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101:Run back

事の始まりは、つい数日前。

件のアンノウン撃退騒動のゴタゴタが漸く治まったその直後くらい。

ゴールデンウィークが始まる少し前の事だ。


「――で、スラスター調整で旋回能力が調整前と比べて20%程の上昇が見込めるようですね」

「ふぅん、でもこの調整、瞬間加速能力が落ちない?」

「大丈夫です。この部分に魔力式のターボを搭載しましたから、初動及び緊急時の加速にコレを使えばいいんですよ。あ、あとキャパシタ更新したので、感覚が少しだけ変わっているかも。後で確認をお願い」

「うぁ、何かキワモノに成ってる!?」


授業の終わり、暫く寄っていなかったラボへと立ち寄った俺は、つい先日俺へと譲渡された機体……PEAM-00「長門」についての解説を受けていた。


というか、俺が此処へ立ち寄らなかった数週間の間に、色々とシステムを改良していたのだとか。


「更に追加武装プラン、大規模輸送用装備プランなんてのも開発されてるんですよ」

「……むぅ」


示された計画図を見て、思わず目を細める。

追加武装プランは、シンプルな形状の長門の上に、やたらゴチャゴチャした各種火器を装備させているプラン。

大規模輸送用装備っていうのは、長門の後方に専用の輸送用コンテナを接続し、支援機としての性能を底上げしたモデルだった。


一応実用性はあるのだろうけど――デザインが、なぁ……。

流石は三宅さん。研究所で数少ない“父さんのペース”についていける人というだけはある。


「そういえばの話、なぜ今更“長門”なんだ?」


詳しいスペックデータを確認しながら、ふと思いついた疑問を放つ。

此処の本来の研究目的はHMヒュームスマキナの研究、それも軍用に用いられるようなEHMの開発にこそある。

だと言うのに、今現在こうして弄られているのは、俺に譲渡されたはずのAMアームドマキナ、非人型支援兵器だ。

軍用であるEAMは既に“陸奥”と呼ばれる型式が生産されており、今のところそれ以降EAMは生産されていない。

これには未だEHMが発展途上であり、其方の発展に力が注がれていたという理由と、既存の陸奥を見たEHMに対する火力の低さ、という点から必要性が低かった、という事柄が挙げられる。


なにせ、今現在のアンノウンとの戦闘で最も重要とされているのは、何よりも火力なのだ。

高火力砲を高い機動性で運び、組み付いて動きを止め、力ずくで押し返し、総火力で殲滅する。

このプロセスの中では、EAMの利用価値は低かった。

まぁ、他にも理由はあるのだが……。


「それがね、この前巧君が長門を使ってあの大きいのを倒しちゃったでしょう?」

「はい――って、まさかソレが理由で?」


頷く三宅さん。思わず首を横に振ってしまう。


「お偉い連中っていうのは、どうしてこう行動が分り易いのかしらね」

「全く」


つまりは、人気取り。

ついこの間、アンノウンとのあの戦いは、やはりテレビで全国放送されていた。

そしてその中で、突如として登場した正体不明の航空機。長門の事だが、ソレについて世間では様々な憶測が飛び交っていた。

多分だが、その噂に便乗した人気取り、とでも言うのか。政府は長門を生産しようとしているのだろう。


「まぁ、会社としては儲かるので良いのでしょうけど。この機体は人を選びますから……」

「確かに。前半はそうでもなかったが、戦闘後半は魔力の消費とフィードバックされる情報の処理で、結構キたし」

「(一般的な魔導師では、そもそも“前半”すら無理なんですが)……まぁ、そういうわけで今現在開発されている長門は、巧君の長門の“廉価版”と言える仕様の物ですよ」


なるほど、と頷く。

一応設計データを見せてもらったが、なるほどコレなら扱いは大分楽に成るだろう。

S3をSLS方式に戻し、更に搭乗員の人数を一人から5人へ。

操縦系統、火器管制、通信制御、情報分析、統括操作と、其々にタスクを割り振る事で処理に余裕を持たせているのだ。


「それで、廉価版の設計に当たる前に、既存の機体である長門で実戦データの集積を?」

「まぁ、そんなところね。ついでに言うと軍正式採用が決まったから、型番もエクストラが追加されるわよ……と、そういえばの話なんだけれど」

「?」

「巧君の長門に、名前をつけてあげて欲しいのよ」


思わず首をかしげる。

長門には長門という名前があるのではないか? と三宅さんに問い掛けたのだが


「それは固有名称じゃなくて製品名称でしょう? “貴方の長門”としての名前を割り振って欲しいのよ」


なるほど、と頷く。

要するにペットに犬を飼うとして、ボルゾイというのは犬種名。ちゃんとした名前をつけて欲しい、という事らしい。


「でも、それってモノに名前をつけるって事ですよね?」

「良いじゃないの。ヨーロッパのほうでは、愛車に名前をつける風習のある国だってあるのよ?」


まぁ、確かに。昔の飛行気乗りは、自分の乗る機体に愛妻の名前をつけていたとかいう話も聞く。

べつにおかしい話ではない……のかな?


「名前……ねぇ」

「君の専用機なんだし、考えておいてね」

「はぁ……って、三宅さん?」


立ち去ろうとする三宅女史の背に慌てて声を掛ける。

此処に呼ばれた目的、まさかコレの名称を考えるだけの為、という事は無いだろう。

んな事なら電話の一本で済む。


「あ、そうそう。博士が呼んでたのを忘れてたわ」

「ソレを先に言えよ!?」


言って三宅さんはふらふらと何処かへと歩き去ってしまった。

これから父さんの研究室へ行くとなると……。


「スネて無きゃいいんだけど……」


言いつつ、ラボの奥へと足を進める。

そういえばの話、長門の件も有ってついにラボのLevel5権限を与えられてしまった。

テストパイロット風情にこの扱いは良いのだろうかとも思うのだが、此方としては移動にかけられた制限が緩くなっただけなので、願ったりかなったりと言う部分も無きにしも非ずと。


そんな適当な事を考えつつ、漸くの思いで辿り着いたlevel4。父さんの個室。

その脇に備え付けられたインターホンを押した。


『あぁ巧。ようやくきたか』


そんな声が洩れ聞こえ、プシュッっと音を立てて扉が開いた。


「スマンな急に呼びつけて。ちょっと外では話せない用件だったもんでな」

「良いけどさ。でも、急に呼び出すなんて珍しい」


父さんの研究……というか、ここの研究室の性質上、どうしてもある程度のタイムスケジュールは計画されており、余程のアクシデントでもない限り“急な”だとか“突発的”な行動はありえない。


「まぁな。用件は二つ。報告とお誘いだ」

「ん? 報告?」

「あぁ。この間のアンノウンの事件に関して、軍から内密に報酬が払われるらしい」

「ほぉ」


ついこの間の事件。

俗に「新学期事件」とか呼ばれている、LOG入学式当日に起こったアンノウンの騒動。

あれは結局、LOGの自警団と軍の部隊が協力して討伐した、という事に成っている。

実情はただの新入生四人が、お飾りになっていた無武装のHMで出撃し、撃退の後再度の襲撃にて撃破、というなんともファンタジーな展開だったのだが、ソレを嫌がった本人達の意思に則って、この事実は隠蔽される事となった。


意外に気の効く軍部に、あの三人は感謝していたり。

まぁ、今回の事件をLOGに対する取引の手札にしよう、という裏の動きを知る俺としては、別に軍部に感謝したりする気持ちは無い。


「と言ってもまぁ、現金が譲渡されるわけではなくて、軍部のデータベースへの一部アクセス権が与えられたとか、少しの優遇措置が取られた、とか何だがな」

「DBへのアクセス権!? ――十分だと思うけど」


軍のDB、つまりアンノウンとの交戦記録や、新型のHMのデータやらが眠る宝倉だ。

LOGは機構学部の存在からも判るように、軍部とのつながりが結構深い。コレは創設者が軍出身者だと言う縁もあるらしいが、その当たり俺は詳しくない。

要するに、軍志望ないし、HMに関わる人間にとって、軍のDBにアクセスできるという事は、少なくない利がある、という事だ。


「因みに、俺には?」

「お前も一応軍関係者だろうに」


呆れたように言う父さんの言葉に、思わず苦笑する。

ラボのテストパイロットとはいえ、一応軍需産業、それも新規開発最前線の研究所だ。

一応企業の経営なのだが、性質上どうしても機密事項なんかは増えてくる。その為、このラボに関わっている人間はほぼ完全に軍属という事に成っている。

テストパイロットとして関わっている俺も、当然軍属扱いされていたりするのだ。


因みに形式的に与えられている階級は軍曹。でも持ってる権限はLevel5なので実質的に持ってる権限は少尉相当。技術仕官とか名乗れる。

仕官訓練とか受けてないのだが。いいのだろうか?


「……ふふん、でもまぁ、その代わりにこのお誘いが来たんだろうな」

「というと?」

「今度のゴールデンウィーク、遠野駐屯地でいつもの内部公開イベントが行われるのは知ってるだろう?」

「毎年やってるやつか。HMを使った実機機動演習やらを民間に公開してるやつ……だよな」


遠野駐屯地は、此処から国鉄で数駅といった身近な場所にある。

LOGからもそれなりに近く、合同演習やらを組んでいる、という話も聞く。


「それに参加しないか、だとさ」

「……は?」


一般公開に参加しないか、という事?

此方の疑問を理解してか、父さんは即座に言葉を続けて。


「違う違う。演習の方に参加しないか、って話」

「……理解したけど、ソレが如何報酬になるんだ?」


確かに、HMに触れる機会の無いであろう一般人なら、HMに乗れるであろうこの訓練に参加すると言うのは大きな意味を持つ。

が、此方は腐っても魔導師。LOG校に所属しているのだ。

あそこに通っている以上、HMに登場する機会もあれば、演習に参加する機会もあるだろう。

まぁ、流石に火器訓練は制限されているのだろうが……。


「その訓練にさんかしてある程度の成績を残せた場合、乙種火器免許をくれる、だそうだ」

「なにぃっ!?」


思わず声を荒げる。乙種火器免許。要するに、重火器を所有または装備する為に必要な、国が発行しているライセンスだ。


「でもアレって、年齢制限があった筈……」

「うん、だから甲種免許は無理なんだってさ。それでも乙種――要はHMなりAMなり用の火器は装備して良いですよ、って免許を発行してくれる、っていうんだから。軍部も太っ腹だねぇ」

「……なんというか」


まぁ、有能な戦力足りうる人間に、いざというときの戦力にする為に免許を発行しておく、なんて思惑があるんじゃないか、なんて疑ってもいるのだが。

けれども。HM乗りである以上、得ていて不利になることは無い。


「で、巧。このお誘い、参加する?」

「勿論」


断る理由は何処にもなかった。


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