鈍い音と夢。井の中の蛙は壮絶を見る。猫は宇宙で人間を見る。浮浪者は此処で発明をした。阿保は安堵で踊り狂う。失格者は宇宙を目指した。
部屋のドアが微かな音を立てて開くと、そこに立っていたのは、一瞥しただけで怠惰な生活ぶりが窺える十七歳の少年──天野翅。
彼は今日も例によって「秘密基地」と殴り書きされた札を掲げた部屋に籠り、春休みという希少な時を享楽的に費やしていた。
その熱中の対象は「発明」である。ただし、それはエジソンやニコラ・テスラが成し遂げた革新的偉業の類ではなく、少年漫画に登場するような、男の浪漫を凝縮した架空の装置づくりだった。
翅は、小さなバネとネジを掌に包み込み、細かな粉塵が舞う作業机に向かう。
机の傍らには、彼が誇る最新作──「エネルギーバスター」が鎮座していた。その外観はテスラコイルを思わせ、電源を入れればチリチリと放電が走る。これは、彼が生み出した二十四番目の作品である。
「……あれ、置いてきたかな」
そう呟き、忘れ物を取りに席を立った瞬間、足元のたこ足配線となったワイヤーに足を絡め取られる。
傾きながらバランスを失う翅の視界の端で、エネルギーバスターの電源が入った。
倒れ込む拍子に、その先端が彼の横腹を直撃する。
「ぐっ、あっぇぇぁ」
強烈な衝撃が全身を貫き、身体の自由が奪われた。
──息ができない。
視界が滲み、輪郭が溶け、
滲み、
馬車に衝突した。
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「いいからさっさとどけよ”番犬”!」
男が両手に握る双剣に焔をまとわせ、刃と刃を激しくぶつかり合わせ、
「エルフ・バーンズ!」
叫びと同時に、剣を覆っていた炎は獣のように形を変え、一直線に槍を構える男へと襲いかかった。
「すまないが、わたくし達はここを通す訳にはいかないのですよ。」
槍の男。番犬が静かに穂先を突き出す。瞬間、猛る炎は霧散した。
場所は煉瓦造りの地下道。洞窟にも似た閉塞空間に五人の男たちが対峙していた。二対三の構図。崩落した壁面や黒く焦げた痕跡は、すでにこの場で激烈な衝突が繰り広げられた証拠である。遠くの壁と比べてこの場所の壁は顕著に崩れていたため、一目で理解できる。
「ヴァールズ... 貴様。何が目的でここへ来た。」
「お前には関係ないだろう?」
短く返すヴァールズの隣で、クジョウ・サツキが心底退屈そうな面持ちで口を開いた。
「はぁ... お前ら俺らに勝つつもりなのかもしれないけどさ、無理だから、無理無理。そもそも"忘却"の対処もしているわけだし、俺らはお前らが対処できない力を持ってる。”変性”に勝る魔法なんて聞いたことがない。ほら、わかっただろ、どいたどいた。番犬!ハウス!」
挑発の言葉に、番犬の隣で傷口から血を滴らせるキリヤマが怒りに顔を歪める。脱力した手から落ちかけた鉈を拾い直し、利き腕ではない方で構えた。
「落ち着きなさい、キリヤマ。それではすぐやられる。少しでも足止めをしなければ。」
「そう....で....すね....」
荒い息遣い。満身創痍の様子を見て、クジョウの口元に嘲笑が浮かぶ。
「はぁ...そんなんじゃ戦えないでしょ。今逃げたら助け
「もういいだろう。時間の無駄だ。お前らは番犬を狙え。」
割り込むように命じたのは、“嫉妬”の二つ名を持つアリアスであった。
「はぁ...ちっ...」
不承不承、クジョウは構えを取る。ヴァージンもまた刃を構え、番犬も冷静に相手の動きを見据える。
最初に動いたのはヴァージンだった。稲妻のごとき速度で間合いを詰めると、次の瞬間には番犬の手前で膝を脱力させ、無駄のないステップから剣を首筋へと振りかざす。しかし番犬の目はその一挙手一投足を捉えていた。槍の柄で剣を受け、もう片手を顔前で振り、その手から突風を生み出し紺色の炎を打ち消した。
(はぁ...火だけに見せかけて突風の魔法も出したが見破られたか....しかも労力を最低限に減らすため突風の腹の部分に手を入れて消失させやがった....)
少しもの隙を見逃さず、ヴァージンのもう一振りが胴を狙って突き込まれる。だが番犬は既に先を読んでいた。突き入れられた箇所は氷結されていて、刃を受け止める。氷片が散り、それを確認したヴァージンは素早く元の間合いへ退く。
「はぁ.... 今の初見殺しを攻略されたのは久しぶりだ。僕の変性の魔法も防ぐ... お前なんなの?」
「王女を守るために10年間精神と技術、魔法を鍛え上げただけの騎士です。そんな子供騙しにやられるような木偶の坊ではありません。」
「んだとっ!」
激情に駆られたクジョウの足元に魔法陣が展開される。
「ぁまりなめてんじゃねぇぞ!ぼんくるぅぁッ!」
絶叫と共に腕を振り抜く。無数の黒光が嵐のごとく番犬へ襲いかかった。
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「キリヤマ、お前は良い土台だ。ぜひどうなるか、見てみたい。」
「は...なに.....」
アリアスの低い声とともに、キリヤマの膝が崩れ落ちる。突如、全身が重くなり、動作が制御できない。
「こ、これは....」
「"感夢"。簡単に言えば、夢の中でうまく走れなくなるあの感じ、あの状態にする能力。いや、才能。」
隣で戦う番犬は応戦に忙しく、こちらを振り向く余裕はない。だがキリヤマの眼光はまだ折れてはいなかった。鋭い視線をアリアスに突き立てる。
無言でアリアスが指をキリヤマに向ける。指先から放たれたのは、闇をまとった光。
「キリヤマッ!」
気づいた番犬の叫びが響いた。しかし、それは遅かった。
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1話 完
この文章は、私が設定、下書き、台詞などを下記終えた後に内容等を一切改変せずAIに読みやすいよう文章を書き換えさせています。(文学が疎いためです)
AI書き換え後も目を通し、自分なりの表現を加えたり、キャラクターの個性を崩すことがないよう細心の注意を払っています。