就職先の決定
大都会 東京。それぞれが就職先を見つけ、新しい生活に慣れ始めた頃、五十嵐 拳は未だ就職出来ずにいた。
「なっ……何してくれるんだ君は!!」
あるときは、面接会場のドアをぶっ壊し、
「もう……もう許して下さい……」
またあるときは、危うく人の命をもぶっ壊すところだった。
そう、五十嵐 拳は怪力バカだったのだ。
「本っ当に!!申し訳ありません!!!」
ただ、その欠点を除けば、心優しい純粋無垢な青年であり、罪を償おうとして、新たな罪を作り出してしまう悲しきモンスターなのだ。
「なんで、こんな力…」
拳の悩みは計り知れないものだった。というのも、この力は拳自らが望んで手に入れたものではなく、3か月ほど前に突然生まれたものだったのだ。
そのせいか、体自体は筋肉が付いてるようには見えず、将来の不安に背中を丸めた普通の青年に見える。
「ねぇねぇ兄さぁん。ちょっとこっち来てくれません?見て貰いたいのがあってぇ…」
薄めの柄シャツに身を包んだ男3人組が拳に話しかける。
「えっ?…いいですけど……」
見るからに怪しい状況でも、拳は疑わずについて行く。
人気の無い路地裏に入り、少し経った頃、拳はごつい男7人に囲まれていた。
「にぃちゃん…あんたバカだろ?のこのこと呑気について来ちゃってさぁ…」
「もうちょっと気を付けた方がいいぜぇ…こういう事になるから…なっ!!」
1人が振りかざしてきた金属バットは拳の腕で鈍い音を立て、止まった。
「痛いな。なんだ?これはショーか何かか?済まないが、俺はリアクションが苦手でな…」
拳のその様子に全員がたじろいだ。
「うぉぉぉ!!」
勇気を出して襲ってきた男を拳は軽く流した。
男はその場に倒れ込み、血を流して唸っている。
拳が しまった!と思ったと同時に5人が一気に攻めてきた。
拳が軽く流したつもりでも、相手には致命傷になるらしく、3分後、拳の周りには計6人が倒れていた。
残るは174cmの拳も見上げるほどの巨体を持つあからさまなボスだけだった。
「あの…すいません。警察と救急車呼ばないと…」
拳の言葉には耳を貸していない様子で、
「よくも…俺の部下をこんなにしてくれたなぁ…」
さすがの拳も頭に(死)の文字が浮かんでいた。
どんどん壁に追いやられる拳とボキボキと指を鳴らしながら近づく男。
死ぬのも時間の問題と思われた。その時。
パァン
日本では聞き慣れない音が響いた。
目を開けた拳の前には頭を打ち抜かれた男の姿があった。それと、後ろ髪を小さく結んだ少年の姿も。
混乱する拳に淡々と少年は話す。
「最初から見てたけど、お前。バケモノだな。…気に入った。お前、僕の番犬になれ。」
五十嵐拳はこの時、就職先が決定した。