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125:End of Eclipse


「よし! 当たった。あてた! これで駄目ならもう撃つ手無しだぞってんだ!!」


反動で盛大にダメージを受けている長門の各部をスキャニングしつつ、気付けば拳を握ってそんな感じで叫んでいた。

キャラじゃない。


長門のダメージは、結構際どいところに来ている。

メインフレームはさすがに無事だと思うのだが、砲の反動で装甲とか武装が曲がったり、そもそもの出力が50%以上出なかったり。地味にピンチだ。早いところ整備格納庫なりに戻らなければ、最悪空中分解というのもありえてしまうのだ。


「中尉。ご無事ですか? 中尉」


通信機に大声で呼びかける。

なにせ空間歪曲砲だ。電磁場まで歪ませる。無線の電波だって、下手すると歪むかもしれない。

まぁ、瞬間的なものだし、どちらかと言うと吹っ飛ばされて計器が痛んでる可能性のほうが高いのだけれども。


『此方稲見。無事よ。あのデカブツは始末できた?』

「煙幕が濃くて。照明も落ちてて、センサー機能が落ちてる此方では確認できません!」

『了解。なら照明弾撃つわ』


瞬間、ボッ、という音と共に空に灯が舞った。

舞って、洒落にならないものを見つけた。


「……うへぇ」

『――まさに怪物ね』


通信機から零れる稲見中尉の呟き。

そりゃそうだ。体積の三分の一が消えて、それでも活動できるとか。

空に浮かぶ巨大な丸型アンノウンは、その身体に巨大な風穴を開けた何処か間抜けな姿で、けれども残った目を血走らせ、確かにその空に浮かんでいた。


「おいおいおい、まだ生きてるのかよ!?」


迸る悪感に、咄嗟に長門に回避行動を取らせる。

長門が右に向かって大きく機体を振った瞬間、その寸前まで長門が存在していた空間を、白い光がなぎ払った。


「しかもビームもまだ顕在か」

『けど威力は落ちている様ね。まぁ、それでもビームはビームなんだけど』


多少射程が短くなり、光線の幅が狭くなろうともビームはビーム。

当たれば確実に大ダメージを食らう代物だ。

現場の長門では、一発喰らえば確実にお釈迦。


「不味いな。……中尉、残弾は?」

『申し訳ないけど、先の囮でもうほとんど……』


謝る稲見中尉の声。まぁ、そりゃ仕事してくれて弾切れってんなら、文句の付けようも無いさ。

問題は、如何やってアレを処理するか、という事何だけれども。


後一発、何か大技が命中すれば、多分あのアンノウンは崩せる。

なにせ如何やって浮いているのかは知らないが、その浮力で形を何とか保っている、と言う様子。

一発。既に件の防御フィールドも拡散しているようだし、せめてレールガンが生き残ってれば……。


ダメージコントロールに目をやる。

後付のレールガンユニットは、既に真っ赤。無理に稼動させても、爆発して機体にダメージを与えかねない。ミサイルは既に使い尽くしたし、機銃なんかさっきの反動で全滅。チャフは役に立たないし、S3機関は機体制御で手一杯。

正直かなり不味い状況だ。


「稲見中尉、とりあえず逃げてください。後は俺が時間を稼ぎますから」

『いえ、然し』

「俺が戻ったところで、補給も出来ないんですよ」


何せAMは、HMと違って装備を固定しなければならない。

今から装備を換装しようものなら、HMを換装する時間の三倍はかかる。

その点、HMは武器を持ち変えるだけだから相、補給なんかは比較的早く済む。

それを中尉も理解しているのだろう。少しの逡巡の後、機体を陸に向かって飛ばした。


さて、格好をつけたはいいものの。

この機体で時間稼ぎをするって、的になってやるくらいしか出来ない。

それも、さっきみたいにビームを回避して榴弾を迎撃する、っていうやり方も難しい。

むしろ、ビームをひきつけて寸前で回避する、とか言うのが最良だろう。ビーム発射中及び発射態勢時は、どうやら榴弾をばら撒けない様子だし。


機体をゆっくりアンノウンの正面へ移動させる。

アンノウンの正面で収束する粒子光。結構なエネルギー量。正直、今すぐにでも逃げ出したい。

が、ソレは不味い。その場合あれの照準は、背後の基地を狙うだろう。

それは、不味い。なにせ今あそこには、俺の友人がいるのだ。


少しだけ機体を右にスライドさせる。

瞬間機体の左を掠めていく粒子光。脇に取り付けられていた武装が蒸発した。

左、左ときて、右に回避する。

デカブツめ、予測射撃までしてきやがった。


「ぐうっ」


回避し損ねる。機体表面が融解。そろそろ機体維持も難しくなってきた。

増援は……まだ無理か。基地が復帰しきっていない。

なら、もう仕方ないか。


長門を可能な限り上昇させる。機関出力を、可能な限り命一杯稼動させて。

そうして、数百メートル。アンノウンのビームを回避しつつ、漸く登りきったその先。

そこで、上昇推力を全力での推進力に転換させる。

目標は、要撃爆撃級アンノウン。

所謂、特攻と言う奴だ。


「ぬああああっ!!!」


別に死ぬ心算はないが、残る手段というのがこれしかない。

アンノウンに対する質量攻撃。長門はサイズこそHMと同規模だが、その質量は圧倒的にHMを上回る。

一回深海に沈めたら、回収するのがかなり難しいというレベルだ。

それが、重力加速を伴ってアンノウンに直撃すれば。

なんとか、倒せるんじゃないかな、と思ったり。


そうして、アンノウンのビームが準備完了するその直前。

アンノウンに接触する瞬間、思わず声を上げてしまった。


「なっ!?」


それまでトロトロと動いていたアンノウンが、その瞬間だけ奇妙なほど素早く、此方の動きを回避して見せたのだ。

それはまるで、わざとバランスを崩したかのような動きで。


そう思った瞬間、背後からの高エネルギー反応。

不味い、これはかわせない。何処か冷静に、そんな判断をして。


――ズガンッ、と夜の海に響く轟音。


思わず顔をしかめて、けれども未だに己が無事な事を自覚する。

如何した事かとモニターで周囲を探り、そこに思わぬものを見つけて唖然としてしまう。


『よう、巧。無事か?』


そこにいたのは、全長四十メートルを超える超弩級HM。

つい少し前、四人がかりで動かした、あの馬鹿でかいHMの姿だった。


「お、お前陽輔か!? なんでその機体を持ち出して……ってか、なんで動かせる!?」

『俺は間違いなく陽輔だぞ。それ以外のなんでもない。機体はほら、お前に追い返されたあと軍人さんにとっ捕まって、良ければ乗ってくれないかって頼まれた。何で動かせてるのかはほら、コイツサブで燃料機関積んでるから』


そういえば、普通のHMは魔術以外の補助出力機関を積んでるっけか。

俺って魔力でしか動かさないから、ちょっと忘れてた。


然し、軍関係者って……。

見れば、要撃爆撃級は、超弩級(ヤマト)の一撃を喰らい、完全にぺしゃんこに潰されていた。

その姿も、海に半分沈んだまま、徐々に風に解けるように消えていった。


「……とりあえず、助かった、ってことか?」

『そういう認識でいいと思うぞ』


思わず間抜けな事を聞き、「そうかい」とだけ言い残して。

瞬間、目の前が真っ黒に染まる。嗚呼、情け無い。

またか、なんて思いつつ、意識のスクリーンに幕を下ろした。




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