SF 小説【食のない世界】
2145年、地球はもはやかつての豊かさを失っていた。食料は枯渇し、人類は生き残るために別の方法を見つけなければならなかった。科学者たちは、人間が植物のように光合成をすることでエネルギーを得られるように遺伝子を改良した。
これにより、人々は太陽の下で静かに立ち、光を浴びて生きることができるようになった。
ヒカルは、この新しい世界で生まれた最初の世代の一人だった。彼は毎日、他の光合成の子供たちと一緒に、静かな広場で太陽の光を浴びていた。彼らは話すことも、動くこともなく、ただ光を吸収し、生きることに集中していた。
ある晴れた日、ヒカルはふと目を閉じ、内省の旅に出た。彼は自分自身に問いかけた。
ヒカル「 なんで僕はここにいるんだろう?ただ光を浴びて、それで終わり?」
第二のヒカル「 いや、もっと大きな理由があるはずだ。君は何かを感じないか?」
ヒカル「 感じる?僕たちは感じることを忘れてしまった。ただ生きるために光合成をしているだけだ。」
第二のヒカル「 でも、君の心は何かを求めている。感じること、愛すること、夢を見ること。」
ヒカル 「感じる?愛する?夢を見る?そんなことができるのかな?」
第二のヒカル「 もちろんだ。君の中には無限の可能性がある。外に出て、世界を探検してみないか?」
ヒカル「 でも、それは危険じゃないか?」
第二のヒカル「 危険はある。でも、リスクを冒さなければ、新しいことは何も始まらない。」
ヒカル「 新しい始まりか...それは魅力的だな。」
第二のヒカル「 そうだろう?さあ、立ち上がって、一歩を踏み出そう。君の物語はこれからだ。」
ヒカルは、自分の内なる声に耳を傾け、初めての一歩を踏み出した。
ヒカルが静かに一歩を踏み出したその瞬間、彼の行動は周囲の「光合成する人々」にとって異質なものだった。彼らは一斉に動きを止め、ただ黙って彼を見つめた。何かを言うわけでもなく、非難するわけでもなく、その場の空気だけが重く圧し掛かるようだった。
彼の行動はすぐに監視システムに記録され、科学者たちの元に報告された。ヒカルがまだ知らないうちに、彼の「異常行動」は研究所内で緊急事態として扱われることとなった。科学者たちは動揺し、顔を突き合わせて議論を始めた。
科学者A「彼は明らかに規範から逸脱している。すぐに対処しなければ、他の者たちにも影響が出る可能性がある。」
科学者B「だが、彼の行動は新しい可能性を示しているかもしれない。これを研究する価値があるのでは?」
科学者C「いや、そんなリスクは取れない。彼の影響で秩序が乱れたら、全体が崩壊してしまう。」
最終的に、ヒカルを拘束し隔離するという決定が下された。理由は単純だった。
「光合成規範を乱す存在は排除されるべき」。それがこの新しい世界の絶対的なルールだった。
彼の行動は人類規格外な行動と見なされ、社会から排除されることになった。彼は、自由と夢を求める代償として、太陽の光が届かぬ地下へと幽閉された。
ヒカル「なぜ僕は罰を受けなければならないんだろう?ただ、自分の意味を見つけたかっただけなのに。」
第二のヒカル「 本当の意味を見つける旅は、時に危険を伴うものだ。でも、君の勇気は他の人々に影響を与えるだろう。」
ヒカルは、自分の選択を後悔しなかった。彼は、自分が信じる道を歩んだことに誇りを持っていた。彼の物語は終わりを迎えたが、彼の精神は生き続ける。
ヒカル「 僕の物語はここで終わるけど、僕の思いは永遠に続くんだ。」
ヒカルは、自分の心に従い、光合成の規範を破ったため、地下深くに幽閉され太陽の光が一筋も届かないその場所で、彼は孤独と寂しさに包まれながら、静かに息を引き取った。
【食のない世界】 BAD END