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電車ごと異世界転移  作者: 灰色
12/13

鍛練開始、そして一年後

鍛練開始初日。

各自、どういった方向で能力を成長させるか、どのような仕事が出来るか、最初の希望を出す事になった。


結果、魔法に関して学びたい者が圧倒的に多く、実技はともかく座学を行う場所が不足する事になった。

相沢の「乗ってきた車両をここまで持ってきて利用できれば、椅子も机も完備で良いんだけどなぁ。ちょっと狭いけど」との意見が採用される事になる。

列車を運ぶ事自体は家畜や魔法を駆使し、どうにかなった。ルーザーさんが、列車が運べる幅と強度の橋を維持する為に過労状態になっただけで。

運んできた列車は、1両を2部屋になるように区切り、使用する事にした。1両そのままだと、後ろの方が見聞きし辛いので。

鍛冶仕事や他の世界の科学を分析している者は、材料や仕組みが気になり、分解したそうだったが。


俺は今まで通り師匠に鍛えてもらう為、新しく師匠による鍛練を新設してもらう事になった。

鍛練初日はこの世界の格闘家や元の世界の者も参加していたが、二日目には元の世界からの参加者は自分だけになっていた。そして、一週間程度で自分のみになった。

後は、この世界の格闘技と、肉体を強化する魔法を学ぶ事にした。自分の身体の事はわかるが、火や水等を扱うイメージが出来なかったのだ。

また、肉体を強化する魔法は消費が少なく、比較的長時間使用できると言う点に魅力を感じた。


委員長は、元の世界で身に着けた剣と長刀に比較的似ている技術と、新たに弓の扱いを学ぶ事にしたそうだ。

「近接職ばかりだと、バランスが悪いですから。旅立つ時には、声をかけて下さいね。絶対ですよ」

と、念を押された。

魔法については、治療と補助を中心に、生活に便利な魔法を身につけるそうだ。


相沢は、一通りの魔法の初歩を身に付け、後は図書室の本を読んでいる。図書室には実用書から他の世界の漫画まで揃っており、俺達の世界の本も寄贈され管理される事になった。

あらゆる本を乱雑に読む相沢に、一度、何故高度な魔法に挑戦しないのか聞いた事がある。

「基礎を憶えれば、後は本人の想像力次第、って最初に言ってたよな。なら、それ以上は無駄金だろ。だから、創造力を学ぶ為に図書室で本を読んでるんだよ。利用料は無料だしな」

そう言いながら、他の世界のものと思われる漫画を読んでいた。

「神様が無理矢理インプットしたこの世界の言語力だけど、理屈はわかんねぇが他の世界の文字も読めるんだぜ。それに、漫画も馬鹿にしたもんじゃない。その世界の標準や将来の目標が含まれているから、自分だけじゃ思い付きもしない事が書いてあったりするしな」

と言いながら、笑いだす。どうやらギャグ漫画を読んでいるようだった。


師匠は魔法そのものより、対策の方を重視した学習と、図書室でこの世界の成り立ちと現状等、知識を重視しているようであった。


各自が目標を定め鍛練を開始し、1ヶ月程経った頃。

この世界に来て直ぐに別れた自称選民のうち10名が鍛練所にたどり着いた。

全員がぼろぼろの装備をし、痩せ細っていた。

この国の街を経由せず、直接他国を目指したそうだ。

そして、国境で紋章の有無をチェックされ、3名以外は条件を達成していないとして、越境を許されなかった。紋章の意味を理解しておらず、国境を守る軍隊に反発し、結果全員越境出来ずに退散。その後、森に迷い込み、魔物に襲われ、紋章を持つ2名が他を守ろうとして死亡。

逃げるうちに保持していた携帯食や荷物、数名は武器も失い森を彷徨っていた所を、運良く実戦訓練を行っていた者が発見。鍛練所に連れ帰ったと言う事だ。

死亡した中には、リーダー格の者が混ざっていた。

「あいつらに煽動されて酷い目にあった」「巻き添えにするなんて、死んで当然だ」等と、助かった連中の中には愚痴を言う者もいた。

着いていく、自分達は選民だ、と決めたのは自分であり、自業自得だ。それに、リーダー格の者は他を守った。計画は無謀だったが、守ろうとしたのだ。それだけは評価できる。

こうして、自称選民は、10名(現在奴隷として活躍中)、12名(2名死亡、残る10名が到着)、9名(情報無し)となった。


3ヶ月程経った頃、奴隷だった者の中でも真面目な者は徐々に解放されていった。

奴隷の間に強制的に農作業をさせられ、解放後も引き続き農作業を選び、紋章が現れた者もいた。

不真面目な者は、強制作業を雑にし、減らされた報酬額を博打につぎ込み、借金が増える一方の者もいた。代表格が誰かは、言いたくない。あんなやつの指導を受けていたと思うと、情けなくなる。

世界は違っても、娯楽として博打は存在する。

他の世界の者が持ち込んだ可能性もあるが。


そして、半年程経った頃の事。

いつも通り、俺は師匠の指導を受けていた。

休憩がてら、身体をほぐしていた所に、師匠が近付いてきた。

「今日で、私の指導は終了とする」

青天の霹靂とはこの事か。驚きで固まってしまい、返答も出来ない。

「おい、聞いているか?」

再度声をかけられ、ようやく返答する。

「技術等、全く師匠に及びませんが」

「基本は全て教えた。後は、自分で創意工夫しながら、他の世界の技と組み合わせたりし、鍛えていけ」

まだ呆然としている俺に対し、更に声がかかる。

「私は、確認したい事ができた。少しの間、ここを留守にする。着いてくるのはまだ早い。最低でも、あと半年はここで学べ。再開した時、私を失望させるなよ」

一方的に、俺の言いたい事も前もって禁止し、反論も許さない。

そして、師匠はその日の内に居なくなった。旅の準備は既に済ませていたようで、誰にも行き先も告げずに。

俺は、弟子として失格だったのだろうか?基礎しか取得出来ないと判断されたのか?足手まといと判断されたのか?

そう言った疑問を持ったものの、どうしようもない。

雑念を忘れるように、無我の境地に至れるように、ただひたすらに鍛練に励んだ。無理のあるスケジュールでも、やってみればなんとかなる。

委員長や相沢、同じ世界から来た人は、心配して何度も脚を運んでくれた。

無理なスケジュールは、結局は効率が悪くなる。疲労は慣れていき、疲労状態を本来のスペックと勘違いする。実力を発揮出来なくなる。そう言った助言をしてくれる大人も多数いた。

そう、自分でもわかっていた。だが、自身の限界を超えるためには、無理が必要な時期がある。それがこの半年だ。その結果、将来的に問題が生じるかもしれない。結果が伴わない可能性もある。それでも、無理を出来るのは若いうちだけだ。

半年後には、このような無茶は止める。そう約束し、周りの皆には無理矢理納得してもらった。

それでも、委員長は責任感からか、定期的に見に来て、寝ている内に回復魔法により疲労を少しでも減らせるように手助けしてくれた。借りばかりが増えるが、いつか返せる日は来るのだろうか。


そうして半年と少し経った頃の事。

セブンさんが訪ねてきて、こう言った。

「北田先生の反応が消えました」

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