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118:Flight Escape

下部ハッチを開放し、高度をギリギリまで下げてその場の人員を無理矢理乗せる。


『おい巧っ! これ奥に入れないぞ!!』

「悪いがこの機体機密だらけでな。あんまり多くの人間に勝手に見せられんのだよ」

『な……うわっ!?』


全員が搭乗した事を確認し、ハッチを閉じながら一気に上空へ。

危ない。もう少しで小型種に取り付かれるところだった。

この機体にもマニュピレーターは搭載されているけど、それはあくまで作業用とか追加装備調整用とかいうかんじで、戦闘用の物ではなかったし。


流石に、この機体で接近戦は自殺行為だ。

――まぁ、近距離で範囲攻撃、っていう手もあるが。


『うわああああああああっ!!!』

『キャアアアアアッ!!!』

『ひいいいいいいい』『うわわわわわわっ!!??』『きゃはははははははは』


通信機越しと、すぐそば……具体的には一つ扉の向こうから聞こえてくる騒がしい声。

コレは……いらいらする。いや、マジで。

こっちはただでさえ洒落にならない量の情報を頭一つで処理していると言うのに。


「陽輔、喧しい!」

『だってこれ、ベルトかなんか無いのか!?』

「壁にバインドで貼り付けとけ!」

『俺遠隔補助系は苦手なんだって!!』


ああもう、面倒な。

因みに遠隔補助系とは、魔術の分類と言うか表現の一種で、自己補助系が自己治癒促進や身体能力強化。近接補助が自分の武器なんかにかける武器強化とか。で、遠距離が人間対象にかける特殊効果……回復魔術(ヒール)とか、拘束魔術(バインド)とか。


演算を少し割り振って、通路の辺りの人影を演算する。

えっと……デブいのが一匹、トッポいのが一人、カップル一組とちび一つ。

それぞれを、肩越しに腹部を押さえるような感じで壁に固定する。モデルはジェットコースターの安全器具だ。


さて、とりあえずはさっきのコンテナを投下した辺りまで戻るか。

周囲にあるアンノウンの反応へ向かって魔術を連射しつつ、同時に人間の反応が無いかを確認しながら長門を操る。


流石に、広域探査を連続して使うと頭が痛い。

まぁ、その代わりではないだろうけれども、この地域で他に逃げ送れた人間は居ない様子だ。

逃げ遅れたのは今積んでいるこいつ等だけ。全く。


最後に周囲を全力で探査する。後は逃げるだけなのだけれども、もし逃げ遅れとかが向かっている最中で、それを拾い損ねたとかになると相当に後味が悪い。

入念に探査を欠けて、逃げ遅れが居ない事を確認しながら移動を続ける。

正直、余計な負荷を受けてる気がしないでもない。

……まぁ、後味悪くなるよりは良いんだけれども。


最大加速で中央広場に戻ると、其処にはHMが一機。

突撃銃を両手に構え、背後に設置された弾薬コンテナから供給される弾丸を接近するアンノウンに撃ちまくっていた。


「あれは――真弓か」


HMの肩に見えるマーキング。アレは俺の使っていた1001号機に入れてもらったペイントだ。

赤い蛇のマーク。略式では有るけれども。


「此方長門。1001号機、聞こえるか? おーい、真弓ぃ」

『聞こえてるわよ。っていうか、もう少しちゃんと防備を調えてから移動しなさいよ!!』


通信機から返って来る怒鳴り声に思わず耳を塞ぎつつ、長門をコンテナのすぐそばに着陸させ、そのついでに通路にかけておいた拘束術式を解除した。


「ほれ、陽輔。お前が誘導しろ。コンテナに駆け込めば保護してもらえる筈だから」

『いや、その前に今真弓って、彼女も来てるのか!?』


モニターが音を立てて、外部の様子を拡大表示する。

見れば、ハッチから降りたのであろう陽輔の顔がドアップで表示されていて。

野郎の顔のアップなんて嬉しくない。


「其処のHMパイロットな。真弓だ」

『んなっ、――巧っ、俺にもHMを貸してくれ!!』

「無茶言うな。アレは俺も借り物だし、そもそもお前の技量じゃ足を引っ張るだけだ」

『なっ、でも前は!!』

「武術とHMの操縦技術は別だ、と言ってるんだ」


前回、確かに陽輔はHM……超大型HM“大和”を操って、アンノウン大型種と相対することに成功している。

けれども、大和というHMはそもそも三人乗りの機体であり、陽輔はその機動制御を担当していたに過ぎない。


現在のHMに最も大切なのは其処ではない。一番必要とされる技能は、やはりまだHMの“魔力操作”だ。

その点、真弓はさすが機構科というべきか、HMの魔力配分にかけてはそこらのHM乗りにも引けを取らないように感じる。


「第一、今回は退避援護が主任務で、接近戦なんてする必要も時間も無いんだ。今回は大人しく避難してろ」


言うと、悔しそうな顔をした陽輔は、千穂嬢に連れられてコンテナの中へと退避していった。

全く。正義の味方は立派だこと。


とりあえず、先ず最初にコンテナを長門と接続する。

この専用コンテナは、そもそも長門の追加武装やHMの空輸、その他諸々を考えて、長門専用に設計されたものだ。

ガチリ、と音がして、長門の尻の部分に巨大な鉄の塊が接続されたのを確認する。


「各種接続問題なし。――オールグリーン」


再接続に伴う異常点検を行い、その何処にも問題が無い事を確認して。


「よし――真弓、この機体の上に乗れ!」

『ええっ!?』


言ったら叫ばれた。


『何言ってんの!? んなの無茶に決まってるじゃない!!』

「それが無茶でもないんだよ!! コイツの基礎出力は洒落にならない桁を誇っている。HM一機上に乗せたって、普通に飛行できる程度にはな」


そう、このPEAM長門は、そのサイズこそHMとほぼ同規模ではあるものの、内用する出力はHMのそれを大きく上回る。

魔力依存の為パイロットの技量にもよるが、今の俺ならば長門に乗った状態でHM二個中隊を主機無稼動で遠隔操作させる手移動の出力は得ている。


「そもそも、このコンテナ、追加ジェネレーターとか積んでないんだぞ?」


背後に接続した巨大な鉄の塊。これを空に飛ばせているのは、ひとえに長門本体から供給される膨大な魔力とその術式による物でしかない。


『……なんていうか、前も思ったんだけど、無茶苦茶ねその機体』

「便利なんだけどな。素人にはオススメしない」


言っている間に小型種の群れが徐々に此方に近付いてきている。

総数50。これで前線を抜けたアンノウンはすべてだろうが、流石にこの数に接近されると、長門はともかく接続しているコンテナが危ない。


「はやく!!」

『わかったわよっ! 飛べなくなっても知らないからね!!』


言って、真弓のHMがその銃身に繋いだ弾丸供給用のベルトを強制排除した。

そのまま真弓のHMは長門の上にゆっくりと登り、そのまま膝立ちの姿勢で銃を構える。


『――案外、安定するのね』

「元々乗れるように、上面は平たく作ってるからな」


本来のAMの立ち位置は、ドダ○YSとか、SFS(ゲタ)とか、そういうものとしても使えるように設計されていたのだ。

――現行機である陸奥に其処までの出力は無いのだが。精々HM一機積むのが限界だろう。装備は別途。


「いいから、取り敢えずは小型種が飛び移ってこないように援護してくれ」

『はぁ? 高度を上げれば良いじゃない。それとも何、言ってたくせにやっぱり出力が上がらないとか?』

「んにゃ。単純に俺の限界が近い」


既に頭に掛かる負荷は、痛みのレベルに到達していた。

やっぱりアンノウンの勢力情報を何度も探査していたのが響いたのだろう。

素直に統合情報リンクに繋いでおけばよかったかとも思うが、アレは拠点を攻撃されている所為で精度がかなり荒くなってるからなぁ。


『ちょっと、大丈夫なの!?』

「あー、高度が取れないって言っても、25メートル以上は取れてるから、あとはビル越しに飛び移られるのを警戒してほしいだけで、殆ど問題ないんだけどね」

『そっちじゃなくて、アンタは大丈夫なのかって聞いてるの!!』

「んー、これ以上魔術を使うとヤバイけど、移動だけならなんとか」


言うと、モニターの向こうでほっとする真弓の顔が浮かんだ。


「なに、ツンデレ?」

『誰がツンデレよっ!!』


そんなジョークに少しだけ気分を回復させて、そのままゆっくり、けれども迅速にその場からの離脱を開始する。

機体の上で銃座となって突撃砲を乱射する真弓のHM。


探査術式で計測してみるが、中々の精度で敵を撃墜していく。

俺用の調整のままで使っているとは思えないし、だとすればあれは初期設定の状態で使っているという事に成るのだけれど……?


「四十万さん、って人がセッティングを手伝ってくれたのよ。おかげで簡単にだけど、私に最適化してあるわよ」


なんてこった。仕事が速いぜ四十万さん。じゃなくて。

――いいのだろうか。一般人に、勝手に軍の機体を、しかも最新鋭機を使わせてしまって。


『巧、右にズレて!!』

「おっと!!」


ぬるりと機体を右へスライドさせる。普通の航空機には決して出来ない機動。これこそが魔力推進式の特性だ。

因みに、宇宙にだってこのまま行けたりする。流石に大気圏の単独離脱は出来ないけど。

……まさか、そのための後部接続? え、ブースター積めるんですか!?


『速度上げて!! 右翼から軍の人達が援護に来てくれてるから、そこで後続まくわよ!!』

「あいマム」


背後を警戒しつつ、若干右旋回する。

と、背後から此方を追いかけてきていたアンノウンの群れが、近場にあったビルを駆け上り、それを踏み台にして此方へと飛び掛ってくる。


「うおっ!!」


その姿が、真横からの砲弾でゲチョグロに破裂するのを、モロに見てしまった。

うえ。


『……お肉食べれなくなりそう』

「お前が? 嘘だろう」

『ちょっとそれどういう意味よ!!』


そんだけ元気ならば大丈夫だろう、なんていいつつ。

此方を追尾していたアンノウンの注意が、援護してくれている部隊のほうへ向いたのを確認し、全速力で、一直線にその場から離脱を開始した。


『ちょっと、何処に行く気!?』

「空牙湾。あそこなら着陸できるスペースも、近くに道路もあるしな」


ここからLoG……雪吹までは、近いといっても少し距離がある。

そのほかにこの機体を着陸させられるような広いスペースというのが、パッと思いつかなかっただけ、というのもあるのだけれど。


「……とりあえず、真弓。後は任せて良いか?」

『――ちょっと、本気で大丈夫なの?』

「いや、流石に不味い。魔力にはまだ少し余裕があるが、頭が限界。割れそう」

『巧!?』

「いや、着陸させるまでは大丈夫だと思うんだけど、それ以降はちょっと」


言っている間にも、意識が薄れていこうとする。

遠のく意識を無理矢理覚醒させて、漸く見えてきた湾に向かってゆっくりと機体を下降させていく。


『任せるって、何をすれば良いのよ』

「救急車と、警察の手配。避難民輸送の為の手段を用意してもらうよう――あと、長門と疾風への第三者の接触を禁じて……両方とも、まだ機密物」


不味い、と思った瞬間に長門がガクンと揺れる。

最後の着地の瞬間、少しだけ制御を誤ってしまったようだ。


「んじゃ、後頼む」

『ちょ、巧!? 返事しなさい巧っ!!』


最後に、コンテナのハッチを遠隔で開放して。

モニターから流れる声が遠くなるのを聞きつつ、またこんなオチ(きぜつ)かよ、とか思いつつ、意識を手放したのだった。



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