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126:Transferee


気付いたときには自宅のベッドで寝ていて、時計を見れば既に学校が始まる時間。

夢だったらいいな、なんてどこかで考えて、一度カレンダーで日付を確認する。

うん、間違いない。

今日は学校普通授業だ。


憂鬱を感じつつ、ぱっぱと着替えを終わらせる。

なにせ学校だ。面倒くさいが、これも学生の義務。ちゃんとやらねば。


菓子パンのストックを朝食代わりに、牛乳と一緒に腹へ流し込む。

歯磨き顔洗いをすませ、鞄を持って準備完了。用意は万全時間は寸前。

遅刻は不味い。具体的に如何不味いかというと、あの学校軍に近い所為か体育会系。目を付けられたら厄介だ。


「ええい かくなるうえは」


何故かファミコン調に声を出しつつ、玄関の鍵を閉めて走り出す。

術式:仮想オブジェクト。

身体を中心に、周囲に巨大な翼を構成する。仮想構成の物質化だ。相当に魔力を食う。

けれども、急ぐのだ。文句は言っていられない。

角度と方角を確かめ、次の術式演算へ。


術式選択:バーナーブースト

そして此方は最も単純な加速術式。

背後からのガス噴射による反動での加速。ロケットエンジンの魔術エミュレートといえばわかりやすいだろうか。意味不明か。サーセン。


「ぬぐおぉおおおおおおおお!!!!!」


要するに、人間ロケット。

その日、その朝。俺は空を飛ぶ人間ロケットに成ったのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



危なかった。風の精霊に加護を頼むのを忘れて、危うく窒息死するところだった。

なんて考えつつ、外靴を上履に履き替え、大急ぎで教室へ。

流石に教師陣も、空中からの登校なんていうのは想定していなかったらしい。校門を締めようとしていた所、上空から何か降って来たのだ。そりゃビビる。

そして俺も、そんな教師連中が正気に返り、此方を確認に来る前に逃げ切らねば成らなかった。


ぱっぱと進んで教室へ。幸い、教師はまだ職員室で会議でもやっているのだろう。


「……ん?」


不意に、風の精霊の言葉が聞こえた。

それは、先程の加護を願った時の接続。その残り香から漂ってきた、精霊のお告げ。

声ではなく気配。それは何処か感じた事のある感覚で。


なんだろうか。厄介事の気配がするのだけれども。


思い返せど、心当たりのようなものは何も無く。

頭を一つ振って、改めて教室の中に入った。


「おはよう」

「オハヨウ七瀬。今日も良い死んだ魚の目をしているな!」

「おはよう七瀬君。相変らず美味しそうな魔力よね。どう、味見させてくれる気にならない?」

「死んだ魚とは失礼な。せめてヌイグルミ(むきぶつ)みたいなとでも言え。あと魔力はやらん。摂取方法がエロいと周囲に引かれる。あと俺の魔力は中毒性が高いぞ」


などと、朝の挨拶を友人と楽しみつつ、最奥の俺の席へと向かった。

椅子に腰を下ろした瞬間、隣からなんともいえない気配が漂ってくる。

流せばいいのに、やっぱり流せないか。


「よう、おはよう陽輔」

「あぁ、おはよう。で、説明は?」

「俺に聞くな。俺も事情を把握し切れていない。寧ろソッチの説明をして欲しいんだが」

「コッチもあんまり。学校で会ったら聞こうと思ってたんだけど……」


唸る陽輔。けれどもやっぱり知らない物は知らない。

何せ俺が持っている最後の記憶といえば、長門の中であの要撃爆撃級の撃沈を確認したのが最後だ。

そも、長門を如何やって回収したのかとか、そこらへんがすっぱり消えている。


「あ、それなら判るぞ?」

「なにっ!?」


長門はその特性上、どうしても魔力のランクが上位の魔術師でしか操る事ができない。

補助内燃機関なんかは積んでいないし、アレを動かせるレベルの魔導師なんて早々見当たらない筈なのだけれども。


「なんか、赤いローブ纏ったいかにも、な魔導師のヒトがコックピットに入ってったのを見たぞ? あれお前の知り合いじゃないのか?」

「――それは、マジか?」

「マジマジ。えらく美人な女性だったぞ。まぁ、俺からすれば千穂ちゃんのが……」


ええいゴニョるな惚気るなそんな話は聞いていないっ!!

いや、問題はそういうレベルを超越してしまった可能性がある。というか、洒落になってない。HMでの戦闘とかを圧倒して洒落にならない事態になってるんじゃないのかこれはっ……!!??


「……その女性、髪の毛赤かったか?」

「んー、フードしてたから良くわかんなかったけど、多分。お前のピアスと同じ色だったと思うぞ」


言われて、思わず耳元のソレをなぞる。

ガーネットに輝くこれ。一種の魔導器ではあるものの、その作用は真逆に働く。

因みにこれの製作者は俺ではなく、色もその製作者由来の物となっているのだ。


間違いない。


「――終わった」

「え、何が?」


もう既に、要撃爆撃級の話とか如何でもいい。

むしろ今最重要とされるのは、後に待つであろう死地への心構え。

そりゃ、魔力不足ならまだしも、情報処理の負荷で気絶とか。怒られるのは目に見えているのだ。


「――とりあえず、話は後だ。真弓なら事情を把握してるかもしれんし、後でまとめて話そう」


言いつつ、席に座りなおす。

タイミングよく教室の前側の扉が開くと、クラス担任が名簿を抱えて入室して来た。

全く。憂鬱だ。



◇◆◇◆◇◆◇



そうして昼休み。

食堂に集まった俺、陽輔、真弓、千穂の四人。

真弓は最後まで1001号機で作業を手伝っていたらしく、詳しい事情なんかもある程度は把握していた。


あの後、俺の機体は海岸に不時着。幸い機体に損傷は無かったものの、俺自体は魔術行使の反動で気絶し、ラボから派遣された増員のパイロットによって機体ごと回収されたらしい。

真弓の方は、上が手を回していたらしく、特にHMの不許可貸し出しについて文句を言われる事は無かった。むしろ協力報酬が出るらしい。学生とはいえ、戦場に出たのだ。存分にぼった食って欲しい。


で、陽輔の話。これが地味に聞きたかった。

何でも軍のえらいさんとやらから連絡が来たらしく、学園を訪れていた陽輔は、そのままなし崩し的に大和のコックピットに叩き込まれたのだとか。

なんでそんな時間にそんな場所に居たのか。聞いてみたら、どうやら勝手に大和を持ち出してあそこに来る心算だったらしい。

いや、無理だから。あれの必要魔力、回収も何も無しの状態では、普通の人間一人では扱えないから。


が、陽輔曰く、前回大和が活躍した事で、折角なのでと学園側が大和をレストアしている真っ最中だったらしい。魔力経路の再整理とか、補助用燃料機関のレストアだとか。

んで、丁度軍から手が廻ってきた事もアリ、陽輔はそのまま大和で出撃したのだそうだ。

因みに今回も情報管制は千穂がやっていたらしい。なんでも陽輔をLoGに行くように仕向けたのも千穂らしい。この女侮れねぇ。


「あ、そうそう。もう一つイベント有るのよ」

「……うん、俺の予感が微妙に悪い予感だと告げているのだが」


精霊観測と第六感の両方。ただし精霊観測の方は含み笑いというか、からかわれているような気配を感じる。これって如何いう事なのか。


「あら、私の話は悪い予感に入るの?」


不意に背後から響いたその声に、思わず肩を強張らせる。

だって、その声はこんな場所で聞くはずの無い声で。


「あ、理奈ちゃん」

「探したわよ、真弓ちゃん」


振り向く。いや、何で此処に居るんだろうか本当に。


「二人は初めてよね。紹介するわ、此方稲見理奈ちゃん」

「はじめまして。よろしくお願いします」


「……なんで居るんですか、中尉」


思わず掠れたような声になってしまった。まぁ、内心は似たような物なので問題ない。

言うと、稲見中尉はニコッと綺麗に笑って見せた。


「あら、私は一応16ですし、学校に通っていても何もおかしくは無いと思うのだけれど」

「そりゃ、普通はそうでしょうがね」


幾ら未成年の就労が可能な現代とはいえ、それでも矢張り未成年は就学に着くというのが一般的だ。

が、中には中尉のように、幼くして軍に入隊したり、色々事情があって就学していないような人間だって居る。

それに、中尉の腕前は昨日見た。アレだけのHM乗りを、軍がそう容易く手放すとは思えないのだが。


言うと稲見中尉は、陽輔と千穂の注意が真弓に逸れているのを確認して、そっと耳元で囁いて来た。


「貴方の監視とか、原石の青田買いとか。密命を受けてしまいました」

「……成程」


そりゃ、そうか。民間人が大きな力を持っていれば、目を付けられるのは当然の話。

まして俺だ。実際物凄くこの上なく怪しい身分の俺なのだ。そりゃ監視もつく。


「良いんですか? それ明かしちゃって」

「貴方に隠し事は通用しそうにありませんから」


再び頷く。魔術を扱う者としての直感はかなり鋭いほうだし、まして精霊観測も扱える俺だ。悪意なんかを向けられれば一発で気付く。

そういう意味では、先に存在を誇示しておく事で、俺の迎撃を防ぐ意味には……なるか。


「それと、此処では中尉ではなく理奈と。一応ちゃんと転入手続きは取っていますので」

「……さいですか」


なんだか色々と疲れてきた。驚きつかれた、と言う。

そもそも、驚いて目を見開くなんていうのは、俺のキャラじゃない。そういうのは陽輔に任せる。


「――まぁ、それならよろしく頼む。理奈」

「此方こそよろしく、七瀬君」

「巧で良い」

「判ったわ、巧」


言いつつ、握手をする。

ソレを見てまた騒ぎ出す他三人。

馬鹿どもを往なしながら、とりあえず弁当を食べるべく鞄に手を突っ込んだ。

なにせ昼休みの残り時間は20分弱。

そろそろ、次の授業の準備に入る頃合だった。


第二部完。

続編はまたそのうち。

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