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122:Lady Gunner


「痛い」

『悪かったって言ってるじゃない!! 男の癖にしつこいわよっ』

「痛いものは痛い!!」


頬をさすりながらモニターに向かって咆え返す。

仮眠室で惰眠を貪っていた真弓を起こしたら、思い切り悲鳴を上げてビンタされた。

正直、一瞬意識を飛ばされた。

他人に意識を飛ばされたのは、母さんの訓練以外では久しぶりかもしれない。

……最近、頻繁に意識を飛ばしてないでもないのだけれども。どちらかといえば自滅だし。


長門のコックピットで肩を鳴らしつつ、地上から適当に電波を拾ってモニターに表示する。

普通の機体ならともかく、この長門においてはTV用の電波を拾ってソレを映像化させることなど赤子を捻るより容易い。あ、手をな。そんな猟奇的な事はしない。

閑話休題。


テレビに目を向けると、予想通り遠野駐屯地の現場がテレビ放映されていた。

規制とかかけなくて良いんだろうか? なんて思っていたら、どうやらこのテレビクルー無許可で基地の現場を放送していたらしい。軍のヘリに警告受けてるじゃねーか。

――っていうか、よくみればコイツ、何時ぞやLoGでアンノウンとガチンコした時にテレビで放送してたアナウンサーじゃないか。またやってるのかコイツは。


『――夜明けと共に行動を再開すると思しき遠野部隊ですが、どうやらアンノウンの方は既に行動を再開させつつあるようです。あっ、また基地跡地に動く姿が見られます。アレは小型種でしょうか。既に行動を再開しているとすれば、遠野部隊も行動を……って、わぎゃっ!?』


ドォン、という爆音。

ちらりとカメラに映ったのは、空に浮かぶ巨大な炎。あれは、先程テレビクルーのヘリに警告を向けていた軍のヘリか。


『ちゅ、中型種も活動を再開したようです! 現在我々は、中型種の砲撃に晒されてお「ガチッ」……っ、ヘリが、らいへん揺れへおりまふ』


舌を噛んだらしい。というか、もしかしてコレ、ヘリでアンノウンの対空攻撃を回避してるのか!?

あそこに居るアンノウン。前回は一匹だけで、射角もある程度は予想できるだろう。が、今回は中型種が山盛りいるのだ。その射角はまさにランダム。もしそれを回避しているのだとすれば、プロとか通り越して神業の域だぞ。プレイ動画をアップしたらランキング入りする勢いだ。アンノウン戦に空軍が用いられないのは、アンノウンの対空能力が、現行の兵器に対してほぼ無敵に近かった、という事実があるからなのだから。


『ざ、残念ながら、これ以上現地に留まるのは不可能の様です! 以上、現場からの生中継でした!!』


言って映像はスタジオへと切り替わる。

なにやら自称有識者とやらが偉そうに解説をしていたが、もう其方には興味が湧かない。

――いや、偉そうな事を嘯いていた場合、また頭に落雷を落すのも吝かではないのだが。


『っていうか、女の子の寝顔を見たのよ!? 逆にお金を払ってもいいくらいじゃないの!? っていうか、寧ろ払え!!』


まだ何か言ってたらしい。

テレビを見ていた所為であんまり話を聞いてなかったんだけど、何処を如何辿ってそんな結論に行き着いたのか。


「現地で動きがあったらしい。ちょっと加速するけど、舌噛むなよ?」

『え、――わきゃっ!!』


追加されたブースターを使ってさらに加速する。

この山を一つ越えれば、目的の遠野駐屯地はもうすぐ其処だった。



◇◆◇◆◇◆◇



「もう始まってるみたいだな」


言いつつ、地上の様子を分析しながら火器管制システムのチェックを行っていく。

なんというか、少し調整に手間取っていた。

AMもHMも、システムの調整――特に、パイロットが関わる部分に限っては、殆ど大差のないものだ。

それ故の慢心、なんて言われるのも不快だが、事実その気が無いとも言い難い。


長門のシステムは、基本的に魔術をメインに据えたシステムだ。

当然の話、OSもそれに見合う……というか、ソレ専用に設計された物を使っているわけだ。


が、だ。其処に物理火器を搭載する、となると少し話が変わる。

何せコレは魔法ではない。物質として存在する鉄の弾丸や火薬の塊であるミサイルを、機械越しに操作するわけだ。

当然、元々軍属型式番号(エクストラナンバー)を与えられていた長門だ。火器系制御機構も当然ながら積んでいた。

――ただ、バージョンが古い、という問題点を除いて。


「む、むぅ……」

『ちょっと巧っ、この高度だと位置的に私も行動できないわよ!』

「とは言ってもな。……後三十秒だけ待て」


言いつつ、プログラムを捜査する。

単純な火器OSの更新なら、ネット経由でラボからパッチをDLすれば良い。

ただ、この長門の場合、軍で正式に採用されている陸奥と違い、今のところワンオフに近い存在だ。

つまり、態々コレ専用のアップデートが行われていない。

今回、ラボの面々が直々にアップデートをしてくれはした物の、新しく書かれたシステムが、機体OSに定着するのに少し時間が掛かっているのだ。


『ああもうっ!! 先に行くわよ!!』

「はぁ? って、お前無茶おおおおおおおおおおお!!!???」


ズンッ、という鈍い揺れ。

何かとモニターを確認して、地上へ向かって急降下する疾風重装甲型の姿を目に止めて。


――なんと言う無茶を


声に出さずに、そのまま機体を真下に向けて急加速させる。

システムの定着を待つ気は完全に失せた。

現場で無理矢理にでも動かして、動かなければソレまでだ。折角の武器だが、無用の長物なら現地に捨てる。


超高高度から落下する疾風は、はるか彼方の地面に向かってその両手のライフルをバリバリと連射しだした。

ロングバレル仕様の、ダブルライフル。簡単に言って、ライフルの上にライフルをくっつけて、連射速度を向上させた代物。ガトリングでは無いが、それの親戚の親戚くらいの代物だ。


「……うぉ、凄っ」


思わず呟く。

現在の高度は高度3千キロメートル。刻一刻と近付いているとはいえ、この距離で弾丸を当てているのだ。正直、学生の技じゃない。

――というか。


「そうだ、早い事コイツなんとかしないと!?」


慌てて方法を模索する。

刻一刻と近付く地面。このままでは、疾風は地面に激突してぺしゃんこになってしまう。


「真弓、戻れ!!」


通信機に怒鳴る。次いで疾風の身体がぐっと捻られたかと思うと、そのまま身体の捻りだけで姿勢を整え、長門の背に足を設置させ、そのまま固定させてしまった。

なんと華麗なAMBAC。じゃなくて。


『早く減速しなさいよ! このままじゃ地面にぶつかっちゃうじゃない!!』

「そうそう気軽に減速できるかっ!!」


機体をひっくり返し、後部ブースターを全力で吹かせる。当然S3機関も全開にして、魔力推進機関も全開だ。

が、それでも機体はかなりの速度で地面へ向かって落ちていく。

コレこそが地球の持つ、重力と言う鎖。物理法則という、何よりも強固な力。

感心してる場合ではないか。


「お、ちょっ、不味い!?」

『え、キャアアアアアアアアアアアアアッ!!!』


まるでジェットコースターの如く地面へ向かって急降下する長門。

このまま行けば止まれるか……ギリギリ、と言ったところか。


「あがれえええええええええええっ!!!!」


S3機関に叩き込む魔力の量を、さらに倍増させる。別にパズーの真似ではない。

術式補助演算を用いて、大規模魔術を速記で編み上げる。

無属性/魔力圧縮開放。

魔力を物理現象に変換させず、そのまま魔力を魔力として扱う術式。

その効果は、単純に魔を纏った衝撃波を発生させる、と言うだけの代物だ。が、今回はその衝撃波こそがほしかった!


ズンッ、と機体が大きく揺れる。

衝撃波に増したから吹き飛ばされ、一瞬にして落下速度と反作用がつりあう。

危ない危ない。あと数十メートルも落ちてれば、地面に激突するところだった。


「何と言う無茶を!」


通信機に咆える。何故にこうもこの少女は無茶をしたがるのか。

果敢に無謀に挑むのは、ヒーローだけで十分だと思うのだが。


「だって、このくらいならAMの陸奥でも出来るでしょう? 調べたんだから私」


言われて、なるほどと頷く。

確かに、空中でAMから飛び降りて、再びAMに復帰するというHMの高度テクニックが存在するのは事実だ。そして、ソレはどこぞの部隊が実演公開をしていた、と言うのも知っている。というか、俺も実際に見た。


「アレはAMもHMも武装を完全解除した軽装装備の状態で、しかもAMは背部に跳躍ユニットを装備した状態の話だろうが!」

「――あ」


実際に見た事があるから言うのだが、アレはとてもではないが実際に戦場で扱える技ではなかった。

先ず、HMが重過ぎる。俺が見たのは紫電改で、だったからかも知れないが。

HM自体のスラスターでは落下速度を殺しきれず、それ故に追加装備の跳躍ユニットの噴射で推力を補って、それで漸く成功する、というなんとも微妙な技。アクロバットチームが使う、一種の曲芸技なのだ。

こんな重武装の機体でするテクニックではないし、そもそもの話、なんの前触れも無く勝手にやるなと言いたい。


「嗚呼もういいや。とりあえず撃て! ――って、囲まれたー!?」

『なんなのよもーっ!!』

そりゃコッチの台詞だ。


ふと視線を下ろした周辺情報図を見て悲鳴を上げる。

浮かぶ光点は途方も無く、周囲一体全てを覆いつくしていて。


「動けよぉ~」


火器管制システムを起動させ、全ての火器へと接続する。

少し心配だった物の、どうやらシステム自体は上手く動いているようだ。

ガトリング、ミサイル、半自動砲台を起動させて、周囲のロックオン対象に向かって無差別に攻撃を開始した。

夜景に飛び散る白い閃光。弾丸が、ミサイルが。其々の砲台が其々のアンノウンへ向かって、盛大に砲火を放つ。


『うわ、派手ね』

「派手なだけで、撃ち漏らしを否定できない。その辺確り見といてくれ」

『適当ね』

「対人……というか、HMより小さい物は俺の専門外」


そもそもの話、この世界で一番最初に確認されたアンノウンは所謂中型種、と呼ばれているサイズのやつだった。

それに対処する為に、元作業機械から発展したと言われるHMが戦場に投入され発展していった、と言うのが正史だ。

大型種や小型種なんていうのは、HMが登場したその後から登場したのだから、そもそもHMは其処まで小さな物を相手に戦う事は想定されていなかった。


『でも、こっちは新型でしょ?』

「――単純に俺が苦手なんだよ」


小型種に弾丸を命中させている真弓に言い返す。長門にも一応小型種用に対応できるよう、設計もかなり余裕は残されている。が、どちらにせよパイロットである俺が、小型種の相手が苦手なのだから仕方ない。

――しかしこいつ、やはり絶対普通じゃない。いくらHMの火器管制補助を受けているとはいえ、割と高速で滑空している長門の上から、突撃銃で狙撃して百発百中を誇る?

何処の戦場の御伽噺だ。滅茶苦茶にも程があるぞ。


『銃器の扱いは長いのよ。全国中高生エアライフル大会のチャンピオンよ、わたし』


聞いてみたらそんな答えが返ってきた。

エアライフル大会って、アレか。金属の弾を圧搾空気で撃ち出す、威力以外は本物の銃とさして変わりないって言われてる。

然し、あの大会は大体毎年秋にやっていた筈だ。

まだ今年は春になったばかりだし、俺達はまだ高校一年生。

……なに、という事はつまり、その話が事実だとすると、こいつ中学生で、並み居る中高生を制して一位をとったと?


長門のコックピットモニターには、次々と数を減らしていくアンノウンを示す光点が示されていて。

それを眺めつつ、思わずコックピットの中で呆れてしまっていた。


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