表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/61

第16話 空からの攻撃

手がアクセルを一気に踏み込み、車体が突然の加速に悲鳴を上げた。エンジンが、限界を超えて咆哮する。鳥が屋根に爪を引っかけ、軋む金属音が全員の背筋を凍らせた。


ティムが身を乗り出した。


「どうすればいい!?」


助手席の下を探り、古い金属パイプを見つけ出した。


「これが頼りか…」


肩の痛みが鋭く走るが、武器を握る手に力を込めた。家族を守る、その一念で。


鳥が窓に嘴を叩きつけ、ガラスが砕け散った。破片が車内に飛び散り、ヴァージニアが悲鳴を上げた。


「もう嫌だ!」


でも同時に、彼女の目は鳥の動きを追っている。描くために、記録するために。


メアリーは即座に娘に覆いかぶさった。


「ヴァージニア、こっちに!」


ガラスの破片が、星のように舞う。


ジュディが泣き叫んだ。


「ママ!」


ウーちゃんを強く抱きしめた。ウーちゃんの銀の模様が、一瞬強く光る。


アールが叫んだ。


「窓から入ってくる!」


咄嗟に手近なタブレットのケースを鳥に投げつけた。小さな抵抗だが、勇気ある行動。


レイナは一瞬だけ少年に目を向け、認めるように頷いた。


「咄嗟の判断、良いぞ」


アールの目が一瞬輝いた。認められた喜びが、恐怖を和らげる。


ティムはパイプを振り上げ、鳥の頭部を力いっぱい打った。鈍い音が響き、赤い目が一瞬揺らいだ。


「くたばれ!」


父親の怒りが、武器に宿る。


鳥は怒りの咆哮を上げ、力強い翼で車体を叩きつけた。ランドマスターが横に大きく揺れた。世界が、一瞬傾く。


レイナが突然叫んだ。


「助手席の下!射撃用の散弾だ!」


その声に、プロの戦士の片鱗が見える。


メアリーは我に返り、素早く手を伸ばした。


「これ!?」


散弾のカートリッジを見つけ出すと、レイナは即座に命じた。


「手渡せ!」


膝にあったショットガンに弾を込めながら、レイナは静かな決意に満ちた声で説明した。


「ナノイドには電子兵器より物理攻撃が効く。組織の再構築を妨げるんだ」


口元に一瞬浮かんだ笑みは、この荒廃した世界でも戦い続けてきた強さの証だった。孤独な戦いの、小さな勝利の積み重ね。


鳥が再び屋根に爪を立て、車体全体が震えるように揺れた。レイナは躊躇なく窓から身を乗り出し、ショットガンを構えた。風が短い黒髪を激しく揺らし、目には冷静な計算が宿っていた。獲物を狩る、冷徹な狩人の目。


引き金を引くと、耳をつんざく轟音と共に散弾が放たれた。鳥の胸に命中し、血と金属の破片が砕け散った。血が、オイルのように黒い。


火薬の強い匂いが車内に広がり、鋭い金属音と共に鳥は一瞬怯んだ。レイナは即座に弾を入れ替え、2発目を放った。


2発目の弾が翼を貫き、骨が砕ける乾いた音が響いた。鳥はバランスを崩し、刹那の悲鳴を上げて灰の大地に墜落していった。悲鳴が、人間の声のようにも聞こえる。


車内が一瞬静まり返り、全員の荒い息遣いだけが響いた。


「レイナ、あなたすごい」


ヴァージニアが小さく呟いた。恐怖と賞賛が入り混じった声。


しかしその安堵は、地面の震えによってかき消された。低い咆哮が荒野に響き渡った。大地が、巨大な太鼓のように振動する。


アールが叫んだ。


「何!? また何か来た!」


後部窓から外を覗いた。


灰嵐の向こうから巨大な影が猛スピードで突進してきた。ランドマスターの後部に激突し、車体が宙に浮くように跳ね上がった。一瞬、無重力を感じる。


影が灰の中から姿を現した—ナノマシンによって変異したサイだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ