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005:デイブレイク

「いやぁ、眼福眼福」

「わ、私としたことが……」


項垂れる真弓と、ソレを見てクスクスと笑う千穂。そして、その千穂の微笑を見てのほほんと頬を緩める色ボケ陽輔。


なんというか、いきなりカオスな状況になってしまっていた。


「しかし、伝説の機体だぞ? 流石に、アレまで在るとは思わなかった」

「けど……不覚。路上で立ち呆けるなんて……」


俺の慰めも、しかし真弓は余計落ち込んでしまう。

その様子を見て千穂が笑い、更に真弓はネガティブへと落ち込んでいくデッドスパイラル。


何とかしてくれと意志を込めて、千穂へと視線を飛ばす。

と、ソレを了承してくれたのか、千穂はクスリと小さく笑って。


「ええと、大和というのは私も聞いたことが在ります。確か、激戦期に投入された史上最大のHM……でしたよね?」

「お、女性で、しかも機構学生でもないのに知ってるなんて珍しい」


大和というのは基本的に“昔の兵器”だ。

一般人で知っている人間といえば、余程博識かそれともマニアか。


「確か世界史か日本史の教科書のどちらかに小さく表記されていたと思いますけど」

「ほぉ、それは俺も知らないな」

「態々“大和”なんて名前をつけるのも珍しいと思って、少し調べた事が在るんです。…といっても、図書館で調べ物のついでに辞典を引いただけなんですけどね」


そう言って微笑む千穂。

……どうやら、博識な方のようだ。


「(千穂って文武両道の凄い子なのよ。唯一魔導の素質が無い以外は天才って呼ばれるくらいなのよ)」


隣から真弓がそんな情報を囁いてくる。


「(の、割にはドジなところが目立ってるけど?)」

「(天災であり、天然なのよ…)」


成程、ソレは確かに最強だ。

……色濃いキャラクターだ事。




海辺のカフェでそんな雑談をしつつ。

ジュースを飲みながらそんな馬鹿話をしていた。


「ああ、魔導学科でも合同授業としてHMに乗る機会はあったはずだぞ?」

「マジデカっ!?」

「知らなかったの?」

「魔導師になれってほぼ強制で此処に入れられたしなぁ…」


まさに災い転じて福となる。

どうせならちょっとでもHMに関係在るところにしようとこの学校を選んだのだけれども…。

俺、GJ!!


「でも、そういえばの話、普通科ってどんな感じなんだ?」


千穂に問いかける。

LOGで一番普通な学科である普通科。でも、逆に特徴の無い学科のような気もする。


「基本的に何でもありです。午前中の基礎科目と、午後の選択授業が在って、選択授業はそれこそ自分のしたい事を選べるんですよ」

「あー、大学のシステムのモドキだな」


やはり普通科といっても、それなりに凝っているのだろう。

恐るべし、LOG。


「選択によってはHMの搭乗も出来るんですけど、残念ながら私は魔導師の才能はありませんでしたので」

「いいじゃない。その分美人で色々出来るんだし」


真由美が言って、千穂が顔を赤く染める。

それを見て更に陽輔の雰囲気がトロケて。色ボケめ。




『………が、―――ですっ!?』


そんな風に会話していて。

不意に、カフェに備え付けられていたテレビの音量が大きくなった。

何事かと視線を移して、しかし今度はそのテレビで放映されている内容に目を奪われて。


「……凄い、変形してる」

「アレは……朝から放送されてるアンノウンだよな?」


画面に映し出されているのは巨大な赤茶色の怪獣。

テレビにはぶよぶよした肉の芋虫のような怪獣が、海を物凄い勢いで航行している様子が映し出されていた。


『大変です! アンノウンは海洋を高速で移動し、既に防衛軍の追撃を振り切ってしまいましたっ!! 現在アンノウンは東へ移動中です、近隣の皆様は至急避難をっ!!』


「……なんか、やばくないか?」


映し出される映像は、上空のヘリから撮影されているものだろう。

が、しかしヘリからの映像は刻一刻とアンノウンとの距離を離されていく。

このままでは追跡不能になるのは傍からでも目に見えていた。


『駄目です、我々報道班はもう追いつけません!! アンノウンの進行方向は……LOG、LOGの地域ですっ!! 近隣の皆様は至急避難をっ!!』


…本格的に凄い事に成ってきている。

海洋を高速航行するアンノウンか。中々に珍しいものだ……。


「………ん? 海?」


ふと気付いて、視線をテレビからそらす。

よくよく考えれば、ここは海岸近くのカフェだ。もしかして、件の怪獣を見ることが出来るかも………。


「? 七瀬君、どうかしましたか?」


目元に意識を集中。

肉体の密度を高めて、特に目に力を入れて。

一気に高まった視力で、はるか遠くに微かに見えるソレを改めて確認する。


海を切り裂いて進む巨大な影。

ぼんやりと、赤褐色が見えるような気がして。


「う、わっ!? マジで来たっ!?」


慌てて、その席から立ち上がる。


「え、来たってアンノウンが!?」

「ど、何処にっ!?」


指を海の……海が割れている所を指差す。


「視線を強化してよく見てみろ」

「……………っ、うわ!?」

「…………!?」

「―――あら」


其々が、そんな驚きの声を上げて。

…千穂、魔導師でもないのに見えたのか。ソレはそれで凄い事なんだけれども。


「ちょっ、如何するのよっ!!」

「取り合えず逃げるぞっ!! 此処に居たらヤバイかもしれない」


あの巨体の進行方向は、間違いなくこのLOGの区画に向かって直進してきている。

何が目当てかは知らないが、このままだと確実に俺達も被害を被る。


「と、とりあえず海岸から離れるぞっ!!」


言って、三人を急かして走らせる。


周囲に目を走らせて…どうやら店員も俺達の様子から現状を推察したらしい。

荷物を纏めると大慌てでスクーターに乗って走り去ってしまった。


「……」


いや、何も言うまい。

それよりも、大急ぎでこの場所から離れる事が先決だ。


もう一度振り返って、海のほうへ視線を移す。

何時の間にか急接近していたアンノウンは、既に素の状態でも目視できるほどの距離に近づいてきていた。


「う、わっ!?」

「不味い、伏せろっ!!」


ゴッ、という鈍い音が響き、次いで地面が大きく揺れた。


「「「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」」」


怪獣が、半ば陸に身体をめり込ませて。


つまり、ついに怪獣はLOGへと上陸したのだった。




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