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007:喚起2

ハッチを閉じてパネルを叩いていく。

残存バッテリーを用いて電源起動。フィイイイイ、という機械的な駆動音が響き、暗いコックピットに途端に光が灯った。


「……うわぁ」


今のHMに比べて相当にゴテゴテとした内装に、多すぎるモニターの数々。

如何にも黎明期の機体と言う感じだ。


『ちょっと、巧くんっ!?』


と、呆然としている所にそんな声が聞こえてきた。

大和の外部マイクが拾った音だ。モニターに視線を移すと、其処にはこちらを見て呆然としている三人の姿が。


――外に居させるより、この中に乗ってしまったほうが安全か。

決めたら即座に行動するべきだろう。


「SLS起動。エネルギーは魔力方式へ」


途端襲い掛かってくるのは、身体へと滑り込んでくる違和感。

HMを扱う為に必要な、HM側からのアクセス。


魔術回路に直に接続する事によって、HMの直接操作を可能とする、ソーサリー・リンク・システム。

人によっては拒否反応を起こす者も居るが、俺にとってはかなり慣れ親しんだ感覚。

むしろ精神の糸を持って逆に此方へ導いていた。


「…………むぅ」


しかし、キツイ。

常人よりはるかに高い魔力値の俺では在るが、此処まで接続量と魔力を使用するという機体は初めてだ。


魔術回路と言うのは、謂わばコンセントだ。

魔術やHMといった魔力を必要とする道具に対して、そのプラグを差し込む為のコンセントなのだ。


故に、一度に多くのことをしようと思えばそれ相当のコンセントが必要になる。

全身に魔術回路を走らせている俺だが、それでも此処まで魔術回路を全力に活用する事なんていうのは未だかつて経験していない。


「――っ」


魔導機関が駆動しだす。

魔力を燃料とした特殊機関であり、地球に優しいクリーンなシステムである。

バッテリーからそちらへと移行した大和は、ようやく起動可能なエネルギーを貯える事が出来た。


バランスを確認して、大和の右手を動かす。


「乗れ」

『ええっ!?』


三人の驚いたような声。


『ちょ、巧くんよね!? 何言ってるの君っ!!』

「外に居るよりは安全だろうが」

『でも、そんなに人数乗れるのか?』

「千穂嬢の説明を思い出してみろ」


言いながらパネルを操作する。途端、プシュッと音を立てて開く胸部と腰部のコックピット。

此処のでは出来る事は少ないが、そレ位の操作は十分出来る。


『ちょっと、そんな急に……』


如何したものかと焦るような真弓。

その目には、モニター越しにでも解る好奇心の色が見え隠れしていた。


『勝手に動かしても良いのですか?』

「勿論駄目だ。が、緊急事態と言うことで許してもらおう。……ほら、あちらさんが近づいてきている。早く乗ってくれないと、体勢を立て直すことも出来ないぞっ!!」


「ゲヨアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


「早く乗ったほうが良いと思うぞ」


言った途端コクコクと頷く三つの影。

右手をリフト代わりにして三人をコックピットへと上らせる。


腰部・情報管制に真弓を

胸部・出力制御に陽輔と千穂を。


組み合わせは少し考えてみました。感謝しろよ陽輔め。


三人の搭乗を確認して、大和を立ち上げる。

大和のエネルギー源は、軽油機関と魔導器間。現在軽油が補充されているとは思えないし、となると魔力の供給だけでこのデカブツを動かさなければならない。


「千穂嬢――は、無理として。陽輔と真弓はアクセスできたよな」

『当然。HMに関わる以上必須でしょ』

『一応。……扱った経験はそんなに無いけど』


把握。多分二人とも素人と言うか初心者だ。こりゃ、あんまり負荷をかける訳にもいかなそうだ。


「陽輔、端末操作ぐらいは出来るだろう? 魔力供給の配分を上から順に96:2:2に配分しなおしてくれ。」

『了解――ああ、こうか』

『ちょっと、大丈夫なの!?』

「乗り込んだのは俺だしな。責任はちゃんと取るさ」


第一、この機体の必要魔力量は半端無い。

こんなもの素人が味わった場合、下手をすると魔力欠乏を起こしてショック死しかねない。

なら、この手の経験豊富な俺が大半をまかなうのが一番良いだろう。


「――と、そろそろヤバイな。機体を起動させるぞ。シートベルトはちゃんと締めておけよっ!!」

『ちょ、俺と香山さんはどうすれば……』

「お前の膝の上に乗せておけっ!!」


通信機から聞こえる悲鳴のような声を無視して機体へと魔力を叩き込む。

意志をのせた魔力は中枢ユニットへ意志を伝達。その後に燃料として燃焼される。


ヴィイイイイイイイイイイイイイ!!!!


機体がガクガクと震えだす。

この機体、相当な時間この場所に放置されていたのだろう。

フィードバックされるダメージの感覚は、現状が60%程度の出力でしかないと顕していた。


ブチブチブチッ!!


マイクが、そんな凄まじい音を拾う。

多分、設置されていた遊具を引きちぎった音だろうか。


『これって、弁償させられないでしょうね……』

『世の中そんなに甘くないと思うよ』


引きつったような声の真弓と、何処か悟ったような声の千穂。


「ええいっ!! そこら辺は後で考えれば良いだろうがっ!! いいから、とりあえず今出来る事をやれっ!!」


言って、直立させた大和の、その視線の先。


「…………あ」

「……ギイイイイイイイイイ……」


モロに、件のアンノウンと、大和の視線が合ってしまっていた。


『あー、何か嫌な予感』

「奇遇だな、我輩もだ。……総員、戦闘態勢っ!!」


言葉の途中で此方へ向かって突進してきたアンノウンを目視して。

通信機から飛び交う悲鳴をやっぱり無視して、機体へと魔力を叩き込んだのだった。



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