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五年で私を愛せなければ離縁してください(旧題 こだわりが謎である)  作者: 黛ちまた


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ムキムキはあまり……

 クリスタ様からお茶会に誘われ、王城に来ている。

 何度見ても荘厳な城だと思う。

 建国時に建造されたという城は何百年もの間国の中心に位置している。石造りの外観にはいくつもの彫像が彫られていてそれは見事なのだが、壊れたらどうするのだろう。修復は可能なのだろうか?

 王城の廊下は天井が高く、いくつもの窓から陽の光が差し込む為日中はとても明るい。月が出ている夜も明るいのではないだろうか。

 夜会などで王城を訪れている際はいつも明かりが灯されているから、月の光を感じることもないけれど。


 侍女に案内され、王族が家族と寛ぐ為に誂えたサロンに足を踏み入れる。


「こちらでお待ち下さい」


 案内を終えた侍女が部屋を出て行ったので、遠慮なく椅子に座って待つ。

 ブルーグレーの壁にぐるりと囲まれた落ち着いた雰囲気の部屋だ。女性が踊る大きな絵画が鏡を挟んで対になるように飾られていて、華やかさもある。壁の色に合わせられた家具は装飾が細やかで美しい。侯爵家の家具も意匠を凝らしたものが多いが、王城のものはその上をいく。椅子に張られた布に施された刺繍の細やかさにはため息が出てしまう。


 クリスタ様は王太子妃教育を受けている。

 どのようなものなのか具体的には分からないけれど、王太子妃は諸外国の貴賓の相手をする。必要であれば陛下や王妃の代わりに隣国に王太子と出向くこともある。

 心構えもそうだけれど、幼い頃より受ける教育も伯爵家の私とは異なる筈だ。

 その点クリスタ様は侯爵家にお生まれで、王族と接する機会もあったということだし、王太子妃になる為の教育も、大変ではあるだろうが乗り越えられるのだろうと思う。クリスタ様も大変だが耐えられないものではないと言っていたし。


 邪法を用いてエルンスト殿下を魅了した男爵令嬢ではとてもではないが務まらなかっただろう。元が平民であったというし。彼女は貴族や王族を着飾って美味しいものを口にしているだけの存在とでも思っていたのだろうか。

 贅沢をしたいと思うことが悪いことだとは思わないけれど、権利には義務も付随する。


 ノックの音がして扉が開き、侍女がまず部屋に入って来た。その後ろにクリスタ様。襲撃を受けた場合を想定して貴人は最初に部屋に入らない。そう言えばあの男爵令嬢はいつも一番に部屋に入りたがっていたらしいから、襲撃があったら怪我をするか下手すれば死んでいただろうと思う。


 立ち上がって軽くカーテシーをする。いくら義理の妹といえど王太子妃に礼をしないなどありえない。


「お会いしたかったわ、お義姉様」


「私もです」


 クリスタ様が着席されてから私も座る。

 すぐにお茶とお菓子が運ばれてきた。

 私は依然として太りにくいお菓子を好んでいるのだけれど、訪れるたびに新しいお菓子が用意されている。シェフは大変だと思うが、クリスタ様の心遣いには感謝している。

 はぁ、美味しい。

 お菓子を味わっていると、クリスタ様が話を振ってきた。


「お義姉様は逞しい男の方が理想だとお聞きしました」


「どなたがそれを?」


 シシーと姉妹とシュテファン様にしか打ち明けていないのに、何故知っているのだろう。

 ちらりとシシーを見ると、小さく首を振っていた。


「お兄様がオリヴァー様の鍛錬に熱心にお付き合いなさるようになったのを、殿下が不思議に思われてお尋ねになられたそうなのです」


 王太子殿下からクリスタ様に伝わったということか。

 納得してお茶を口にする。


「お兄様ったら、愛する妻に好かれる要素が一つ分かって嬉しいとおっしゃったらしくって、殿下もそれならばと鍛錬を更に厳しくなさったとか」


 ころころと鈴のように笑うクリスタ様。対して私は眉を顰めてしまう。


「それは困ります」


「困る?」


 何故と言わんばかりの顔をされている。情報は正しく伝えなくてはいけない。私はクリスタ様に説明することにした。


「程々に鍛えていただきたいのです。筋骨隆々になられたシュテファン様は見たくありません」


「程々というのはどのような?」


「傍目にも分かるような逞しさは不要なのです。上着を脱いで、シャツになった際に逞しさが分かるのは良いのです」


 そう、それはむしろ良い。


「最も鍛えていただきたいのはお腹。腹筋です。割れていただきたいのです」


「まぁ……お腹とは割れるのですか?」


 私は力強く頷いた。


「割れるのです、クリスタ様」


 騎士団長を目指されていたオリヴァー様なら割れているのではないだろうか。お二人は婚約式を終えたばかりだからまだご存知ないのだろう。


「シュテファン様の腹筋が引き締まり割れたなら……」


 間違いなく素敵だと思う。

 想像したら胸の中がくすぐったくなった。


「殿下には私から申し上げておきます」


「鍛えていただく立場から注文をつけるのは筋違いだと理解しておりますが、私の理想をシュテファン様が目指されるのであれば程々の鍛錬と申しますか、お腹を重点的にお願いしたいのです」


 是非に、是非に腹筋を。


「勿論です、お義姉様。必ず殿下にお伝えします」


 シュテファン様の鍛錬の話はそれで終わり、他愛もない話をしながらお茶とお菓子を楽しんだ。

 



 それからというもの、シュテファン様はお腹の痛みに耐えるようになった。

 鍛錬をすると筋肉が鍛えられ、筋肉痛というものが起きるらしい。それは私も経験がある。あれは中々に辛いものだった。


 シュテファン様に大丈夫かと尋ねると、決まって「ありがとう、大丈夫だ」との答えが返ってくる。困った笑顔になっているから本当は大丈夫ではないのだろう。

 辛いと言ったら私が鍛錬を止めるよう言うと思っているのかも知れない。

 王太子殿下から私の理想を耳にされただろうから、腹筋を重点的に鍛えてくれているに違いない。ユリアから教えてもらったが、腹筋はなかなか割れないらしいのだ。


 自分の為に頑張ってくれる姿を目にするだけでも良いだろうとユリアに言われた時、理想の肉体でなければ嫌だと答えた。

 シュテファン様のお腹がクラウス様のように割れてくれたなら嬉しいけれど、ならなくても良いと思っている。

 嫌いな鍛錬を私の為にしてくれているのは純粋に嬉しい。痛みを堪えている姿を可愛いとまで思い始めている。

 身体を鍛えるのにはお金も権力も使えない。自身が頑張らなければ筋肉はつかないのだ。鍛錬後には痛みも伴う。

 それなのに続けてくれている。

 途中で諦めてくれても構わないのに、きっとシュテファン様はやり遂げると思う。

 頑張って下さい、シュテファン様。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] コルネリア、めっちゃ面白い。 熱く語りすぎw 頑張って下さい、シュテファン様。 に、吹いた。 はっ!タイトルはもしやこれですか…?
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