プロローグ
「おいおい、どうなってんだよこれ...」
澄み渡る空、見渡す限り広がる草原、そこを駆け抜けていくさわやかな風。そんな、いわゆる絶景の中、場違いのように立っている少年がそうつぶやいていた。
「俺はついさっきまで学校にいたんだぞ。それが教室に入った途端にこれはないだろ。」
少年はそう言って、力なく草原に座り込んでしまった。
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少年は、しばらく座り込んでしまっていたが、気を取り直したように立ち上がり周囲を確認し始めた。
「しかし、ほんとに草原しかないな。人や動物も見当たらない。
それに服装や、持ち物は変わらずか。ケータイ、メモ帳、ボールペン、学生証、財布、飴玉4個、か。そりゃそうだよな。トイレ言って教室戻っただけだもんな。ん、ケータイにメッセ?」
少年は、ケータイのSNSアプリにメッセージが届いているのに気づき、アプリを開いた。
<初めまして、柊 遠真様。この度、遠真様はあの扉を通った1億人目の方となります。その特典として、異世界転移をプレゼントさせていただきます。また、それに準じ、スキルとアイテムを送らせていただきました。『アイテムボックス』と唱えることでスキルが発動するので確認してください。また、ステータスやスキルなどは、『鑑定』スキルで確認できます。そして、このケータイに入っているアプリはほとんど削除されております。現在使用できる機能はカメラ、アルバム、スケジュール、電卓、時計、ヘルプが使用できます。ケータイ電話のバッテリーは、この世界のいたるところにあるマナを自動吸収し、半永久的に使用可能です。その他、わからないことがあれば『ヘルプ』にて確認いただけます。では、素敵な異世界生活をお送りください。>
と書かれていて、ケータイの待ち受け画面には、メッセージの中にあったアプリ以外の今までインストールしていたアプリがすべて消えていた。
「は?異世界転移?勝手に?特典なのに?選択権はないのかよ!」
少年―柊 遠真―は、そのメッセージを読んで、大声で叫んでいた。しかし、その叫びも風に乗って消えていくだけだった。
「くそっ!いったいどうなってんだよ!」
遠真は悪態をつくが、それで事態が好転することもなく、ただ時間が過ぎていくだけだった。
「...って、こんなとこでグダグダしてても仕方ないか。とりあえず、わからないことがあったら『ヘルプ』だったか?」
彼は、ケータイのアプリから『ヘルプ』を開く。そこには、「聞きたいことを入力してください」と、検索バーが表示されていた、また、その下には、よくある質問のような形でQ&Aが表示されていた。
「おお、これはわかりやすい。どれどれ...」
遠真はそのQ&Aを読んでいく。
そして、わかったことが以下の通りだった。
・ここは、遠間が暮らしていた世界とは違う世界だということ。
・遠真は元の世界では、存在自体が消失していること。
・元の世界に戻ることはできないこと。
・この世界で、特別に何かを成し遂げる必要はないこと。
・この世界は、いわゆる中世ファンタジーの世界ということ。
・世界には魔物が存在し、人々の脅威となっていること。
・この世界には、人間のほかにも様々な種族が存在すること。
・この世界には、国のほかにクランという相互助組合があり、ほとんどの住民がそこに登録して仕事をしている。
・クランは、国に認められている組合であり、クランのグランドマスターは国王に匹敵する権力を持つ。
・この世界の通貨はルクスで統一されている。ただ、地方によっては物々交換などが成立している地域もある。
「とまぁ、こんなところか。さて、次は、俺のステータスがどうなっているかだよな。」
遠真は、自分に対して鑑定スキルを発動した。すると、遠真のステータスが表示された。
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トーマ・ヒイラギ
LV 1
HP 200/200
ST 150/150
MP 200/200
AT 160
DF 80
MA 90
MD 80
SP 100
IN 120
DX 90
MI 80
LU 100
WP 10000
スキル
ウォークメーター (MAX)
代償召喚 (MAX)
携帯操作 (1/100)
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となっていた。
「ん~、この数値はいいほうなのか?比較対象がいないとわからんな。てか、このスキルってのは、名前しかわからんのか?詳細とか見れないのか?」
と、スキル名のところを凝視するとスキルの詳細が表示された。
「お、出たでた。どれどれ...」
遠真は、そこに表示された内容を確認していく。
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ウォークメーター
自分のステータスにWPを追加する。一定の歩数を歩くことにより、WPを得る。1000WPを消費して、自身のステータス1種を1上昇させることができる。
レベルMAXでは、10歩歩くごとに1WPを獲得する。
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代償召喚
自身のステータスにある数値を消費し、召喚リストから選択したものを召喚できる。召喚した際、基本的には目の前に現れるが、収納系スキルや、アイテムボックスを持っている場合、任意にそれらに収納することもできる。
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携帯操作
この世界で携帯電話を操作するスキル。このスキルを持っていないと、携帯のバッテリーを魔力で補えない。
レベルが1上がるごとに、ショップから一つのアプリをダウンロードすることができる。
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となっていた。
「何だこれ...。こんなスキル見たことないぞ。てか、ウォークメーターと代償召喚って、相性良すぎじゃね?歩くだけでいろんなもの召喚できるんだろ。何とかなりそうだな。なんかすでに10000WPあるし。」
遠真はさっそく、代償召喚のスキルから召喚リストを呼び出した。そこには、様々なカテゴリに分類されたリストがあり、食品や、武器、宝石など、様々なカテゴリがある。遠真は最初に食品リストを開いた。すると、さらに細分化されており、パン、ライス、肉、野菜などに分かれている。彼は、一番最初に合ったパンのページを開く。
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・黒パン 10P
・白パン 30P
・パンの耳 70P
・堅パン 50P
・食パン 100P
・あんぱん 150P
・クロワッサン 180P
・バターロール 200P
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「って多いわ!でも、結構知ってるパンがあるな。ていうか、ほとんどが元の世界のパンじゃん。これは助かるわ。」
遠真は、試しに一番安い黒パンを召喚してみた。10WPがステータス画面から引かれて、彼の手に黒いパンが現れた。
「なるほど、こんなふうに召喚されるのか。さて、一番安いパンの味はっと。」
遠真は、召喚された黒パンを一口かじろうと歯を突き立てる。そこで、ガリっという音がした。
「...っ~~!なんじゃこりゃ、硬すぎて食えるもんじゃねぇ!!」
黒パンは、フランスパンがかわいく思えるほどに固く、とてもではないが、このままでは食べられなかった。
こうして、遠真の異世界初めての食事は、前歯か少し欠けるほどの痛みとともに終わったのだった。