006:喚起
赤褐色の肉の身体に、しいたけの断面みたいな繊毛状の足を大量に蠢かせる巨大な影。
物凄くグロい肉の塊は、盛大な咆哮を轟かせた直後、その口から黄色い光を放出し、それを手近な校舎…つまりは、HM資料館へとたたきつけていた。
轟音。爆音が響き渡り、次の瞬間資料館の壁には巨大な大穴が明けられていた。
ズズズ、と鳴り響く轟音。
重要な柱を幾本か失ったのだろうか、ぐらぐらとゆれだした資料館は、少しして完全に崩れ落ちてしまった。
「う、うわああああっ!? 何て事をっ!?」
「言ってないで走りなさいっ!!」
真弓に言われて、そのまま走ってその場から離れる。
今のアンノウンの攻撃は、多分なんらかの魔術砲撃だろう。
巨体だけあって、やはり人間が正面から挑むには荷の重い相手だろう。
直に見るのは初めてだが……成程。
人がEHMを求めたのも解る気がする。
「ギオオオオオオオオオオオ…………」
と、背後から嫌な声が響き渡る。
人間のものではない、件のアンノウンの声だ。
「――っ、不味い、伏せろっ!」
背後から感じられる魔力の高まり。
咄嗟に叫んで身を低くして。
再び響く爆音は、然し今度は俺達の真正面から。
魔力砲撃の直撃を受けた校舎は、直後の爆発を持って崩れだしてしまっていた。
「……っ!!」
真正面。崩れ落ちる校舎の残骸が降り注いできて。
咄嗟に魔力で編み上げた障壁を正面上空へと展開する。
「はあっ!!」
巨大なコンクリートを払いのけて、降り注ぐ残骸がもう無い事を確認して魔術を消す。
……やっぱり対物理魔術は嫌いだ。
「……大丈夫か?」
「なんとか。こっちは大丈夫だ」
「私も大丈夫。……でも、広範囲防御とか、巧くんって何者?」
「趣味でちょっとやってたんだよっ!! いいから、逃げるぞっ!!」
大慌てでその場から離れる。
と、その直後に背後から轟音が。かろうじて形をとどめていた校舎の残骸が、今完全に瓦解している。
「不味いわよ、この広場から食堂のほうへ行くのって……」
「校舎の中を通るか、海側の小道を通るかしかありません……」
校舎は瓦解し、近寄る事すら出来そうもない。
海岸の小道は…問題外。アンノウンの足元を通れる筈もない。踏み潰されてお陀仏なんて御免だ。
「逃げ場が無い……っ!?」
「ぬああああっ!! マジでピンチだっ!!」
背後にはビームを乱発する怪獣が大暴れしているのだ。
仮令どこかに隠れたとして、諸共吹き飛ばされる可能性だって在る。
一刻も早く、この場所から退避しなければならなかった。
せめて……そう、せめてHMでもあれば……。
「………ん?」
首を振って、それが視線に入った。
そういえば、あの大和、動かす事は出来ないかな…?
「あ、ちょっと、何処行くのよっ!!」
駆け出す。
校舎の傍を駆け抜けて、崩れ落ちた博物館をも通り過ぎて。
小さな広場の、その真ん中に小さくなって鎮座する、その巨大なHM。
角ばったグレーの装甲を纏った其の機体は、よくよく見れば、そこら中にブランコや滑り台の遊具が敷設されている。
これもカモフラージュなのかもしれないが…なんというか、高校施設に子供用遊具って言うのも如何かと思う。
滑り台なんて小さすぎて…尻を置いたら嵌ってしまいそうだ。
「えーと、思い出せー、EHM−04のスペックデータは………」
昔見せてもらったHMの資料を思い出す。
この機体にはコックピットが三つあって、操縦系のコックピットは………
「確か、首の辺りにハッチがあったはずなんだが……」
ジャングルジム伝いに大和の上へと上っていく。
途中でジャングルジムの高さが足りなくなってしまった。
結構な高さの在るジャングルジムなのだが、大和の全長はそれより尚高い。
装甲に手をつけて、身長にその上へと。
………っと、あった。
鉄板で塞がれてしまっているが、多分此処に外部パネルが在る筈だ。
「…………………」
精神の糸を鉄板に繋ぎ、鉄板に対して砕けろと念じる。
途端、ザラザラと砂鉄のような砂と成って消え去る鉄板と、その下から現れる灰色の装甲。
つまみを回して、其処に在るパネルのスイッチを押して。
幸い電源は生きているらしく、プシュッと音を立ててハッチが開いた。
「よしっ!!」
ハッチに滑り込む。
どうやら運は此方に向いているようだった。
今回短め…(汗