スタートライン
清澄な風が頬を撫で、翅はのどかな景色の中を歩いていた。やがて視界の先に賑やかな商店街が現れる。
――ここが、あの馬車に轢かれた場所なのだろうか。
そう思った瞬間、彼は思わず口を開けたまま固まった。
通りには見たこともない品々が並んでいる。干からびたオレンジ色の魚、棘に覆われた水色の果実。頭に猫耳を生やした女性や、額に角を持つ男性、牙を覗かせる子どもたち。大樽を積んだ馬車が行き交い、異彩を放つ光景が、翅の感覚を一気に異世界へと引きずり込む。
「うぉお! 俺、本当に異世界に来たんだーーー!」
目を輝かせたまま商店街を練り歩く翅。しかし、通貨は見慣れた紙幣や硬貨ではなく、金貨・銀貨・銅貨。
ふと立ち止まり、重要な事実に気づく。
「あれ、俺って……無一文じゃないか?」
にもかかわらず、焦りはない。異世界なら何とかなる――そんな楽観が胸を支配していた。だが、その淡い期待はすぐに打ち砕かれる。
商人も宿屋も、無銭の者に容赦はなかった。理屈では当然のことだが、翅はひどく肩を落とす。
「せっかく異世界に来たのに……ホームレスかよ……」
日が傾き、彼は路地裏に身を寄せた。そういえば水も食事も取っていない。ため息と共に薄汚れた壁にもたれかかる。
その時――コロッと音を立て、足元に小さな光が瞬いた。翅は思わずそれを拾い上げる。掌に伝わる、説明のつかない熱。日光ではない。石そのものが熱を発している。彼は即座に仮説を立てる。
――魔石だ。
指先で撫で、軽く突いてみる。すると、表面の角がぽろりと取れ、地面に落ちた瞬間、炎が噴き出した。炎は魔石を中心に広がり、やがて石が小さくなると共に消滅する。
翅は確信する。
――炎魔石、だな。
「これは……発明に使える!」
だが、手元にある素材は小さなバネとネジだけ。これでは何も作れない。捨てられた金属片やパイプも見当たらず、再び絶望が胸を覆う。
――そうだ、まだ、スキルがあるかもしれない。
希望を取り戻した翅は魔石を置き、構えを取る。
「はっ!」
……何も起こらない。
力を込めても、跳び蹴りしても、ただ汗が流れるばかり。20分ほど悪戦苦闘した末、頭の中に「終。」の二文字が浮かび、翅はふて寝した。
翌朝、商店街のざわめきで目を覚ます。このざわめきは、元いた世界と変わらないものであった。
...試しにもう一度腕を突き出すが、結果は変わらない。ならば――魔石を売って銭を得よう。
翅は魔石をポケットに入れ、買い取り先を探し歩く。陽の当たらぬ細道で、怪しげな看板のかかった扉を見つけた。布袋を抱えた客らしき男が出てくるのを見て、彼は直感する。
中には、白髪の老人が一人。翅は歩み寄り、声をかける。
「あの、ここって魔石、買い取ってもらえたりしますか?」
「あぁ、サイズによるがな」
拳ほどの魔石を見せると、老人は頷いた。
「銀貨1枚、銅貨4枚だ」
「うぉー! ありがとうございます!」
初めての稼ぎを手に、翅は上機嫌で屋台へ向かう。棘付きの水色果実を齧れば酸っぱく、水を飲めば普通の水だったが、それでも満たされるものはあった。
次に向かったのは工具屋だ。もしここで素材を手に入れられれば、発明ができる。商店街の中心部で見つけた店には、大柄な店主と共に元いた世界とは若干異なるドライバーやペンチ、釘、針金が並ぶ。翅がドライバーを手に取った瞬間――
白光が視界を覆い、世界の音が途絶えた。
『才能発芽――物あれば創造が叶う』
その言葉と共に光は消える。翅は悟った。
――スキルが発芽した。
「お、おぉ! 感じる! 俺にもスキルあったんだ!」
「はぁ? さっさと選べ!」
店主の一喝に慌てて部品を購入し、路地裏へ戻る。
(物あれば創造叶う...まさか。発明系のスキルが発芽したのか...?)
スキルを確かめるべく、部品を前に目を閉じると、作れる物と設計図が繊細に頭に浮かぶ。
(こ、これだ。俺のスキル!)
翅はその喜びを強く噛み締めた。その後、スキルを試してみようと、浮かんできた物を選別する。
――拳銃と弾丸二発。
これに決めた。
「この世界に銃刀法あるかわかんねーけど……やってみるか!」
決断した瞬間。手元に必要な工具が現れた。
「これ、使っていいんだよな?」
こうなると翅は止まらない。翅の手は驚異的な速さで動き、部品が形を変え、一寸の狂いもなく組み上がっていく。2分後、手には素朴な拳銃と弾丸があった。同時に、工具も消えた。
(スキルすげぇ...!素材が多少足りなくてもいいし、工具は無料だし、作業スピードは段違いではえぇ!)
翅はその拳銃の動作確認をするため、落ちていた木の枝を標的に引き金を引く。轟音と共に枝は粉々になり、翅は尻餅をつく。
「うぉっ! やった!」
異世界初の発明。胸の奥で歓喜が弾ける。また、その喜びを強く噛み締める。
『別のものを作りたい』と言う衝動に駆られ、再び目を閉じるが何も浮かばない。――素材をすべて使い切ったのだ。
翅は再び一文無しとなり、大きな魔石を探して路地を歩き出した。
完
天野翅
自称発明家。自らの発明品で事故にあい、異世界へ転移してしまう。
この文章は、私が設定、下書き、台詞などを下記終えた後に内容等を一切改変せずAIに読みやすいよう文章を書き換えさせています。(文学が疎いためです)
AI書き換え後も目を通し、自分なりの表現を加えたり、キャラクターの個性を崩すことがないよう細心の注意を払っています。