ターニングポイント
路地裏を抜けると、突如として翅を包んだのは、大通りを照らす燦然たる光と群衆の歓声であった。
光に目を慣らしつつ視線を上げると、通りの両端に住民が列をなし、その中央を屈強な護衛に守られた金箔の馬車が進んでいる。
車内に目を凝らせば、白銀の髪を揺らし、紅の口紅を引いた女が、王冠を戴き、華麗なドレスに身を包んでいた。
「王冠...そういえば俺が今いるところは王国だから... もしやあの人、王女か?」
「ぷっ」
隣にいた商人が噴き出す。
「おいおい、にいちゃん。もしあんたが旅人だとしても、ソレは世間知らずにも程があるぜ?どー見ても“フラン女王”だろ。」
「フラン女王?」
翅がきょとんと問い返す。
「なんだ、本当に知らないのか。フラン女王はこのユウヒア王国の1番上の上の上の存在!!華麗なる美貌を併せ持ち。私の心を撃ち抜いた天使よりも天使の存在!!あぁ!!女王!!!女王ぉぉ!!!!!」
圧倒的な熱量に翅は困惑した。
「……そ、そうなんですね。ご丁寧にどうも!では、これで!!」
男の弁を背に、翅は馬車を追った。剥げ落ちた金箔の欠片さえ売れるのではと考えたからだ。
人間としてのプライドに欠けると言われるかもしれないが、翅にとっては生きる方が先決だった。
そのとき、並ぶ家々の屋根の上に人影が浮かぶ。黒布を纏う男が女王を指さしていた。
次の瞬間、その指先に光の球が収束する。
アニメや漫画でよく見た「指先から光を放つ」という光景に酷似していた。
脳裏をよぎるのは最悪の未来――女王暗殺。
翅はジャージのポケットから拳銃を抜き取る。
(頼む!火薬も何も詰まっていないが、動いてくれ!)
銃口を狙撃者に向け、指に力を込める。
(いや、もしもアレは暗殺とかでもなんでもなかったら、俺はただの犯罪者になるんじゃないか?)
頭を振り払い、翅は叫ぶように心で決意した。
(やらない後悔よりやって後悔!どうとでもなれ!!当たれ!)
発砲音が轟き、群衆の歓声は一瞬にして掻き消えた。
弾丸は男の頬を掠めただけだった。だが、男の指先は逸れ、光弾は馬車の車輪を粉砕した。
光弾が女王に直撃していれば、命はなかっただろう。
護衛たちが即座に陣を組み、馬車を囲う。
群衆の視線は当然のごとく翅に集中し、駆けつけた騎士の拳が彼を打ち倒した。
次に翅が目を覚ましたとき、目に映ったのは豪華な天井だった。
「お目覚めになられましたか。少々お待ちを。」
体を起こすと、傍らに人影はない。頬に触れても痛みはなく、傷跡も消えている。
やがて扉が開き、水色髪ポニーテール男と、その背後に控えるメイドが現れた。男は部屋に入るなり深々と頭を垂れる。
「本当に申し訳ありませんでした!」
「え?」
唐突な謝罪に翅は驚く。男は顔を上げ、真摯な声音で続けた。
「あなたは我が女王を暗殺の危機から救ってくれた英雄ということは後に知りました。あの時の無礼な私をお許しください。」
(あ、こいつ 俺を殴った男じゃねぇか!)
「治癒魔法で傷が完全に治したはずですが、また痛みますか?それとも、何か不都合が?」
「あぁ、いやいや。そーゆーことじゃないんです。ちょっと困惑しちゃって」
翅が苦笑すると、男は改めて口を開いた。
「名乗り遅れました。私はユウヒア王国王認騎士。マルクスと申します。差し支えなければ、あなたの名を。」
「あぁ、マルクス...さんですね。よろしくお願いします。俺は天野翅です。」
「アマノ・ツバサ様。とりあえず、場所を変えましょう。このままだと少し話しづらいですし。」
「そ、そうだな...」
豪華な廊下を抜け、案内されたのは客間だった。そこには個性豊かな鎧を纏う二人の騎士、そして鋭い眼差しを持つ壮年の男が座していた。その真正面の椅子に翅も座した。
「初めまして、ユウヒア王国兵士団団長ゴーレンドと申します。」
「あぁ、初めまして。天野翅と申します。」
「この度は恩人であるアマノ様に多大なるご迷惑をお掛けしたことを、心より謝罪いたします。申し訳ございませんでした。」
マルクスも隣で頭を下げる。
「あー!いやいや、もうあのことはなんも気にしちゃいないんで大丈夫です。頭、上げてください。」
「しかし、女王の命の恩人に無礼を働いたのも事実、何かお詫びをさせてください。金銀でも、なんでも。」
(……ほう。なんでもか...金も住まいも欲しいけど、ここで欲張りすぎるのもよくないな。そうだ!)
「それじゃあ。俺をこの王国の兵士団の一員にしてください!」
その客間にいた騎士とマルクスが翅の想定外の要望に驚いた。
「えっ?そんな要望で構わないのですか?あなたは女王の命を救った男。もっと欲張ってもいいのでは?」
「こら、人の決めた事にいちいち口を出すな。マルクス。」
「翅様。了解いたしました。それではユウヒア王国の兵士団に所属するための手続きを行います。少々お待ちを。アスパ、資料をもってこい。」
ゴーレンドの背後に控えていた騎士が静かに部屋を辞した。
残された空気の中で、ゴーレンドがゆるやかに問いかける。
「にしても珍しい。王国の隊員など望む者はほとんどいないのに。何か特別な事情でも?」
「ん〜、特別っていうほどでもないんですけど、今一文なしで家も金もないんですよね。団に入れば全部供給されるかな、と思って。」
翅の率直すぎる答えに、ゴーレンドは思わず笑みを洩らした。
「そのような理由で入団を希望する者は初めてです。その通り、全て支給されます。」
一拍置いて、彼は探るように視線を細める。
「ですが、無一文で家も金もない。と言うことは、旅人……ということですかね?」
その言葉に翅は頭を抱えそうになった。
よくよく考えれば、自分は「気づいたらこの世界にいた」存在であり、旅人とも浮浪者とも言えない。
そもそも――なぜここに来たのか。帰る術はあるのか。
能天気な性格ゆえに、今までまともに考えなかった問いが不意に胸を突いた。
「アマノ様?」
「あっ、えーと。えーと。そう、俺は旅人です。遠い国からこの国まで。」
とっさに口をついたのは、真実を覆うための嘘だった。
別の世界から来たなどと言えるはずもない。
「なるほど、やはりそうでしたか。ちなみにその遠い国というのは?」
「えーと、日本ってところなんですけど...知ってますか?」
「"ニホン"...聞いたことがない国ですな...」
「わたくしもです。」
ゴーレンドが眉をひそめ、マルクスも首をかしげた。
翅の背に冷や汗が流れる。――もしや出身地次第で入団が拒まれるのか。
「まぁ、兵士団の入団希望に出身地は関係しないので、ご安心ください。」
「あぁ、それはよかった。」
胸を撫で下ろしたところで、先ほど出ていった騎士が書類を携えて戻ってきた。
机上に置かれた羊皮紙に、ゴーレンドが羽ペンを添える。
「これが“仮契約”の契約書です。サインを。」
「え?仮?」
翅が思わず声をあげる。
「そうですね、いきなり入団とはいきません。まだ兵士団についての説明や事前準備等もできていませんので。」
「あぁ、確かにですね。」
翅は契約書に署名した。
「ありがとうございます。これでアマノ様……いや、アマノは“仮入団”。ということだ!これからはおれの部下としてもよろしく頼む!」
「は、はい!」
唐突な大声のフレンドリーさに翅は驚いたが、同時に胸の奥が温かくなる。
“仮”とはいえ、国に属することを認められたのだ。
食事も、住む場所も、国が保障してくれる――翅は心底ほっとした。
「今日はもう遅い、明日またいろいろ説明しよう。アスパ、使っていない寮の部屋まで案内してやれ、そこで休むといい。」
「りょーけー、きて。」
アスパに導かれるまま、翅は数分歩き、兵士寮とおぼしき建物の前に立った。
少し古びた扉の前で、アスパが気だるげに振り返る。
「ここ、なんか用あったらそこら辺のやつに聞いて。じゃ。」
「えっ」
言うが早いか、アスパはその場を離れてしまった。
一瞬困惑したが、すぐに気持ちを切り替え、扉を押し開ける。
中にはベッドと、素朴な机と椅子が置かれているだけの質素な部屋だった。
だが路上で寝続けてきた翅にとっては、そこは天国のように思えた。
翅は深く息を吐き、与えられた寝床に身を横たえた。
――こうして、彼はこの世界で初めて安らかな一夜を迎えることとなった。
第四話 完。
天野翅 17歳
自称発明家。自らの発明品で事故にあい、異世界へ転移してしまう。
マルクス・フィリング 王認騎士 19歳
ゴーレンド 兵士団団長 32歳
アスパ・ワートラント 王認騎士 26歳
この文章は、私が設定、下書き、台詞などを下記終えた後に内容等を一切改変せずAIに読みやすいよう文章を書き換えさせています。(文学が疎いためです)
AI書き換え後も目を通し、自分なりの表現を加えたり、キャラクターの個性を崩すことがないよう細心の注意を払っています。