003:共和
「あ、あのっ!! 折角ですから、ご一緒しませんかっ!!」
彼女改め、香山 千穂の提案は、案の定反対するものも居らず、簡単に通ってしまうのだった。
真弓と千穂の二人は、このLoG学園の地元に住んでいる幼なじみなのだとか。
真弓が機構学科で、千穂が普通科。
学科は違えど、中の良い幼なじみの二人は、折角だからとこの広い学園を二人で探検していたのだとか。
お昼も回って、そろそろ食事時と言う時。
人気も無く、千穂はこれ幸いと二階のテラスに席を確保して真弓を待っていたのだとか。
で、俺と真弓が出会って会話していたタイミング。真弓の帰りが遅いと感じた千穂は、様子を見に階段から下の会を覗き込んで、結果バランスを崩して転倒。
たまたまその場に居合わせた陽輔がソレを助け、結果あの赤面の一場面が形成されたのだとか。
…………あれ? 俺が原因?
で、その後昼食を一緒して、その途中で千穂から出たのが、さっきの一台詞だった。
食堂の次は、漸く実技区画の見学に入ることになった。
幸い、女性陣も俺達と同じところは既に見学していたようだ。
といっても、大きく区切られているのだから、大体ルートは似通うのだろうが。
授業用の校舎群を抜けて、食堂の向こう側。
其処は、この学園で最も広いとされる実技用の施設が立ち並ぶ区画だ。
体育館は勿論、プール館、グラウンド、テニスコートに柔道場に弓道場。
その他諸々の施設が立ち並んでいるのだ。
そんな中を、ぶらぶらと四人で見て回る。
偶に部活中の施設とかもあり、そんなところは軽く見学させてもらったりもして。
「なんというか……」
「ぎこちないわね」
仲良く歩く陽輔と千穂のその背後。
どうやら、真弓も俺と同意見の様らしく、見事に石を汲み取って言葉を継いでいた。
あの階段での事故の後、千穂は少し顔を赤らめて、しかしそれでも積極的に陽輔と交友を交わそうとアプローチを打ち出していて。
けれども、どうも肝心な所で今一歩踏み出しきれていないというか。何か、明るい割には人と会話する事に慣れていないような、そんな感じ。
対して陽輔はというと、此方も女の子と会話した事がないのかと言うほどガチガチに緊張してしまっている。
見ているこっちが恥ずかしくなってくるほどの純情っぷりだ。
「うわ、こっちが赤面しそうだ」
「あー、もう、じれったいっ!!」
で、適当な距離を持って一緒に歩くその二人の背後を、俺と真弓が感想を漏らしながら歩いているのだ。第三者が見たら、かなり奇妙な光景だろう。
「んー、やっぱり駄目かなぁ」
「ん? 何か在るのか?」
「千穂って男に対して耐性が薄くてね。私を介して以外では、喋れる男の子ってかなり限られてるのよ」
「ほぉ」
……何か、面白そうな話になってきた。
「勿論初対面の人間なんて勿論喋れる筈もない……筈なんだけど」
「喋れてるねぇ」
視界の真正面。適当な距離は開けつつも、しかし千穂と陽輔は楽しそうに会話している。
「千穂が頑張ってるのか、それとも彼が特別なのか。……どっちだと思う?」
「さて。案外両方の様な気もするが……まぁ、とりあえず」
「そうね」
ニヤリ、と真弓の口元がほくそ笑む。
多分、俺の口元も真弓と同じように歪んでいる事だろう。
けしかける気満々であった。