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五年で私を愛せなければ離縁してください(旧題 こだわりが謎である)  作者: 黛ちまた


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どういうことかしら?

 シュテファン様が王太子殿下の側近となられてから数ヶ月が経った。

 あっという間だったように思う。

 私が筋肉に夢中になっていたのも大きかった。

 以前に比べて食事の量が増えたからなのか、シュテファン様が大きくなった。とは言っても太った訳ではない。それなのに大きくなった気がしてならない。心なしか身体つきがしっかりしてきたような。

 あと少しで落ち着くと言い続けている間にもう春である。

 婚姻を結んでからというもの、月日が早歩きをしているかのようで、なんとなく焦りを感じてしまうけれど、春は嬉しいもの。

 



 王太子殿下とクリスタ様の婚約式は無事に執り行われて、今夜はその祝いの宴が王城にて開かれている。

 本来なら側近のシュテファン様は主催者側の一人として会を仕切るのだけれど、少しの間妻と過ごせるようにと王太子殿下が取り計らってくれた。

 王太子殿下の婚約式には各国の貴人も多く招かれている。

 第一王子エルンスト殿下たちが禁術によって翻弄されたことは周辺諸国も知るところだ。

 エルンスト殿下はとても優秀な方で将来を嘱望されていた。そのような方が王太子の座を下りたのだ。何があったか調べない訳がない。

 多くの賓客が招待されているが、南国へは招待状を送っていない。


 男爵令嬢が南国出身の商人から邪法を知り得たことは広く知られており、あの事件以降南国は各国から距離を置かれていると聞く。

 南国の王室が能動的に我が国の王室を乗っ取る為に男爵令嬢を唆したのかは不明だけれど、我が国との関係は悪化した。

 邪法を知り得た経緯が判明し、王室はすかさず対処法を教えて欲しいと頼んだらしい。秘密裏とは言え他国からの要請。それを南国は我が国の与り知らぬこととしてはねつけた。我が国にそのような邪法はないとして。

 男爵令嬢の処刑により偽りの愛の舞台は幕を下ろした。

 南国の協力の有無に関わらず男爵令嬢は刑罰を免れなかったとは思うが、二国間の関係は全く違うものとなっただろう。


 関係が悪化してから取り繕うように、南国は自国の商人が仕出かしたことで迷惑をかけたと、本来なら支払う必要がないが見舞金を支払うと言い出した。寛大な対応をしたと各国に思わせたかったようなのだが、悪手と言える。

 アティカが言うには、南国の現国王は艶事と権力にしか関心がなく、自尊心だけは山のように高いらしい。愚物ということはよく分かった。

 対応を見るに、そのような人物の周囲に侍るのも似たり寄ったりなのかも知れない。

 クリスタ様への第五王子の求婚も、関係悪化を改善したいというあからさまな思惑が透けて見えた。まともに国交もないのに、クリスタ様に一目惚れしたなどと、何処でだと問い詰めたいぐらい間抜けなもので、口説き文句にすらなっていない。あわよくばの願望が大きすぎる。


 各国に距離を置かれてから南国の交易は上手くいっていないと聞く。変なものを自国に持ち込まれては困るから制限をかけられているのだろう。

 南国は立地は悪くない。生きていくのには困らない豊かな国だけれど、全てが国内で賄えるものではない。

 仕入れるばかりでは儲からない。諸外国は南国のものに対して高い関税をかけて絞り込みをかけている。国交は断絶していないから交易は禁止しないが、旨味がないようにしているのだろう。


「コルネリア、待たせてすまない」


 声をかけられた方に目をやれば、シュテファン様が早歩きで私の前にやって来た。

 髪が一部乱れている。人のいない所では走ったのではないだろうか。


「これを妃殿下から賜った。揃いで身に着けると良いと」


 シュテファン様の手には王室の庭にしか咲かないとされる薔薇が二輪。王妃様のお気に入りで、なかなか手に入れることが出来ないものだ。


「そのような貴重な薔薇を頂戴したのですか?」


「あぁ」


 頷いてから、片方の薔薇を私の髪に挿してくれた。


「棘は落としてあるから安心してくれ」


 それは心配していない。棘だらけなら持ってくるシュテファン様の手も無事ではないだろうし。

 残るもう一輪を受け取ると、シュテファン様の胸ポケットに挿した。それから少し乱れた髪を手で直してやると、嬉しそうに目を細めた。


「よく似合ってる。この薔薇を見た時、コルネリアに似合うと思って妃殿下にお願いしたんだ」


「まぁ」


 クリーム色の花びらの先は深紅で縁取ったような薔薇。私の好きな淡いクリーム色。覚えてくれていたのだろう。それと私に似合うと褒めてくれていた深い紅色の入った薔薇。


「その為にお忙しかったのですか?」


「いや、忙しかったのは国賓を迎える為の準備や王太子殿下のお相手の所為だ」


「王太子殿下のお相手?」


 お相手とはどういう意味だろう?

 尋ねようとしたタイミングでダンスの曲が流れ始めた。王太子殿下がクリスタ様の前に跪きダンスに誘う。クリスタ様がその手を取り、二人で広間の中央に進む。


「私たちも踊ろう」


 シュテファン様が差し出した手を取る。こうして踊るのも久しぶりな気がする。

 ワルツに合わせてステップを踏む。


「どれぐらいぶりだろうか、随分久しぶりに貴女と踊る気がする」


「私も同じことを考えておりました」


「婚約式も終えた。式に関連した後始末が済めば早く帰れるようになる」


 そう言ってほっと息を吐く姿に、シュテファン様も辛かったのだと分かる。終えたなら少しゆっくりして、身体を休めて欲しい。


 ……それにしても、以前よりとても踊りやすいのは何故なのか。

 安定感が増した気がする。

 元よりシュテファン様はダンスが上手だったけれど、更に上達したような。


「シュテファン様、ダンスの練習をなさっていたのですか?」


 もしや王太子殿下のお相手というのはダンスの練習とか……?


「いや?」


 違うようだ。


「以前よりもお上手になられた気がします」


 首を傾げる。


「なんだろう。分からないな」


 一曲目が終わり、殿下とクリスタ様は踊るのを止め、陛下と妃殿下の元に戻った。


「もう一曲いいだろうか?」


 シュテファン様の問いに頷く。

 ワルツがあまりに軽やかに終わってしまって、もう少し踊りたいと思っていたのだ。

 先程とは異なる曲調で、シュテファン様に寄りかかるように腰を引かれる。

 ……あら?

 腕ではなく、シュテファン様の胸に手をあてて気がつく。前よりも逞しくなられてないかしら?

 そう思ってそっと他の場所にも触れると、シュテファン様がコルネリアは悪戯っ子だな、と笑った。

 悪戯と思っていただいているうちに、不自然じゃない程度に触れる。

 ……間違いない。シュテファン様ってば、何故だか分からないけれど前よりも逞しくなられている……!

 

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