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105:Unlimitted...


「よっ、ほ、せ……」


雨霰の如く迫り来る弾丸の雨を、より損害の引くそうな地点へと移動していく。

120ミリ砲よりは50口径、50口径よりは36ミリ。

少しでも損害を低く抑えつつ、より早く前へ向かって飛翔する。


『敵機までの距離、8,000メートル』


武装を確認する。

この任務ミッションでは、武装は射程の短いハンドキャノンのみ。

対して敵は、此処より高度の高い高台のような場所に拠点を張り、その上迫撃砲やらその他諸々、砲撃系武器を大量に仕込んでいる。


なんでも相手はこの周辺を縄張りとする無頼の類であり、それを退治する、と言うのが今回の一番の目的だそうだ。


――まぁ、ゲームなんだが。


「ぬ、――っ!!」


地面を蹴って、空中へと踏み出した瞬間に急制動をかける。

火星の重力は地球の40%、つまり同じ出力の機体でも、このゲーム上では地球上で運用するのに比べて相当に動く事が出来る。


……のだが、所詮ゲームの中では旧式。幾ら最新式だろうが、ゲームの中での性能値は覆らない。

幾ら機動を技術で補おうと、装甲だけは如何してもどうにも成らない。

元々、ある程度は被弾する類のゲームだ。最低限のダメージは如何しても受けてしまう。


それこそが、どうしようもない壁となってしまうのだけれども。


「耐久値の地力とか如何しろと。元から無理ゲーとか」


愚痴りながら、けれども前進は続ける。


実際、この展開は無きにしも非ず。

テロリストが武装をもって高台に立て篭もる、という事件は過去に存在している。

そのとき、テロリストを攻略した手段が、国連軍に属していた軍人が行った、この愚直な前進だったという話。

このゲームは、その事件の事を参考に作られているのだろう。


といっても、火星じゃなくてユーラシアの方だったとか、当時は相手の機体は旧式で狙撃系の機能も古臭い物で、対して国連軍は最新の装備だったりと、これよりはもう少し優しい環境だった筈だ。


『距離2,000』


残りの耐久値は25%を切っている。

これは、接近して悠々と射撃戦、と言うわけには行かないか。


武器をハンドカノンからランスに切り替える。因みにコレは対アンノウン用に実在する武装だ。


「出力、スラスター全開!」

『水平噴射開始』


前進の背部スラスターが火を噴く。

猛烈な勢いで加速しだした機体は、細かな機動を完全に放棄していた。


最後の一歩。大きく地面を蹴り飛ばし、機体を中空へと持ち上げて。


「くらえええっ!!!」


弓のように引き絞った背筋から、返る反動の全てを槍へと伝えて投げ放った。

ズガンッ、という音と共に、山の上で砲を構えていた機体、そのコックピットに槍が突き刺さる。


このゲーム、一応急所とかが設定されていて、コックピットへの直撃は即死判定が出る。

つまりは……。


『CREAR!!』


そんなナレーションが、ファンファーレと共にシュミレーター内に鳴り響いた。






「まさか一日で、しかも疾風でクリアされてしまうとは……」


驚愕、といった表情で南氏が呟く。

といっても、ゲーム何だからクリア云々は何時かされる物だし、ソレがたまたま今だった、と言うだけの話だと思うのだけれども。


「君、もしかして実際にHMのパイロット……LoGの生徒さんだったりする?」

「あー……LoGでは有りますが、魔導科ですよ?」


嘘は言っていない。肝心な事も言ってないだけ。

しかし南氏はウンウンと唸って頭を抱え、ブツブツ何事かを呟き始めてしまう。

「天才パイロット?」とか「ハイレベルゲーマー?」とか。


「俺が如何のこうのは如何でもいいことでしょ」

「む……まぁ、そうなんだけど……で、如何だった?」

「面白かったですよ。低重力環境の再現なんかは凄いと思いますし、何よりストーリーが良い!」


舞台は近未来の火星。

科学と魔導によってテラフォーミングされた火星は、けれどもまだまだ未開の部分が多い所為か、如何しても法の権力が行き届かずに居た。

結果現れたのはHMを用いて世を食い物とする荒くれ者。

プレイヤーは新任の国連火星方面陸軍少尉となり、様々なミッションをこなしていく、というもの。


「途中のライバル登場とか、先任の上官の格好良い散様とか、多少ベタかとも思ったんですが其処がイイ! 赤銅色の狙撃兵とか、狙ってんのかコンチクショウ! マジで涙出たわっ!!」

「あー、自分にはなんのインスパイアなのか判らなかったんですけど……判ったんですか?」


無論。ゲームからアニメ化して、ゲームに帰化の後に映画化したやつだ。

ライターさんの世界観が好きで、作品の大半には目を通してある。


「あー、実動アーケード版では使用可能な機体の一種に成るとか言う話しも有りますけど」

mjdk(マジデカ)!?」

「中コストの近距離戦と超遠距離戦専門っていう、なんだかバランスの悪い機体なんですけど……」

「其処がイイんじゃないかっ!?」


開発部の連中と同じ事言ってる……とかなんとか。

と、考えてふと思いついた。


「もしかして、金色のHMとか登場します?」

「百年戦える、とか、暁の出撃、とか……ならまだ理解できたんですけど、。――隠しボスにチートみたいに武器を大量に所持するのが一機」


感動した! 此処の開発部は熱い男達(大きなお友達)が揃っているに違いない。

更に言葉を続けようとして、けれどもふと時計へと目をやって、思わずうめき声を漏らしてしまった。


「如何しました?」

「少し用事がありまして。そろそろ時間なんですよ」


――一時間程度物見遊山に洒落込む心算が、気付けば小一時間ゲームに嵌っていた自分が居た。


「と言うわけなんで、この辺りで自分はお(いとま)させていただきます。ゲーム、楽しかったですよ」


言いながらシュミレーターを降りる。

うん、想像以上に良いゲームだった。まぁ、多少難しかったようには思うけれど。


「あ、ならコレをあげるよ」

「? これは?」


手渡されたソレは、小さめの印鑑程度の四角柱。

もしかしてコレは……結晶メモリ(キューブ)


「今度のコレは機体のデータを引っ張れる(もちこしできる)ようにしてあって、そのキューブには、今回の君のデータとオマケが入ってるから。実働機をゲームセンターで見かけたら、是非使ってみてよ」

「いいんですか?」

「なに、試験機クリアのオマケみたいなもんだからさ」


言ってさわやかに微笑む南氏。

まぁ、別に貰っても害は無いか、何て判断して、「有難う御座います」とだけ言ってソレをポケットに仕舞いこんだ。


さぁ、そろそろ演習の一時間前を切る。

そろそろ本当に急がなければ。


「それじゃ、有難う御座いました」

「うん、此方こそ。良いデータ取りが出来たよ」


言って、手を振って踵を返す。

ああ、良いゲームだった。実働機が出るのが楽しみだ。

なんてわくわくしながら、ついに始まる一対一演習に備えて、頭の中で戦術予測なんか立ててみたりもするのだった。




    ※※※※    ※※※※




「……さて」


仕舞ったな。彼の名前を聞き忘れた。

あまりに見事な操縦技術に、舌を巻くどころか思わず感動していた自分を、そのとき漸く自覚した。


改めて履歴(ログ)を確認しても、やはり驚愕の感情しか浮かばない。


このVRMは、正直言って途轍もなく難易度が高い。

HMという機械自体を動かすのは少し難しい程度なのだが、このゲームは舞台を火星、なんて設定している所為で、ソレが尚更難しくなっているのだ。


若い世代のテストプレイヤーは、少し練習する事でなれることができていた。

けれども練達の兵士……元HM乗りなんかに乗ってみてもらったところ、重力の設定なんかで少し躓いたりしていた。


そう、初回でクリアなんていうのは、先ずありえない。まして一時間でクリアなんて。


本来は数時間かけて、何回もプレイし、徐々に感覚をつかんで、それで漸く最終ステージに挑めるか、というレベルなのだ。


それを、いきなり隠しボスの一体を倒すとか。


「何者だったんだろうねぇ、彼」


呟いて、ソレを皮切りに思考を切り替える。

あれほどの技術を持つ彼だ。その内、実働機が起動し出せば、どこかで大会なんかも開かれる。

そうすれば自ずと彼に再開する事もできるだろう。


「それよりも、だ。彼のプレイデータを編集して、プロモーションに組み込んだりしてみようか」


あの操縦技術は、このゲームのお手本にしたいくらいだ。……いや、無理か。難易度が高すぎる。ありゃ練達のHM乗りのソレに近いように感じる。あれをおもちゃで遊ぶ感覚の学生達の手本にする、というのは流石に無理だろう。

――けれども、あの技術はどこかに記録しておきたい。


「あ、もしもし、27号機担当の南です。ちょっと面白いデータがありまして……」


考えつつ、早速本社へとアイディアを掛け合うべく連絡を取るのだった。




    ※※※※    ※※※※


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