107:Machina
先ず最初に行われたのは、エントリーする機体を並べての大雑把な紹介だった。
この1対1の対戦に参加するのは、総勢12機のHM。
各部隊から二人ずつと、特別選考枠が4名。
特別選考枠に選ばれるのは、一人が遠野駐屯地最強と言われている兵士。二人が外部……LoGから選出された生徒の参加で、最後の一人が俺、という事に成っている。
因みに俺の扱いは、開発企業のテストパイロット、という事に成っている。
正直、衆目の前に出た時は相当緊張した。
まぁ、機密保持の為という名目で、フルフェイスのヘルメットで顔は隠してたんだけど。
でも、やっぱり注目を浴びたようですこの疾風。
なんともイロモノな装備をしているのもさることながら、どうも俺のマーキングが兵士さんたちに快く思われて無いくさい。
戦場に出た事もないガキが何を一丁前に……という感じだろうか。
――まぁ、此方の事情を明かしているわけでもないし、態々他人に明かす心算も無いし。
因みに、俺のマーキングは楕円七角形の赤いウロボロスだ。自分の尻尾を喰ってる蛇。
まぁ、他人の感情なんて如何でも良い。
外来のお客さんが楽しんでいるのならば、今回のエンターテイメントとしては成功なんだし。
『それではー第一階戦ん~~、0304号機“カルネバーレ”対1001号機の一対一模擬戦闘に入ります。両者、ステージへっ!!!』
司会の声に導かれて、機体を起動する。
「オペレーションシステム、SLS起動。精神周波数同調。魔力供給異常無し。各部チェック――オールグリーン」
その巨体を音も無く立ち上げ、静かに、けれども素早くステージへと歩み込んだ。
少し待って、真正面に黄色い疾風の姿が現れたのを確認した。ちょっと趣味の悪い色だと思う。
距離は2000。相手の武装は36ミリ砲と長刀。スラスター系統を強化した、シンプルなエース機のようだった。
『それでは~~~第一試合ぃぃぃ~~~~レディイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!』
集中する。
相手の実力がどれ程のものかは知らないが、少なくとも真面目に戦うのが相手への礼儀だろう。
まぁ、相手が此方を舐めているようであれば、痛い目を見せる心算ではあるが。
耳に試合開始の合図が聞こえていた。
相手の黄色い疾風は、此方に遠距離戦用の武装が無いと判断したのだろう。即座に36ミリ砲を構え、中距離から此方をしとめる心算らしい。
牽制にばら撒かれる弾丸を無視し、早速背中に背負った電子戦用装備を起動させることに。
途端、黄色い機体の様子がおかしくなる。くくくく、焦ってる焦ってる。
『おおっとぉ、如何した事だコレは!? 1001号機の姿が、カルネバーレの視界から消え去っているぞぉおおおおお!!!???』
ざわめく観客と、現状をわかりやすく叫ぶ司会。乙。
『さて解説の金原さん、これは一体どういうことでしょうか?』
『簡単な話ですよ。あの1001号機の背部に設置された機械。アレは一種の妨害装置の類であって、敵HMに対して視認の阻害やロックオンの邪魔をする効果があったはずですよ』
『HMといえばアンノウン戦ですが、よくそんな装備が存在しましたねぇ』
『HMは紛争地域とかでは普通にHM同士で戦いますから……然し、あんな代物私も資料でしか見た事有りませんでしたよ』
とはいっても、コレは所詮旧式の機械。本来は強風とかが使っていた時代の物で、とても疾風の高度なセンサーを何時までも騙していられるような代物ではない。
今の内にスラスターを全開で吹かし、一気に黄色い機体へと肉薄する。
と、案の定相手の視界が回復したようだ。即座に36ミリ砲を此方へと向けて、引き金を絞ってきた。
「まぁ、当然対策はあるわな」
術式演算。SLSを経由して疾風が術式を発動させ、そのまま機体の軌道を直線から少しずらす。
『おーっと如何した事だ!? 今度はカルネバーレの視界に、何体もの1001号機の姿がぁぁぁぁぁっ!!!!』
『これは……魔術ですね。幻術系、虚像結合のようですが……HM越しだというのに、見事な精度ですねぇ』
黄色い機体が、此方の編んだ幻想へとむやみやたらに乱れ撃ちをしだした。
落ち着いてれば、こんな簡単な魔術簡単にレジスト出来るだろうに、どうも熱くなりすぎているらしい。
右手のドリルに魔力を溜める。
ギィィィィ、と甲高い駆動音を立てて回転を開始するドリル。
黄色い機体を囲む全ての幻想の右腕で、そのドリルは光を纏いだしていた。
「さぁ、沈めっ!!」
錯乱したかのように銃を乱れ撃つ黄色い機体。その砲弾をかいくぐり、一気に接近。そのコックピットめがけて右手のドリルを突き出した。
流石に直撃させるのは不味いので、寸止め。それでも、勝敗は十二分についていた。
『おーっと如何した事だーーーっ!!突如として0304号機がその行動を完全に停止させてしまったぞおおおっ!! 直接接触は無かった筈だがああっ』
『コレは……なるほど、魔力式時空穿孔ドリル、か』
『どういう事なんですか金原さん!』
『あのドリルは、実際に回転させる事で相手を削る、と言うのにも当然使えはするんですが、その本当の意味はむしろ、その回転、そして三角錐という形なんです』
『アレはドリルであって、ドリルそのものとして使われたわけではない、と?』
『ええ。多分ですが、あのドリルを起点にして、コックピットへ直接魔力を叩きつけたんでしょうね。三角錐は魔術的に力の集中を司ります。これは魔女の帽子などにも見られる事です』
『昔ながらの魔女の帽子。某ネズミーも被ってましたねぇ』
『更にドリル。回転と言う要素を加えて、本来魔力が通っている事で抗魔力の高まっている筈のHMに、無理矢理魔力を押し通す、なんていう無茶苦茶を可能にしたのでしょう』
『見た目の割りにエグい装備、という事ですねっ!!』
エグくて悪かったなエグくて。
でもまぁ、概ねは解説さんの言う通りで、魔力を相手にねじ込んで失神させた、と言うのが事の正体だ。
本来このドリルは、相手の魔力を突き破り、魔力的な攻撃に加えて更にドリルの実体攻撃を重ねる、という本当にエグい武器なのだが。
流石に模擬戦で其処までするのはやりすぎだろう、と自重したのだ。
『―――あ、勝者、1001号機っ!!!!!』
ワーーーーッ、と立ち上る歓声。
今あの司会「あ」って言ったぞ「あ」って。
色々モンクは言うべしと思ったのだけれども、既に司会は次の試合の解説へと移っていて。
仕方ないか、と吐息を一つ。
まぁ、なんにしろ勝利は勝利。
気分は悪くなかった。