表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

102:After briefing


そんなわけで今現在。

こうして最新鋭機である疾風を操り、一般公開される軍事演習に参加しているわけなのだが。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


何故だろう。物凄く視線が痛い。

現在いる場所は兵士戦用の食堂。今日と言う日でも、一般人が立ち入る事のない場所……ではあるものの、今現在演習に参加している身として、食事は此処の食堂を利用するようにと言われていたので、早速利用していたのだ。


「………(ちらっ)」

「…………(サッ)」「…………(サッ)」「…………(サッ)」「…………(サッ)」「…………(サッ)」「…………(サッ)」


――なんなんだこれは。何かの罰ゲームか。

少し振り返ってみたら、途端に全ての視線が明後日の方向へと逸らされる。

だがな、何も無い壁の方を向かれたって、怪しさ満点なんだけれども。

そして食事に戻った途端に視線を感じるし!


「こんにちは」


なんて、一人悶々としていたところに、不意に背後から声を掛けられた。

少し驚いて背後を振り返ると、赤っぽい髪の毛に緑の瞳を持つ少女が一人。

その身にはしっかりと国軍の軍服が纏われている。である以上は、この女性も軍人、という事に成るのだが。


「……こんにちは」


なんだろうこの女性。如何見ても此方と同い年……いや、それ以下にしか見えない。


「私は802中隊の稲見理奈中尉です。お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「っと、失礼しました。自分は朝倉重工HM研究室より派遣されて参りました、七瀬巧です」


言って手を差し出す。

稲見中尉は無表情のまま、けれどもちゃんと握手を返してくれた。

……成程。外見は如何アレ、手は軍人の手だな。


稲見中尉は一つ頷き、それから此方に問い掛けてきた。

「先程の射撃演習。1001号機を操っていたのは、貴方ですか?」

「はい。確かにアレは自分が操っていました」


先程の射撃演習。要するに、前方斜め上に設定された領域を飛びすぎる射出物を撃ち落すという、クレー射撃のような訓練。

此処でこちらに宛がわれた機体には、確かに1001の刻印が成されていた。


「やはりそうですか……」


稲見注意のその言葉と共に、周囲が少しざわめいたような気がした。


「……どういうことですか?」


周囲の余りの様子に、思わず稲見中尉へと問い掛けていた。

本来なら失礼に当たるかもしれないのだが、俺は実として軍に属しているわけではないので、コレくらいは許してもらおう。


「いえ。単純に、貴方の叩き出した成績に驚いているだけでしょう。ただ、貴方の外見的に推測される年齢から、本当にそうなのか判断がつかなかった、と言うところではないかと」

「成程。要するに、自分みたいな子供が、本当にあの成績を出したか疑われていた、と」


苦笑しつつ頬をかく。

まぁ、確かに子供……と言ってももうすぐ18なのだけれども……である自分が、周囲の職業軍人に混ざってある程度の成績をたたき出しているのだ。驚かれても仕方あるまい。


「……成績順位表はもう見ましたか?」

「いえ、未だですか……?」


言うと、稲見中尉ははぁ、と一つ溜息をついて首を傾げて見せた。

というか、今はじめて稲見中尉の表情の変化を見た。


「貴方、射撃の成績でトップですよ?」

「――」


しまったやりすぎた。







「明日からは一対一中距離演習。今度は負けませんよ」なんて言って稲見中尉は食堂を後にしてしまった。

成程彼女もどちらかと言えば野次馬。ただし、周囲と違って直接声を掛けてくる程度には度胸のある人間だった、という事か。度胸と言うよりは天然キャラくさかったけど。

こんな子供相手に遠巻きも糞も無いとは思うのだけれど。

とりあえず、今日の仕事はコレでおしまいか。


とりあえずまだ昼過ぎだ。次に如何するべきかと考えて、少し悩む。

この後行われる、別チームによる公開演習をみにいくというのも良いかもしれない。

けれども、明日に備えてHMのセッティングを頼みにいく、というのも選択肢としてあって良いのではないだろうか。


「……ふむ」


久々に疾風に触れたことだし、此処はもう少し触ってみるのも良いかもしれない。

頷いて、足の進む先を格納庫へと向けなおした。


格納庫は食堂のあるビルの裏手、巨大なシャッターによって閉じられている建物がそれだ。

地下十三層に渡る広大な地下施設の最上部であり、地下には作戦司令部やら色々な施設が埋め込まれている。

HM整備格納庫は此処の地下二階。

此方の所有する権限で、十分に入れる階層だ。……まぁ、そんなことをしなくとも、来客用権限で入ればいいのだけれども。


エレベーターに入り、地下二階へと移動する。

地下二階……といっても、一般的な建造物の数倍は有ろうかと言う面積を誇る地下。

なにせ直立させたHMを並べても尚余裕をもつというほどの規模なのだから洒落にならない。


といっても、此処の基地に配備されているのは、確か二個中隊だとかそんな話を聞いた。

一個小隊が3機。一個中隊が四個小隊。一個大体が三個中隊。

つまり24機のHMないしパイロットがいるわけなのだが。見たところ空間は余ってるな。


とりあえず整備庫の感想は脇において、その脇にあるパイロット用の更衣室に入って、戦闘用のスーツに身を包む。

何時もは大体私服なのだが、軍の施設内では生命維持の為にこのパイロットスーツを装着しなければならないのだとか。軍規とかめんどくさい。


なんとか自分を納得させ、半分以上全身タイツと言うか、要所要所にしか装甲の設置されていないパイロットスーツに身を包んでハンガーの一番奥へと歩みを進める。

コレ、女の子が着たらエロいんだろうが、俺みたいな男が来ていても変な連中を引き寄せかねない。

とっとと機体に乗り込むべし。


……あった。1001号機。


疾風。型式番号はEHM-07。

朝倉重工が自信を持って送り出した第四世代機。人工筋肉による俊敏な稼動、脅威の柔軟性。

各パーツごとに交換可能な部分ユニット化を実動し、整備性に関しても高い評価を得る。

頭部ユニットは交換次第で様々なセンサーを搭載できる。

何より優れているのは、ガスタービンの小型化と、ソレに伴う内部燃料経路の見直し。そして拡張性の高さを得た事による、魔力適正の低い人間にでも容易に操れる機体、という点。


紫電改以前の、俗に第三世代と呼ばれる機体は、大抵の場合第二世代から引き継いだ“ゴーレム”の概念から何処か脱却できていない部分があった。


そもそも、HMの概念の元となったのが、土人形(ゴーレム)を人間が着込むことにより、指令誤差を短縮する、と言うものだった所為だろう。

その所為か、HMというとどうしても『魔術師の機械』ないし『魔力を扱える人間の道具』という認識が強かった。


実際、第二世代までのHMは魔力を扱える程度では到底扱えない代物だったといわれている。噂だと、鉄で出来たゴーレムだ、とか、電子機器を積んでるだけ。各電子機器をOSでの統合すらされていないとか。つまり、無線を積んでるだけ、カメラを積んでるだけとか、そんな話まで有ったほどだ。残念ながらソレを実証する為のサンプルは、嘗ての大戦で完全に消失したといわれている。閑話休題。


第三世代でようやく「魔力を扱える」程度の人間でもHMの操縦が可能となり、3.5世代……疾風や、民間機であるYA-26連山の実証によってその最低ラインが引き下げられた事により、ようやく第四世代の概念が確立されたのだ。

因みに大和は第二世代よりの第三世代。魔術師三人がかりで搭乗する事を予定された機体とか。今考えれば、マンパワーを集中させすぎ。


そして、俺はこの機体――疾風の開発に、長期にわたって携わっていた。

本来なら、新型OSの搭載を待ちたかったところなのだが、ハードだけでも十分戦力になる、といわれては、テストパイロットにできる事なんて殆ど無い。


まぁ、疾風改が出るのを楽しみに待つ事にしよう。


「とりあえず、だ」


明日の演習に備えて、機体のセッティングを頼まなければなるまい。

現状の疾風はデフォルト設定のまま。正直なところ、色々と不満が残る。

射撃演習のときは、基本動作パターンの適用でなんとかなったが、実戦に近い激しい戦闘となると、それなりに個人に合わせたセッティングをしなければ成るまい。


「あ、すいませーん!」


とりあえずとばかりに、通りすがった整備兵に声を掛け、期待調整の依頼申し込みについて色々と聞いてみる。

問い合わせは各端末から整備兵詰め所へ連絡すれば良いのだとか。

今回は自分に直接言ってくれれば伝えます、とのこと。


「とりあえず、魔力経路の適正化と装備の調達をお願いして良いか?」

「装備は連絡一本で済むね。適正化は……うん、機材はあるから、僕が調整するよ」


コックピットへ昇り、シートへ腰をかけて機体に火を入れる。

『EHM-07 Call"1001"起動』

「起動キーは生体認証にしてあるんだよねー……っと」

『Good Morning! Have a nice battle』


物騒な事を呟くOSを無視して、取り敢えずの機体調整に入る。

整備兵の男性は、シートの背後の機器に端末を繋ぎ、期待の環境数値をモニタリングしている。

因みに、データの半分は俺の身体データになっている。

パイロットスーツは耐G機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけでなく、バイタルモニターやら体温調整管理、湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能をも備えている。


其処から引用されたデータと、機体から引っ張られたデータの統合が最もバランスのいい所を探すのが、魔力値の適合化を表すわけだ。


「結構魔力に余裕あるんですね」

「その気になれば、三機くらいは遠隔操作出来るよ」

「ははは、それは凄い」


モニターを見ながら呟く整備兵に、ちょっと言ってみたのだけれど……笑って流されてしまった。

冗談じゃないのに。


さて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ