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電車ごと異世界転移  作者: 灰色
11/13

午後の部開始

「少し遅れ、申し訳ありません。引き続き私、セブンより説明させていただきますね」

説明の続きが始まった。遅れたのは、俺達と話していた為だろう。申し訳ない。

午前の説明と同様に、話の要点のみを整理する。


・この鍛練所では、雑務を行い報酬を得ながら、その報酬を元に様々な技術を学ぶ事が出来る

・最低限の食事についてはお金が無くても提供されるが、良いものを食べたければお金が必要となる

・奴隷扱いの者は、午前中は強制的に雑務を行う必要があり、午後から報酬を得る為の雑務と訓練を行う事が可能となる

・奴隷扱いの者は、午前中の強制雑務で得た収入が一定額に達した時点で奴隷から解放される

・一人前と認められた時点で、雑務では無く職業につく事が可能となり、この街から出て他の街や国に行く権利を得る事が出来る

・奴隷については、一人前となっても一定額納めるまで街を出る事が出来ないが、雑務の報酬は向上する

・ほとんどの訓練は存在するが、望むものがない場合、師匠を自身で見つけ、訓練費用等を師匠と交渉し互いに合意が取れれば、新たな訓練として採用される

・最初に提供された装備品や、元の世界から持ってきた不要なアイテムは、高めに買い取るので、最初の資金にして欲しい

・この説明会の後、確認したい事があれば、意見箱があるので、そこに入れておけば後日個人か全員に通達する

・最後に、元の世界へ戻る事は不可能


以上で説明会は終わりとなった。

元の世界に戻れない事は、皆理解していただろうが、そう簡単に割りきれる人ばかりではない。

夫婦や恋人と別れた者、子供を残してきた夫婦、元の世界で成功者だった者は再度一からやり直し、等々涙と怒声で騒然となる。だが、セブンさんに責任は無く、全てはこの世界の神クロにあり、神が気まぐれなのは、元の世界の各種神話でも同様だ。

結局、どうする事も出来ない。

「クロ様に代わり、謝罪します。皆様、申し訳ありません」

セブンさんは、自分の責任のように何度も謝罪し、一部の者からは物や石を投げつけられ、怪我も出来ている。

少々の非難は受けてもらわないと、突然異世界に連れて来た者の怒りは鎮まらない。だが、一定以上確執が深まると、後に及ぼす悪影響が大きくなるので、止め時が難しい。

そろそろ止めるべきだが、学生が止めようとしても効力は低いだろう。委員長が止めに入ろうとしているのが見えるが、その前にもっと適切な人が動いた。

師匠がセブンさんの前に立ち、投石を身体に受ける。

ここまで誰一人欠ける事無く連れてきた指導者であり、身体能力も頭脳も自分達より優れている事は誰しも理解している。本気になれば、素人が投げた物など回避や反らす事が出来る人が、あえて身体で止めたのだ。その事を理解した上で、物を投げ続ける事が出来る程、豪胆な者や馬鹿はいないようで、安心した。

まだ納得は出来ないだろうが、取り敢えず我慢する。

「実力行使が不要なようで、安心した。皆、納得がいかないのはわかる。私もそうだ」

師匠が皆を諭し始める。

「だが、憂さ晴らしに責任が無い者を責めるのは、楽しいか?責任を取るべき神に同様の事を出来るのか?」

考える時間を与え自省を促すためか、少しだけ発言を止めた後、再開する。

「私は、皆が理性のある選択を選んでくれると信じる。無茶苦茶な事に巻き込まれた一因は私にもあるそうだ。昨日、紋章が既にあり、かつセブン殿より私を含む数名を引き込む為に転移が行われたと伺った。私は無理矢理転移させられた被害者であり、皆を巻き込んだ加害者でもあるそうだ」

師匠の発言に、幾人かは恨みの目を向ける。奴隷に落ちた教師は、これ幸いと周囲を煽動しようと叫び出すが、すぐに幾人かの学生が喋れないように口を封じる。

「セブン殿より、私の方が恨まれるべきだ。セブン殿は、巻き込まれた皆を受け入れ、かつこの世界で一人前になり生きていく手助けをしてくれる。今後、皆が頼るべき、恩人となる方だ。恨みの矛先を違えてはいけない。私を傷つけて恨みをはらしたいなら、甘んじて受けよう。奴隷にすべきと言うなら、なろう。顔を見たくもないというなら、すぐにこの街から去ろう」

突然、師匠がとんでも無い事を言い出す。

念の為にいつでも飛び出せる姿勢を取ったが、面と向かって誹謗中傷や暴力に移る様子は無かった。

自分に自信がある連中と最初に袂を分かっていたのが幸いしたのかもしれない。

不満は残れど、師匠に正面から歯向かう程の気概も無く、逆に恩がある。

この辺が落とし所だろう。不満は残れど、すぐには爆発せず、これ以上暴れても損するばかりで得が無い。

「皆、納得はいかないだろう。だが、見知らぬ世界で同郷のものがいがみ合っていても仕方がない。幸い、現地の方の協力が確約されている。皆も協力して生きていこう」

師匠は自身の役目が終わったとばかりに、セブンさんの方に振り返り、何かを話した後移動して行く。そして、再度セブンさんが説明を再開する。

「北田先生はあのように言って下さいましたが、非は全てこの世界の者にあります。先生を恨まないで下さい。そして、もう一度だけ謝らせて下さい。申し訳ありませんでした」

今回はセブンさんだけでなく、後ろに揃っていた街の有力者全員が頭を下げる。

こうして、説明会は残るは質問会のみとなった。


質問会は、別に今すぐでは無くとも回答をいただけると言うこともあり、すぐに終了した。俺が気になったのは、一つだけ。

Q.現在妊娠中だが、母体に紋章は無い。出産は可能か?

A.問題無く出産が可能。だが、今後は紋章を得るまで妊娠する事が出来ない。


既に人として成長している者まで否定はしない。紋章により制限されるのは、この世界の事だけと言う事だろう。元の世界へ帰れないのも、神が万能では無く、基本的にはこの世界でしか能力を使えない為か?


こうして、説明会は終了し、翌日からは学校のカリキュラムに従うのでは無い、自分で物事を決め、その結果は自分で負うべき生活が幕を開けるのであった。


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