夢中になったレベル上げ ~子供だからできること~
昔ながらのRPG。
勇者が先頭に立って、仲間がその後を歩いて行く。
敵が現れたら戦闘開始。
剣と魔法で敵を倒すと、お金と経験値が手に入る。
経験値を稼ぐとレベルが上がって強くなる。
次々と現れる強敵と戦うために経験値を稼ぐのだ。
強くならないと先へ進めない。
ラスボスを倒さないとエンディングを迎えられない。
そんな物語が数多く存在した。
一昔前のゲームの世界に。
今やすっかりソーシャルゲームにお株を奪われた据え置きハード。
スマホやケータイなんてなかった時代には、テレビか携帯用のハードでゲームを遊ぶしかなかった。
携帯端末が発達する前の子供たちは、インターネットにすら接続されていないテレビゲームに夢中になっていた。
たらこもそのうちの一人だ。
たらこはスーファミ、64、プレステ世代。
ゲームを一番はまってやっていたのもその機種が出たころだ。
FF、DQなどの王道RPGはもちろんプレイした。
そして……この世代がもっともはまったゲームと言えば、間違いなくポケモンだと思う。
ポケモンは言わずも知れた一大コンテンツ。
携帯ゲーム機が下火になった現代においても活躍している。
当時はゲームボーイと呼ばれる携帯端末を使って、ポケモンをプレイしていた。
端末にはシステムをインストールする機能がない。
USBソケットのような場所があり、そこに記録媒体であるカセットを差し込んでゲームをプレイするのだ。
遊びたいゲームを変えるたびに、カセットも交換する必要がある。
おまけに、電源は単三電池だったので、すぐに電池切れを起こす。
何度も電池を交換しないといけないので、とても環境に悪かった。
繰り返し充電できるスマホとは便利さが大違い。
今となっては不便に思えるかもしれないが、当時はそれが普通。
たらこは全く不便さなど感じず、夢中になってポケモンをプレイした。
おそらく、ほとんどの人が一度はポケモンで遊んだことがあるかと思う。
あのゲームも王道RPGよろしく、経験値を稼ぐ必要がある。
ポケモンを強くするには、何度も戦いわないといけないのだ。
何度も、何度も、野生のポケモンを探してバトル。
経験値を稼いで少しずつ強くなるポケモン。
……同じことの繰り返しだ。
経験値を稼ぐ作業は実に淡々としている。
ボタンを押して技をセレクトして敵を倒す。
どこかの誰かさんが「目標をセンターに入れてスイッチ」なんてうわごとを呟きながら訓練をしていたが、いまポケモンをプレイしたら絶対にあんな気分になると思う。
大人になってから、経験値を稼ぐ作業が苦痛になった。
ソーシャルゲームをプレイしても長続きしない。
同じことを繰り返すだけの気力が残っていないのだ。
ゲームの楽しみ方は人それぞれかと思うが、たらこにはもう経験値稼ぎをするだけの気力がない。
というか……興味がない。
そこで得られるものは何もないと感じている。
ただ……経験値が増えて、キャラクターが強くなるだけ。
そのことに喜びや感動を覚えることはなくなった。
幼いころ、ポケモンをプレイしていたたらこは、ポケモンたちが強くなる姿を見てわくわくしていた。
親に怒られるまでずっと一人で遊んでいた。
あの集中力は何処へ行ったのだろう。
ゲームにのめり込むことはもう二度とない。
そう確信している。
別にゲームを否定するつもりはない。
ただ、たらこは楽しめなくなった、それだけの話。
ポケモンを素直に楽しめていたあの頃は、何もかもが輝いて見えた。
ゲームの中のキャラクターたちも、とても魅力的に思えた。
経験値を稼ぐことで強くなるキャラクター。
その姿にあこがれを抱くと同時に、自分も同じように戦ってみたいと思った。
何度も敵を倒せば、ラスボスを倒せるまでに強くなれると信じて。
経験値。
大人になってそれは、敵を倒して稼ぐのではないと知る。
苦痛を伴い、耐えに耐え、逃げ出さずに戦い続け、わずかばかり得られるものだ。
ほんの少ししか得られない経験値を積み重ねて、小さな成功をつかみ取る。
それが人生と言うゲーム。
子供のころにプレイしたどんなゲームよりも難易度が高い。
そして……得られる感動も段違いに大きい。
人生は素晴らしい。
まだまだこのゲームはやめられそうにない。