅し、まるで断末魔の叫びのようだった。


ついに、巨大な熊型ボスが最後の悲鳴と共に崩れ落ちた。12メートルの巨体が床に激突し、シェルター全体が大きく揺れた。衝撃で立っていられない者も多く、埃と破片が舞い上がる。


倒れた怪物の体からは、灰と赤い液体が流れ出し、床に不気味な模様を描いた。徐々に赤い光が消失し、ナノマシンの活動が停止していく。


シェルター内に、信じられないような静寂が訪れた。住民たちは互いを見つめ、自分たちが生き延びたことを確認し合った。


ティムはショットガンを床に置き、震える手で額の汗を拭った。


「やった…やったぞ」


声には安堵と疲労、そして小さな誇りが混じっていた。


メアリーが子供たちを抱きしめ、その温もりを確かめるように強く抱いた。


「みんな、よく頑張ったね」


母親としての愛情と、教師としての誇りが声に滲んでいた。


「レイナさん、見ててくれたよね」


アールが壊れたタブレットを握りしめながら、天井を見上げた。


「私たち、強くなった」


ヴァージニアがスケッチブックを抱き、新たな決意を胸に刻んだ。この戦いの記憶を、いつか絵にすると心に誓った。


「パパ、ママ、すごいよ」


ジュディが両親を見上げ、その小さな顔に誇らしげな笑顔を浮かべた。


「お前らがいるから勝てた」


ティムがメアリーを見つめ、家族の絆の強さを改めて実感した。


シェルターの出口へ向かおうとした時、後方でカイがアールを呼び止めた。


「アール、僕たちここでお別れかな」


少年の声には、別れの寂しさと友情への感謝が込められていた。


アールが振り返り、涙を堪えながら答えた。


「うん…でも、また会えるよね?」


カイが力強く微笑んだ。


「うん、きっとだよ。科学者になって、いつか君を探す」


二人の少年の間に、時を超えた友情の約束が交わされた——無言の誓い。


リサがメアリーの肩をそっと掴み、母親同士の理解が言葉を超えて伝わった。


「ありがとう、あなたたちに会えてよかった。気をつけてね」


メアリーは涙を抑えて微笑み、同じ母親として、生き抜く決意を共有した。


「あなたたちも生きてね、必ず」


ティムが頷き、男としての約束を口にした。


「必ず、未来を変えて戻ってくる」


その言葉を胸に刻んで、一家は決意を新たにシェルターを出る準備を始めた。


怪物の残骸から漏れていた赤い光が次第に弱まり、シェルター内の空気が少しずつ浄化されていくように感じられた。まるでレイナの魂が、最後の仕事を終えて安らぎを得たかのように。


外の世界ではまだ灰嵐が吹き荒れ、危険は完全に去ったわけではない。しかし今この瞬間、彼らは生き延びた。それは単なる生存以上の意味を持っていた——希望を繋ぎ、未来を変える可能性を手にしたのだ。


そして、レイナの遺したメモがメアリーのポケットで静かに待っている。過去に戻り、未来を変える希望の種が、確かにそこに息づいていた。


「何があっても一緒よ」


メアリーが囁いた。その言葉は、新たな重みを持って響いた。

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