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115:Rusty Wands


「ぶっ飛べっ!!」


魔力による物理攻撃。

単純な衝撃波を放つのではなく、魔力による仮想物質の投影により槍を形成し、ソレを加速させて放つ事で相手に貫通系のダメージを与える。

俗に魔力槍とか呼ばれる、魔術科なら大抵習う基礎的な魔術を、けれども高校レベルでは到底教えないであろう多重詠唱(マルチキャスト)で、同時に30を撃ち出す。


ズガガガガガガガガガ!!! 轟音を立てて大地を削る魔力の塊は、着弾して暫くすると再び無へと還り霧散する。


「……っ、つーー!!」

『今ので二体脱落。凄いわね……』

「全然駄目だ。こんな調子じゃ削り足りない!!」


頭にセットしたインカムから洩れる真弓の声にそう返し、端末に表示したマップに示される到着予定ポイントに向かって、再び移動を再開した。


ダンッ! 地面を蹴り、そのまま空を舞って一気に移動する。

魔力による身体強化と、並列した魔力爆発による瞬間的加速。

何かと魔力消費の多い技のコンボだが、最近碌に身体を動かしていなかったツケがまわったらしく、校でもしなければまともに身体を動かせない程度になまってしまっていた。


「こりゃ、暫くは筋トレか……」


少し憂鬱になりながら、けれども視線の先に再びアンノウンの小型種を確認して、空中で急停止する。

前方に仮想魔力体を形成/固定し、それを足場に一気にアンノウンへ飛翔。


「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

「う、うわあああああああああっ!!!!」「キャアアアアアアアアアア!!!」


襲われているのは、逃げ遅れたのであろう大学生っぽいカップル。

その隙間に飛び込み、魔力で強化した蹴りの一撃をアンノウンへと見舞った。


「ゴオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア!!!!???」

「肉塊風情が調子に乗るなああああああああああああ!!!!!!!!!」


大きく背後に仰け反るアンノウンの懐に飛び込み、そのまま一気に魔術を編み上げる。

重複詠唱デュープリケイトキャスト/身体強化二重がけ。


「ぬ、ぐあああああああああああああ!!!!!!!!」


普通、肉体に直接作用する系統の魔術というのは、重複させる事を基本的に良しとはしない。

なぜなら、例え回復魔法であれ、過剰な肉体への直接干渉は、身体に途轍もない負荷を掛けるものだからだ。


バリバリと身体を駆け抜ける魔力と術式。

激痛を咆哮で吐き出し、二重がけされたその威力を持って、全身全霊の飛び蹴りを放った。


「ゴアアアアアアアア!!!」


顎(が存在するのかは知らないが)の部分に直撃した蹴りは、そのままアンノウンをさらに後退りさせた。


「消し飛べ――っ!!」


遅行詠唱(レイトスペル)/術式増幅+高位攻撃魔術雷神の一撃(トールハンマー)

高く蹴り上げた慣性で空に飛び上がったまま、振り掲げた拳に魔術で編み上げた雷光を召喚する。

バチバチと音鳴り散すその雷に、遅行して欠けられた増幅魔法が掛かったその瞬間を直感で判断し、その瞬間に拳の雷撃を撃ち放った。


「――――――――」


断末魔も轟音に掻き消されて消滅するアンノウン。

消し飛ばせたのは良いが……くそ、一体消し飛ばすのにどれだけ消耗してるんだか。

ああ糞っ! 昔なら初撃で消し飛ばしてたのになぁ!!

まぁ、どちらにしろカップルとアンノウンを引き離さないと高威力の一撃を放てなかったわけで。

仕方ないと言えば仕方ないのだけれども。

あってよかった。並列高速演算思考能力。


「……っ、ぶあああああああああ!!!!!!!」

「あ、あの……」

「きみ、は?」


息を吐いた途端、背後のカップルが此方に声を掛けてきた。

いきなり現れた不審者によく声を掛けるものだと思う。まぁ、怪物よりはマシか。


「と、通りすがりの、学生、です……」

「学生……って、もしかしてLoGの――」

「中央、広場へ――っ、正面は人で詰ってます、中央ならまだ……」


駄目だ。幾ら魔術で強化しても、肉体的疲労はどうしようもない。

かといって、体力回復にかける時間も今は勿体無いのだから。


「――っ!!」


再び身体に術式を通す。身体強化をかけて、さらに魔力放出で一気に飛び上がって。


「うわっ!?」「きゃっ!!」


背後に聞こえる悲鳴に、少しだけ申し訳ない気分になりつつ。


「くっそ……」


視線の先には、また逃げている民間人に迫るアンノウンが。

なんでこうも進入を許してるかなぁ、防衛軍っ!!


「消し飛べええええっ!!」


拳に溜めた雷撃を連続して放つ。

現状で魔術連発は体力の消耗が激しい。あと、どれくらい戦えるか。

倒れる前に長門を回収しなければ。


呟いて、再び空を蹴って駆け抜けた。



    ※※※※    ※※※※



『ちょっ、巧っ!! ヤバイわよコレっ!?』


そうして、漸く目的地……中央の広場へとたどり着いたところで、そんな真弓の悲鳴のような通信が入った。


「どうした!?」

『敵の増援っ!! アンノウン中型種6体を確認、この位置だと挟撃されちゃうっ!!』

「はぁっ!?」


慌てて携帯端末のマップデータに目を落す。


「……嘘だろおい」


ちょっと困った。コレばっかりは洒落にならない。

既にマップは全域に赤い光点が点在しており、その上大きな光点がマップ中央に向かって接近してきている。

このマップ上に点在する小さい光点……小型種を駆逐する前に中型種に上陸されでもしたら。

完全な混戦。そんな事態になれば、歩兵及び逃げ遅れた民間人が助かる確率は一気に低下する。


「くそが……」

『っ!? 新たに接近する機影有り、コレは……来たよ巧っ!!』

「ぬ、良しっ!!」


絶望しかけたその途端。本当、タイミングを見計らっていたんじゃないだろうか、というほど美味しいタイミングで。

見上げれば、巨大な影が空から近付いてきていた。


「……うわ」


本来の長門のサイズは、HMの平均サイズとほぼ同じ16メートルほど。

けれども今現在、空に浮いているソレのサイズは……40メートル近くあった。

何アレ。大型アンノウンと同規模ですか。


「……っと、そうじゃない」


少し呆然としたものの、慌てて空を蹴って長門へと取り付く。

下部ハッチからコックピットへと入り、そのままシートに身体を沈めた。


「……ふぅ」


何でだろうか。まだこのコックピットシートに身を沈めたのは二度目でしかないと言うのに。

何故、こんなにもこの場所は落ち着くのだろうかね?


「――システムチェック……オールグリーン。S3機関、アクセス」


Sorcery Synchronized Sistem 通称S3機関。

従来のSLSシステムとは一線を隔す、荒々しいまでに荒削りな、けれどもそれゆえに野生の獣の如き猛りを示す一つの可能性。

SLSに比べ、人間とシステムをよりダイレクトに接続――同期させるシステムだ。また、システムとワンセットとなる三機の魔導増幅機関により、搭乗者の魔力を数十倍に跳ね上げるという脅威のシステム。


ただ、システムの都合上完全に魔力依存な機体であるという弱点を持つが、ソレを除けば既存の機体でコレに適いうるのはEHM含め存在しないのではないだろうか。


PEAM-00-PCP(PrototypeContainerPack)


「さて、それじゃ、さっさと助けて、さっさと事件解決を狙おうかね!!」


身体から溢れる魔力が長門を巡回し、元の何倍にも膨れ上がった力となる。

湧き上がる高揚感を理性で押さえ込み、意識を集中する。


さて、それじゃ一仕事してみますかね。


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