103:Festa
一通りの調整を終えて、ようやくの自由時間。
といっても公開演習の期間は、この基地からの出入りを基本的には禁じられている。
身分が明確とはいえ、どういった事態から情報漏洩に繋がるか判らない。そういう配慮なのだそうだ。
「然し……まだ出し物って有ったんだな……」
空を飛び交う航空戦闘機を眺めて呟く。
俺が把握していたこの基地の戦力といえば、主にHMの事ばかり。
この基地が航空戦力を持っていた、というのは初耳だったりする。
……というか、アンノウンに対して航空戦力というのは殆ど効果を成さない。
攻撃……ミサイルや機関銃自体には多少の効果があるのだが、問題は戦闘機そのものにある。
アンノウンは、その規模に関わらず、大抵が空間系の魔術に類似する、全方位攻撃の手段を保有している。特に大型種なんかはMAP兵器みたいな攻撃も出来る。
HMならば耐えられるであろうその衝撃は、けれども“空を飛ぶ”という目的の為に限りなく軽量化されている戦闘機には、その余波だけでも致命傷となるのだ。
逆に、小型種と呼ばれる全長3~4メートルの奴は、小さすぎて戦闘機の機銃とかは滅多に当たらない。
当たれば撃墜される。それがわかりきっているのに、態々うん十億もする兵器を買い与える、なんていうのは流石に無駄だと、政治家連中も認識しているらしい。
――それでもこうして運用されているのは……まぁ、色々理由があるんだろうね。
「さて、と――あったあった」
周囲を見回して目的の物を探し当てた。
多く立ち並ぶ露天の一角。なんとも香ばしいソースの香りが漂っていた。
「おっちゃん、一つおくれ」
「ほい、400円」
透明なパックに入れて手渡されたソレ。輪ゴムの封を解いて、爪楊枝で突き刺して口へと運ぶ。
熱々のたこ焼き。祭りの醍醐味でしょ、コレ。
たこ焼きをつまみながら、再び祭りを見て廻る。
やはりLOGに近いという事もあってか、周囲に見える人間の大半は、まだまだ学生、といった風体のが多かった。
もしかしたら知り合いに合えるかもしれないな、なんて思いつつ。
「……中尉?」
めぐらせていた視線の先、不意にどこかで見た赤っぽい髪の毛を一束に括った少女が、何かの露天の前でじっと目を凝らしている様を見つけた。
間違いなく、先程此方に宣戦布告をしてきた稲見中尉だ。
驚いた事に、着衣は軍服ではなく、まるで普通の少女であるかのようなワンピースを身に纏っていた。
いや、こういう言い方を本人にすれば失礼なのかもしれないが。
「――!? 七瀬さん!?」
「はい、七瀬ですが……やはり中尉ですよね。こんなところで如何したんですか?」
話しかけながら、中尉の視線の先へと目を向ける。
「ええと、これは、その……」
其処にあったのは、なんとも在り来たりな、しかし祭りの定番の一つともいえる砂糖菓子……綿菓子の露天があった。
「欲しいんですか?」
「いやその、財布を忘れたというか、取りに戻るにもこの格好は少し恥ずかしいというか、私を連れ出した友人と逸れてしまったというか……」
おk把握。迷子ですね。
軍服を着ていない中尉は本当に普通の、それこそ同い年程度の少女にしか見えない。
そんな少女が顔を真っ赤にして言い繕っているのはなんともクるものがあるが――流石にそれは非紳士的だろう。
「一つください」
「300円になりま~す」
売り子のお姉さんから袋を一つ貰い、中から綿菓子を引っ張り出す。
一つまみだけ千切って口へと運ぶ。うん、甘すぎる。さすがザラメだけで出来る加工食品。
「中尉、どうぞ」
「え? でも、これは――」
「一口食べたかっただけなので。捨てるのも勿体無いですし」
多少……いや、かなりわざとらしいが。
面倒くさいので、中尉の手に綿菓子を握らせて、逃げるように別の露天へと視線を移した。
「たこ焼きの次は……焼きソバか。いや、ビックフランクも捨てがたい!」
なんていいつつ、下手に何か言われる前にその場から移動を開始した。
意外とシャイなのだ。俺は。
「あの……七瀬さん? ありがとう」
「――いえ、どういたしまして」
遠慮ではなく礼を返してくれる辺り。良い人だなぁ、なんて思った。