002:出会い2
そうして、陽輔と二人校内の施設を適当に歩いて見て回る。
最初に校舎施設を。
この学校、海に面している為、校庭に居ても潮の香りがほのかに香る。
だというのに、施設は何処も錆びた様子など無く、むしろ全てが新品宛らの状態であった。
「魔術加工かな?」
「それじゃコストが掛かりすぎるだろう。……塗装剤が特殊なんじゃないか?」
言って、校舎の壁に手を掛ける。
精神の糸を校舎の壁に触れさせて、軽く探査してみる。
専門外であるし、そもそも素材についての知識も無い。
が、在る程度はこの壁に訊けば理解る。
「……んー、魔術の残り香はあるけど、魔術そのものは無いな」
「残り香……って、魔術で加工されたんじゃないのか?」
「錬金術で創り出された素材でも使っているんじゃないか?」
魔導にある、大きく分けて三つの区切。
神智学、陰秘学、錬金学。
神智学は、人間より高位の存在に力を借りる業。
陰秘学は、人間の内なる力を高位へと高める業。
錬金学は、世界に在る存在の形を作り変える業。
錬金学は、素材の精製とかを得意とし、在る意味最も世界に貢献している魔学である。
「んー、とりあえず次行こうか」
言って、陽輔を促す。
そもそも、校内見学をしていた筈なのに。
何故よりにもよって校舎そのものを見学しているのか。
「あー……そうだな」
陽輔も頷いて。
多少苦笑いを浮かべていたようで、その口の端が引きつっていた。
「で、食堂ですか」
たどり着いたのは、敷地の丁度中心辺りに建てられた二階建ての建造物。
ほのかに良い匂いが漂っていた。
「いや、美味しそうなにおいがしたから」
「誰も責めてないって」
良いつつさっさと校舎の中へと足を運ぶ。
「あ? 巧?」
「食堂行くんだろ? ほら、さっさと行こう」
言いながら足を前へと進めて、ガラスの扉を押し開いて。
「お、良い匂い」
「こりゃ……カレー? すっごいにおい」
広がるのは、白く清潔な建物の内装。
テーブルと椅子の立ち並ぶその白い空間に、しかし漂うのは猛烈なカレー臭。
「俺は券売機を見てくる」
「んじゃ、俺はその辺を見てくるよ」
歩いて、そのまま手近な券売機を見つけて、そのラインナップに目を落として。
何故かは知らないが、カレー以外の品物は全て売切れになっていた。
…何で?
「今日は入学式だし、人も少ないからメニューを制限してるんだって」
背後から声を掛けられる。
振り返ると、其処には制服に身を包んだ少女が一人。
赤いネクタイを巻いているところを見ると、どうやら俺と同じ一年生のようだった。
「成程。学食がカレー専門店になったのかと一瞬焦った」
「クスッ、私は別にカレー好きだからいいけどね」
言って少女はニコッと笑った。
…成程。道理でカレーの香りがする筈だ。
俺は確り見たぞ。この子の背後の机に置かれた大盛りのカレーをっ!!
「わたし樋口 真弓。機構学科所属の一年生ね」
「ん。七瀬 巧。魔導学科の一年だ」
言って握手を交わす。
「然し、何故樋口はこんな所に?」
「友達と学校見学にね。ほら、オープンキャンパスの時ってあんまり見て回れなかったから」
「俺達と同じ目的か」
「で、その途中でお腹も減って、お昼だから学食に行こうって話になったの」
……まぁ、大体理解できた。
要するに樋口は俺達の同類なのだろう。
「あ、それと私の子とは真弓で良いよ。みんなそう呼ぶし。その代わり巧くんって呼ぶから」
「ん……。解った。善処する」
正直、初対面の女の子を呼び捨てにするっていうのはかなり辛い物が在る。
――んだけれども、樋口……真弓はそれを緩和させるような明るい笑顔を持っていて。
なんというか、不思議な子だ。
と、挨拶を交わしていたそのときだった。
「キャアアアアッ!!!???」
そんな悲鳴が響いていた。
「――っ!?」
「千穂っ!?」
俺が声の方向を振り向くのと、真弓が其処へ駆け出すのは殆ど同じタイミングで。
「むぅ……」
一声もらして、真弓の後を出遅れながらも追いかける。
真弓は「友達と」学校見学に来ていたと言っていた。なら、あの様子からして悲鳴の主は真弓の友達なんだろう。
その彼女が悲鳴を上げて……。
まぁ、助けられるなら助けよう。
と、思っていたのだけれども。
「…………………」
「…………………」
隣に並ぶ真弓からも、俺と同じく唖然とした気配が伝わってきている。
そりゃ、こんな光景前にしたら、如何反応すべきかわからなくもなるだろう。
「あ、あの……」
「…………っ…」
二階テラスへの階段の下。
床に大の字になって倒れ臥す陽輔と、その上に丸まって抱きとめられている見知らぬ少女。
……何となく把握。
大方、少女が階段から落ちかけて、陽輔がその少女を庇ったとかそんな感じだろう。
なんてお約束な奴なんだ。
ただ、問題なのは二人とも顔を真っ赤にして身動きがとれずにいることだろう。
陽輔も少女も、顔を真っ赤にして、パニックになっているのが一目瞭然だ。
で、それを何とかできる真弓はと言うと、その光景に唖然としていて。
陽輔は言うまでも無く、あの少女も美形だし、物凄く絵に成っていた。見惚れるのも当然か。むしろ俺も現在進行形で見惚れていたり。
「――――う、うぅ…」
「あ、あわわっ……!?」
結局、正気に戻った真弓が二人を引き起こすまで約5分間、二人はそのままくっついて寝そべっていたのだった。