閑話 さよなら、大好きな人。
白く清浄な世界だった。
上も、下も、右も、左も、余すことなく白く、光も影もない世界。
人は死んだらどうなるんだろう、と考えたことはある。
きっとここがそうなんだ、と適当に理解した。
「いやいや、ごめんね、本当に」
その声は響いた。
耳に聞こえたというよりも、心に直接伝わってきたような。
なにせ、私には手も足もないし、体もない。
ゆらりと浮かぶ丸い魂だから。
「でも私達にはどうしようもないんだ、こればかりはね」
ただ、その声の持ち主がなにを言っているかは、あまり意味がわからなかった。
「ここ最近は大忙しだよ。全く、苦労をかけてくれるよね」
ここが死後の世界だというのなら、神様や天使や悪魔なのだろうか。
「そうだね、そう思ってくれていいよ。どうせ名称に意味はないんだし。さて、それで、君はどうする? ある程度のプランを選べるよ」
プラン?
「輪廻転生するもよし、異世界転生するもよし。今は大サービスだ。君の好きな人生を思い描くといい」
異世界転生、できるんですか?
「できるできる。なんでもできる。でないと魂の在り様に困っちゃうから、こっちも大変なんだ」
じゃ、じゃあ魔法が使える世界で才能もあってそこそこいい産まれのかわいらしい女の子にもなれますか!?
「ほんと、最近の子はそういうの好きだね。多いよその注文。もちろん、できるよ」
ではそれでお願いしますっ。
「はいはい。前世の記憶はどうする? 魔法のある世界は文明が君がいた時代よりも進んでいないから、色々と助かると思うけど」
前世の記憶は……消して大丈夫です。
「いいんだ、珍しい」
は、はい。
きっと私ならそういう世界を好むと思うので、大丈夫です。
それに、新しい恋ができそうにないので……。
「そっか。それじゃあサービスで愛の女神の祝福をつけておくよ。素敵な恋愛が送れるようにね」
あ、ありがとうございます。
「それじゃあ行ってらっしゃい」
そうして、光は収束していく。
この世界から弾かれるように。
新たな世界に導かれるように。
解けていく記憶の中で最後に、笑っている彼の姿を見た。
その笑顔は、大好きな私の友達で、彼の大切な妹にしか向けられることはなかったけれど。
一度でいいから笑顔にさしてみたかったな、って。
それは未練と呼ぶには淡く揺れる恋だった。




