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117:The Sword

 ※ ※ ※ ※ ※


「術式添付:魔力強化/概念付与!!」


必死に術式を編んで、それを手に持った剣に付与する。

剣……といってもそんな上等な物ではなく、近場に合った施設の、損壊した金属部品を錬金系魔術で無理矢理剣の形に直しただけの物だ。


とは言ってもさすが軍の施設。良い素材を使っている。錬金術の代物だろう。

瞬発的な魔力は弾く癖に、じっくり通す力は確り受け入れてくれる。


「おおおおっ!!!」


その剣で、振り下ろされたアンノウンの爪を弾き、返す太刀でアンノウンの腕を斬り飛ばした。


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」


悲鳴のような声を、一体何処にあるのかもわからない口から叫ぶ怪物。

声こそ気色悪いものの、作り出した隙は紛れもないチャンスだった。


「はぁっ!!」


ガッ、と音を立ててアンノウンの胴体の中心。そこを覆っていた甲殻素材を、兜割りの要領で真っ二つに叩き割った。


「千穂ちゃん!」

「はいっ!!」


その瞬間に背後から飛び出してきた千穂ちゃんと立ち位置をスイッチする。

寸前まで俺の立っていた場所に入り込んだ千穂ちゃんが、俺の作り出した割れ目に向かってそれを突きつけた。


156式強装炸裂砲。現在、人が所持できる、魔力を使わない中では最強と言われている火器だ。

幅四センチはあろうかと言う巨大な弾丸を放ち、さらにその巨大な弾頭を爆発させる事で対象に甚大な被害を与える。


イメージとしては、小型化した艦砲射撃、と言ったところか。

錬金術による素材進歩の賜物、という事らしい。こういうのは俺よりも巧の方が詳しいと思うけど。


「陽輔君っ!!」


千穂ちゃんの声に反応して、直感で真後ろへ飛ぶ。

直後振り下ろされた新たなアンノウンの爪に、前髪が数ミリ風に流されていった。


「うおっ、術式展開:葉隠瞬歩」


この状況で一人孤立するのは不味いと判断して、咄嗟に術式を構築する。

幻惑系の術式で、昔忍者が使っていた、なんて噂される術だ。


「千穂ちゃん、大丈夫?」

「はい。陽輔君は?」

「問題ないよ」


言いつつ、こっそりと剣の具合を確認する。

急ごしらえな上、無理矢理魔術強化で酷使している所為で、この剣もあまり持ちそうにない。

錬金術で応急処置してはいるものの、魔術による劣化を魔術で直す事は、特上の魔術師でもなければ早々にできる事ではない。


「お二人さん! そろそろ此処も連中に包囲されかけとるぞ!!」


背後からそんな声が聞こえる。

不味いな、こっちの出入り口がつかえない状況で、此処から移動となると……。


「考えるのは後回しか」

「おにーちゃん、おねーちゃん、はやくー!!」


少女の声に促され、千穂ちゃんに視線を送る。

千穂ちゃんに先に退避してもらい、俺が引くのを遠距離からサポートしてもらう、という役割分担を決めて。


「術式展開:雷線」


術式としては単純な、指定空間に電撃を流し込む、基礎的な雷撃魔術。

非物理攻撃であって、俺程度の階位の魔術師ではアンノウンを怯ませるくらいしかできないのだが。

俺達の目的は敵の殲滅ではない。

あくまでも、現場離脱が最優先目標なのだから。


「――くうっ!!」


そも、魔術科とはいっても、俺は魔術よりも剣術のほうが得意な人間だ。

やっぱり下手に魔術を使うと消耗してしまうか。


「はやく! こっちこっち!!」


手招きする青年を目印に、其処へ向かって全力で駆け抜ける。

なるほど、埋設通路か。この基地内、地上部分は航空機の発着地点だったり、HMの外部施設だったりと言う物が点在している。


となると当然の話、その部分を通行する事は出来なくなる。

けれども一つ一つの施設が巨大なこういった軍事施設では、態々迂回したりという事をしていると途轍もない時間のロスになる。

そういう場合に利用されるのが、その半分ほどを地下に埋められている埋設通路だ。

以上、遠野駐屯地公開式典解説マップより。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「ゲエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


「ふぅ、どうやら逃げ切ったようだね」

「ブアーー!! 老体を走らせるもんじゃねーぜ」


青年と中年が背後を見ながら。そんな呟きを漏らした。


現場、本筋の避難の流れからそれてしまい、此処に残っているのは俺を含めた五人。

俺と千穂ちゃんと、みほちゃん(小学校低学年)とその従兄弟を自称する工藤歩さん(大学生らしい)と、何処かのブースの親元で出資者の林道(中年デブ)の五人。


「老体って程の老人でもないでしょうに……」

「お肉いっぱいだよー!」

「じょ、嬢ちゃん……」


小学生に腹の肉をつままれて、ちょっとガックリするデb……林道氏。

工藤さんは大慌てでみほちゃんを回収するが、……ニヤニヤ。

普段から運動してないからいざと言うときに躯がいう事を聞かなくなるんだよ。しみじみ思う。


「でも、此処も絶対安全とは言い切れません。早々に移動を……っ!?」


ガコンッ、という破裂音。

振り返れば、地上から少し沈んだ狭い出入り口に無理矢理身体を突っ込む小型アンノウンの姿。


「おいおい嘘だろう!?」


林道氏が零した台詞は、まさしくその場に居た全員の心の内を代弁していた。

だって、嘘だろ。アレに骨格があるのかは知らないが、如何考えても形が変形してるぞ。

さっきまで直立歩行してた怪物が、四足歩行用に……しかも、骨格ごと変形してるっぽい。


「――間違いありませんね。確かに骨格が少し――いえ、かなり変化してますね」

「本っ格的にわけのわからん生き物だなおい!!」


同意する。本当に。

ナンなんだろうね、アレ。いや、俺なんかが考えたところで、世界中の学者さんの現行のメインテーマを解き明かす事が出来るとも思えないんだけどさ。


「とりあえず、逃げろっ!!」


工藤さんの掛け声で我に帰り、一斉に反対側の通路へと向かって駆け出す。


「二人とも、早くっ!」

「殿が居るでしょう!! むしろ千穂ちゃんも早く逃げてって」

「魔術は使えませんけど、コレが有れば瞬間攻撃力だけなら私も十分役に立てます!」


ドンッ、ドンッという砲撃音。

合間合間に響くのはポンプアクションのガチャッという装弾音。

――くそう、俺の惚れた女の子、やっぱり可愛いだけじゃなくて、滅茶苦茶格好良い。


「ほれ青年、早く来い!」

「で、でも……」

「此処にわしらがのこっとるほうが足手まといになるんだ!」


言いつつ、林道氏が懐から拳銃を抜き出す。

とてもアンノウンを倒せるような代物ではないが、牽制には十分なる。


「……って、あーあー、回り込まれたぞ」


林道氏の声に視線を反転させる。

埋設通路の反対側の出口。日の光が差し込む其処に、その日光をさえぎる黒い影が。


「囲まれた!?」

「でもまだ数が少ない。増える前に強行突破すべきじゃ――」

「いえ、すぐ其処に緊急通路があります。そこから地上へ出ましょう」


千穂ちゃんが指す先には、確かに緊急路と書かれた灯が。

その脇にある扉の脇、カバーに覆われたスイッチを叩き割りる。

途端にプシューッ、と音を立てて開放される扉。


「千穂ちゃん、先頭で陣地確保お願い」

「陽輔君は!?」

「俺は殿。いざとなれば身体強化で逃げるから!!」


言いつつ、身体に身体強化を、刀身に魔力付加をかけなおす。


「早く!!」


言いつつ、四足で想像以上の速さで近寄ってくるアンノウンを下段から切り上げる。

カウンター気味に顔?のような部分に入ったおかげで、真っ二つになるアンノウン。

その脇に隠れながら、飛び出し様に一匹に切りつける。


やっぱり一対一の接近戦ならこっちにも十分処理できる相手か。

此処が狭い限定空間でよかったかも。


「ぼうずっ!!」


声に反応して、一気に背後へと飛び退く。

視線を少しずらして、時間稼ぎが完了した事を確認した。


「林道さんもはやく……」

「馬鹿モン!! 言ってる間にさっさと来い!!」


パン、パンッ!! 乾いた火薬の炸裂音が響き、迫るアンノウンの先頭の一匹に命中する。

何処か感覚器官にダメージを受けたのだろうか。そのアンノウンは勢いそのままに転がり、他のアンノウンを巻き込んで盛大に通路を塞いだ。


「ほれ、早くせんかいっ!!」

「は、はい……」


何この人。あんな拳銃でアンノウンを本当に足止めしてしまった。

ただの中年デブじゃなかったのだろうか。


内心でかなり驚きつつ、けれども最優するのは逃げる事と好奇心を押し殺して、設置された階段を地上へ向かって一気に駆け上がった。


「ぶはーーー!!」

「千穂ちゃん、如何!?」

「よくありません。地上は既に制圧されちゃってます!!」


悲鳴に近い声を上げる千穂ちゃん。

そりゃ、幾らLoGの生徒とはいえ千穂ちゃんは普通科の一般的な学生。

俺みたいな魔術科の生徒でも、まして機構科の生徒でもない。

むしろ、今までよくあんな鉄砲で気丈に振舞えたなと思うし。


「何処か、どこかに逃げ道は……」


慌てて周囲を見回す。けれども、周囲は既にどの道をもアンノウンに囲まれてしまっていて。

幸い、まだ此方を察知された気配は無い。いまならまだこっそりと移動する事が出来るかもしれないが……。


「――――」

「……? どうしたのみほちゃん?」


視線をめぐらせている最中、不意に眼に留まったみほちゃんが、何処かはるか遠くを見つめたまま固まっているのに気付いて。


「あれー」


みほちゃんの指す指の先。はるか遠くに見える空に、ポツンと浮かぶ巨大な影を見つけて。

……あれは、まさか。

いやで、でも。アイツ、確かにこのお祭りには来てたし。


「千穂ちゃん、高いところに移動するよ」

「それは――っ!! 分りました」


問い掛けた千穂ちゃんは、けれども指差すその先を見ただけで大分を察してくれたらしい。

向こうが此方に気付いた様子は無いが、高いところで何かしら大きな合図を出せば、流石に気付いてくれるだろう。


「ど、どうしたんだい?」

「後で説明しますんで、とりあえず其処のビル、昇ってください!!」


言いつつ、近くにあった何かのビルに外付けされた階段を指す。

二階建ての低いビルだが、この辺りでは結構高めの建物になるんじゃないだろうか。


「何か考えが有るんだろうな。先頭はわしが行くぞ!」

「ほら、みほちゃんも」

「うん!」


工藤さんに抱かれ、二人は林道さんの後を追って走り出した。

カンカンカンと音を立てて階段を上る。金属製の階段である以上、如何してもこの音は仕方の無い事なのだけれども、やはり隠密中に立てるには少し大きな音だったようだ。


「気付かれたっ!!」


下を見れば、此方を注視しているアンノウンが1、2、……ひぃ、6ぴき。

さっきの地下通路みたいな限定空間ならともかく、こんなだだっ広い、しかも縦軸に限定された空間でなんて、俺に出来る事はかなり限られてしまう。


「とりあえず屋上に!!」


大慌てで一気に屋上へと駆け上がる。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


咆哮を上げるアンノウン。何かしらの合図でも出しているのだろうか。

叫び声を上げたアンノウンは、まるでそれを鬨の声とでもしたかのように、そのまま此方のビルへと向かって突進を仕掛けてきた。


「うわっ!!」


慌てて駆け上ったその直後、さっきまであったはずの足場は綺麗さっぱり消失していた。

大きなゆれを堪えつつ、ビルにあいた大穴を確認する。どうやら勢い余ってビルに突っ込んだらしい。


「今の内に!!」


前をせかしつつ、此方は周囲に牽制する為に魔術を編みあげる。

術式展開:電磁封地雷。

設置範囲は有視界範囲に限られるが、ビルの周囲の目に見える範囲にばら撒いておけば、これに引っかかった相手はなんであろうがほぼ無条件に拘束されてしまう。

これは学校で習ったやつではなく、「ほら、お前キャラ属性がアレだから」とか分けの判らんことを言う巧に覚えさせられた術式だ。

汎用性は高そうだったし覚えたのだけれども……まさか、早速使う事になるとは。


ヴん、という音を立てて魔術地雷が設置されたのを確認して、再び先頭を追って階段を駆け上った。


そうして、その屋上。

何処から現れたのか、一体のアンノウンが千穂ちゃんと向かい合っていた。


「ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


魔力全開(フルドライブ)! 身体強化/武器強化/属性付与・炎


爆炎をもって加速し、一気にアンノウンへと飛び込む。

振り下ろされる手は、けれども今の俺にとっては何の事も無い。


一太刀目で腕を跳ね飛ばし、残る慣性でアンノウンを思い切り蹴り飛ばした。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


咆哮を上げて後退るアンノウン。


「無事!?」

「は、はい。すいません、弾切れの瞬間を狙われました」

「いや、無事でよかった」


申し訳なさそうに言う千穂ちゃんに、微笑みながら返す。

いや、本当によかった。咄嗟に使った高速詠唱が成功したからよかったものの。もし失敗してたらどうなっていたことか。少しぞっとする。


「とりあえず、コイツを処理して……」

「うしろー!」


みほちゃんの声に意識を向ければ、背後からドスンドスンという振動に続いて姿を現すアンノウン。

如何やってビルを昇って……まさか、壁に腕を突き刺して、無理矢理? だからどれだけ馬鹿げた生物なのかと。


「不味い、このままじゃ持たんぞ!!」

「持たせてください!!」


叫んで、皆を庇う位置で剣を構える。

不味い。本格的に不味い。一対一ならまだ処理できたかもしれないが、一対多数になると、一匹の処理に集中して居る間に味方が被害を受ける、という可能性が否定できない。


せめて、もう一人此処に魔術師なりが居てくれれば。


「「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア」」


前後のアンノウンが咆哮をあげ、それに共鳴したかのように二体はタイミングを合わせて此方へと突進を繰り出してきた。


こうなっては、仕方があるまい。

自爆覚悟で、巧に教わった裏技……身体強化二重掛けで……。


そうして、それを実行しようとした瞬間、アンノウンの姿が完全に消滅した。


「………は?」


消滅。跡形も無く、前後のつながりも無く。

突然、姿形がこの世から消え去った。まるで、繋がらないフィルムのように。世界がその瞬間に書き換えられたかのようでも会った。


『くくく、くはは、あーっはっはっはっは!! 助けに来てやったぞ、色ボケヒーロー!!』


そうして聞こえてきた天からの声に、思わず苦笑を漏らし、その場に座り込んでしまった。


「……どっちがヒーローだよ。ってか、タイミング狙ってないか?」


見上げた空には、真紅のAMの姿。

思わずこぼれた言葉には、自分でも意識していない安堵の色が載っていた。


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