無機質な天井
天野翅 17歳
発明好きな17歳の少年。自らが発明した物により事故を起こし、異世界へ転移する。
視界が揺らぎ、耳を劈くような叫び声が鼓膜を突き抜ける。
それが自分に向けられたものだと、なぜか直感的に理解できた。
──そう思った瞬間、世界が再びぐらりと傾いだ。
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「あっ……」
次に瞼を開いたとき、翅を迎えたのは無機質な白の天井だった。
肌に馴染まぬ布地の衣服。半分だけ引かれたカーテンの隙間から差し込む淡い光。
そして、自分が横たわるベッドの脇には、木製の簡素な椅子が一脚。
此処はどこだ? 何が起きた?
頭の中に疑問が次々と湧き上がる中、その渦の奥でひとつだけ妙に胸を高鳴らせる予感があった。
──これは……異世界転生? いや、転移……?
そんな馬鹿げた想像に浸ること数分。
翅は、まず誰かを呼ぶべきだという結論に至る。
「誰か……誰かいませんか!」
少し大きめの声で呼びかけると、コツコツと規則正しい足音が近づいてくる。
反射的に布団を握りしめた。
やがてドアが開き、現れたのは翅より背の高い、灰色の長髪を持つ女性だった。
モノクロを基調としたメイド服が、その立ち姿をより端正に見せている。
思わず口が半開きになったまま固まる翅に、彼女は静かに告げた。
「お目覚めになりましたか。亭主のグインカーテン様をお呼びいたしますので、しばしお待ちくださいませ」
「えっ、ちょっと……」
言いかけた声を遮るように、彼女はわずかに腰を傾け、すぐさまドアを閉めた。
足音が遠ざかっていく。
──グインカーテン? 名前か?
耳慣れない響きだ。日本はおろか、海外でもそうそう聞かないだろう。
数分後、再び足音が近づき、ドアが開く。
先ほどのメイドと共に、細身のスーツを端正に着こなした、少し窶れた黒髪の男が現れた。
「お目覚めになられたようで、何よりです」
「はぁ……」
思わず力の抜けた返事が漏れる。
この人物がグインカーテンなのだろう。西洋風の顔立ちだが、どこの国の人間かは見当もつかない。
「それにしても、馬車と正面衝突したというのに、擦り傷ひとつないとは驚きました」
「ちょっと待って。僕、馬車に轢かれたんですか?」
「……覚えていないのですか?」
驚きの表情を浮かべたグインカーテンは、静かに説明を始める。
「あなたは私の乗る馬車に、商店街で正面から衝突されたのです。おそらく頭を打たれたのでしょう。──ステイト、彼を治療室へ」
「いや、待った待った」
メイドが近づくのを片手で制する。
「治療は大丈夫です。それより、ここはどこですか? 日本じゃないですよね」
「ニホン……? その名は聞いたことがありません。ここはユウヒア王国です。まさか旅行者か何かですか?」
──ユウヒア? 日本を知らない?
頭の中で、ひとつの可能性が大きく膨らんでいく。
「いや……旅行というか、気づいたらここにいたんです」
「気づいたら……ふむ。移動系魔法の失敗に巻き込まれたのかもしれませんね」
──移動系魔法?
「ちょっと待った! それって、魔法って、炎とか氷を出すやつのことですか?」
「はい。そうですが……どうかされましたか?」
「い、いや……なんでもないです。ただちょっと、ド忘れしちゃって」
妙な言い訳をしつつも、翅の耳には「魔法」という単語がしっかりと残った。
「ともあれ、怪我がなくて何よりです。あなたの衣服や荷物はこちらで保管していますのでご安心を。外出できそうであれば、このステイトにお申し付けください」
横に立つメイドが一礼する。
「あっ……まだ聞きたいことが──」
「申し訳ありません。最近は激務が続いておりまして。では、失礼」
そう言い残し、グインカーテンとステイトは部屋を後にした。一つの足音が止み、一つの足音が遠くなる。
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「……はぁ」
翅はひとり呟き、頭の中を整理する。
──部屋で作業をしていて、忘れ物を取りに行こうとして、配線に足を引っかけ、エネルギーバスターに横腹を刺され……気づけば馬車に轢かれていた。
「……って、意味わかんねぇ」
だが確かに、あの男は移動系魔法と言った。
この世界には魔法が存在する。
そして、メイド、亭主、馬車……。
胸の奥で密かに輝いていた予感が爆ぜる。
──ここ、異世界ってことだよな!!!
叫び出したい衝動を必死に抑え、鼓動を整える。
だが同時に、妙な疑念も浮かぶ。
──俺、いきなり馬車の前に出てきたヤバい奴じゃないか?
──それに、どれくらい寝てたんだ?
「……早めに出たほうがいいかもな」
そう考え、外にいるステイトを呼んだ。
「はい、お荷物の件でしょうか?」
「あー、はい。お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
出て行くメイドの後ろ姿を眺めながら、翅はふと考える。
──本当に俺、異世界に来たのか……?
やがてステイトが籠を抱えて戻ってきた。
「こちらに衣服などをお入れしております。準備が整いましたらお呼びください」
籠の中には、中学校のジャージ、ボールペン、小さなバネとネジが入っていた。
着替えを済ませ、全てポケットに詰め込むと、再びステイトを呼ぶ。
「準備できました」
「では、私についてきてください」
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二分ほど廊下を歩くと、大きな玄関扉の前に辿り着いた。
「普段ならグインカーテン様がお見送りされるのですが、激務のため今回は私のみで失礼いたします」
「あぁ、ありがとうございます」
扉が開き、光が差し込む。
庭を抜け、大きな門の前でステイトが立ち止まった。
「それでは、お気をつけて」
「あの、ステイトさん」
翅は真剣な面持ちで口を開く。
「忙しい中、こんな当たり屋みたいなことして、しかも部屋まで貸してもらって……本当にありがとうございました。グインカーテンさんにも、お礼と謝罪を伝えてください」
「承知いたしました」
「ありがとうございます」
深く頭を下げるステイトに会釈を返し、翅は門を抜けた。
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空気は澄み切り、雲ひとつない青空が広がっている。
童話の挿絵の中を歩いているような気分だ。
しばらく進むと、賑やかな商店街が見えた。
──あそこが、俺が轢かれた場所だろうか。
そう思いつつも、まずはこの世界を知るため、足を向けることにした。
この文章は、私が設定、下書き、台詞などを決めた後に内容等を一切改変せずAIに読みやすいよう文章を書き換えさせています。(文学が疎いためです)