メガネの襲来
混乱する五十嵐 拳の手を引いて、フォルだと名乗る少年は入り組んだ道の先にある建物に拳を連れ込んだ。
「な、なぁ、フォル君?今のは一体…」
フォルは拳を睨みつけ言った。
「フォルでいい。さっきのは依頼があったターゲット。」
机にコツンと音を立てて、銃が置かれる。
「…!本物か?」
「やるよ!お前には今日から番犬になって貰うからな!」
話を聞くと、フォルは頭は優れるが力が無いらしく、フォルの護衛として仕事をして欲しいとのことだった。その報酬は衣食住の提供。
悪くないだろ?と得意げな顔で説明された。
確かに、まともに就職できそうにない拳にとっては嬉しい話だ。だが、拳には一つ引っかかる要素があった。
「…その仕事は人を殺す仕事か?それなら、俺は…やりたくない。」
真剣な眼差しでフォルを見つめる拳にフォルは小さくため息をつき、口を開いた。
ガシャン!ガチャン!バタドタバタ!
その瞬間入口から、音がした。その音はどんどん近くなり、変わった色のスーツを着た男が部屋に入ってきた。
「フォールきゅん!!オイラのかわいいかわいいフォルきゅん!お仕事持ってきたよぉ!今日の仕…」
その男は拳を見て、笑顔を真顔に変え言った。
「は?誰お前。」
男はズカズカと拳に近づきながら言う。
「誰だよお前!なんでフォル君の家にフォル君以外がいんの?そうか!侵入者か!フォル君。怖かったね、辛かったね!安心して、こんな獣、僕がすぐに追い出すから!フォル君はオイラの強さまだ認めてくれてないけど、オイラにかかればこんな奴朝飯前…いや3日前の晩飯前だね!覚悟しろよ?ドブネズミ!!!」
3分ほど経っただろうか。あの男は依頼人兼情報屋兼掃除屋兼同業者らしく、「メガネって呼べばいい」とフォルが教えてくれた。
赤く腫れた右の頬を擦りながら、メガネは話す。
「ええん?オイラ心配だなぁ。こんな奴がフォル君の番犬だなんて。」
拳は少し傷つきながらも答える。
「こんな奴じゃなくて、五十嵐拳だ。よろしく。」
今度は大きなため息をして、フォルが話した。
「拳。さっきの話の続きだけど、無理に殺さなくても、戦闘不能状態にすればいい。そうなれば、僕がとどめを刺したり、メガネが掃除するときに殺したりするから。」
それを聞いても、曇った表情を見せていた拳にメガネが言った。
「おい五十嵐!罪悪感とかそういう話をしたいなら見当違いだぞ。オイラが持って来る仕事は全員大悪党だ。殺したら、ヒーローになれるくらいのな。」
拳がヒーローにあこがれていた時期は周りより長かった。いわゆる、戦隊物とか覆面ライダーとかは高校2年生まで観ていたし、ヒーローに憧れて、中高は空手部に入っていた。でも、以前の拳は弱く、周りにバカにされ、いじめられた。それ以来、ヒーローには憧れなくなった。
そのヒーローになれる。その一言は拳に深く刺さった。
「…やる。俺、フォルの番犬やるよ!」