001:出会い
LOG学園。雪吹市南部に位置する、海に面した学校である。
主だった特徴としては、魔導学科と機構学科の存在がある。
『雪吹の砦』とか、『災禍の出所』とか滅茶苦茶な異名を持つこの学校には、其れ相応の曰くが在る。
その魔導師の保有数の多さとか、配備しているHMの数の多さとか。
でも最も有名なのは、やはり学生がHMでアンノウンを撃退したというアレだろうか。
以後、只でさえ特殊だったこの学校は、その事件を境に世界に対する認知度を挙げ、結果今年の入試はかなりの倍率だったのだとか。
まぁ、受かって良かった。
「はーい、そんじゃ適当に座ってね〜」
指示されたクラス。言われたとおり適当な席に座る。
窓際の後ろのほうなんか最高だ。
「はい、それじゃその席で半年は通したいと思いまーす」
……なんてベタな事をしてくれるのか。この教師は。
周囲から上がる不満の声。しかし教師の女性はそれを見事に無視して次の話題へと入っていく。
自己紹介から暫くの行事予定まで。何気に重要な事が含まれているのでメモをしておかないと。後々情報は必要だろうし。
カランッ
「ん? ……あ」
転がってきた何か。橙色の加工を施された鉛筆が足元を転がっていた。
拾って周囲を見回す。
……多分、この後ろに座ってるやつだろう。
「おい、これお前の?」
「……あー、俺のだ。サンキュ」
いって、その男は気だるそうに、しかし嬉しそうにニッコリ笑って礼を述べてきた。
なんというか、女性受けしそうな男だ。
「俺、西野 陽輔。何かの縁かもしれないし、ヨロシクな」
「……ああ。ヨロシク。俺は七瀬 巧だ」
言って手を差し出す。
唐突に、変な所で縁が出来てしまった。まぁ、悪くは無い。
俺が入学したLOG学園。その中でも、俺の入った魔導学科と言うのはこれまた一癖ある連中が集うところだったようだ。
件の女性教師…名を天野曜子。身長140センチ後半と言うミニマムギャルである。
年齢は本人曰く「ヒ・ミ・ツ」なのだそうだが、少なくとも20台前半は過ぎているはずだ。
小学生サイズの成人って……。
他にも、生徒の自己紹介で
「俺は勇者になる男だっ!!」とか「魔王が復活するのを断固として阻止しなくてはっ!!」だとか、「俺は神だっ!! いや、魔王でも良い!! そしてエロを征するっ!!」とか「逆ハーレムよ、逆ハーレムっ!!」とか。
「……魔導師って変人ばっかりなのか?」
「連中は卵だし、一概にそうとも言い切れない……とは思うんだけど、此処まで変人ぞろいだと、……むぅ」
心細そうな陽輔に如何返した物かと悩みつつ。
少し会話してわかったことなのだが、この陽輔、魔導師なんて目指す変わり者の癖に、その感性は限りなく一般人のものだった。
つまり、この変人社会の中においては途轍もない異端。
「まぁ、そのうち慣れるって」
「……巧は随分落ち着いてるな」
「まぁ、俺もどちらかと言えば変人にカテゴライズされてるし」
昔は俺も変人なんていうカテゴライズは拒否したさ。
けど、見様見真似で交感魔術を習得したって言うのを、今日日後から聞かされると……。
「――ちょ、何絶望したような顔をしてるのかっ!!」
ふと顔を上げると、何か愕然としたような顔の陽輔が。
「いや、大丈夫だって。基本的に俺は一般人だし」
「一般人は変人なんて自称しないって……」
「変人だと自認できない人間のほうが俺は嫌だけどな」
「まぁ、それもそうか」
言うと陽輔はあっさりと認めてくれた。
偶に居るんだよなぁ、自分が変人だと理解できない変人。
ああいうのをイタい奴というのだ。
「……というわけで、これにて本日の説明を終わりますっ。起立、礼っ!!」
ガタガタッと音を立てて全員が声に合わせての行動。
……というか、何かあっと言う間に終わってしまったな、今日。
したことといえば、体育館での校長の演説…これは遅刻してきた所為で殆ど聞いてないし、クラス分けと、今後の行事予定をメモした程度か。
「何にもしてないな、今日」
「むぅ。……折角だし、校内見学でもしてみるか?」
俺はこの学校の学校見学には来ていない。
内容はインターネットと取り寄せパンフレットで大体理解っていたし、第一この学校の知名度だ。当日は混雑するなんていうの、素人でも予測できる。
で、結果。ニュースで報道されるほどの混雑。
あの時は自分の直感にどれほど感謝した事か。
「あー、うん。それも良いな」
言って頷く陽輔。心なしその顔が青ざめているような気がする。
「……もしかして、学校見学来たのか?」
「あの時は悲惨だった……人混みで、春なのに蒸し暑くて……ひ、人の波がっ!!」
ガクガクと震えだす陽輔。トラウマに成ってる。
あまりにも陽輔が哀れ……もとい可哀相なので、この話題はそろそろ切り上げようか。
「校内見学、するか?」
「……うぅ……。ああ、一緒に行こうか」
漸く落ち着いたらしい陽輔と頷きあって。
鞄を持って教室を後にするのだった。