100:Guns of...
ターゲットをポイントして引き金を引く。
ただそれだけの単純作業を、5分連続でこなす。
狙撃対象は、なんのことはないただのフリスビー……クレーだ。といってもそのサイズは半径1メートル以上もあろうかという巨大なフリスビー型だったが。
それを放つのは専用の機械ではない。
より奇妙な軌道を描くようにと、無意味にもHMを数台起用して、其々がランダムにクレーを放つ、という形式になっている。
俺がやっているのはつまり、HMを用いたクレー射撃、という事に成る。
クレーが放たれるタイミングは、全くのランダム。規則性があるとすれば、放たれるクレーの数が600枚。それが規定時間以内に全て投げられる、という事。
両手に装備したHM用ハンドガンを小刻みに動かし、飛来する無数のフリスビーを次々と迎撃していく。
ハンドガン、とは言ってもHM用の巨大なハンドガンだ。
弾丸の口径は知らないが、とりあえず弾種は散弾に近いものだ。打ち出された後、数十の鉄球がばら撒かれる。対物に対しても相当な威力を期待できる武器なのだが、コレは一応競技用扱いの品物だ。
「……と、よ、ほ……」
メインの制御はSLS(Sorcery Link Sistem)による思念制御で行い、身体でイメージを補完する。
更に機体の制動を制御するシステム内の、あらかじめ登録されているマクロの幾つかから火器管制系マクロを起動し、それをイメージ制御にかぶせる。
人体の動きには無駄が多いが、機体のマクロなんかに登録されている動きには殆ど無駄が無い。
何せ、各地の研究所で研究されてきた人体の……二足歩行型生物の行動パターンだ。昔からよくある研究テーマだし、殆ど間違いは無い。
その綺麗な動作は、けれども正直使えた物ではない。
何せ、行動パターンが決まっているのだ。応用性が無いのだ。
例えば早撃ち。マクロ動作は何よりも速く拳銃を引き抜くだろうが、その代わりに狙いは全くつけられず、ただ真正面に撃ち込むだけ。
対してマニュアルは、挙動こそマクロに劣るも、努力さえすれば精度はマクロを圧倒する。
人間の直感という乱数は、現在でもまだまだ解明されきっていないのだ。
だからこそ、こうして感覚操作にマクロをかぶせる、なんて面倒くさい処理をこなしている。
感覚的にポイントを指定し、其処を指すまでの動作をマクロで最適化する。
今現在はラボの電子情報部門で開発中の新しいソフトの基本理念だが、残念ながら未だ実装されていない。ので、こうして手動でやってるのだけれども。
「うぅぅぅ……」
頭が痛い。
魔術の制御ならまだしも、物理的に実在するHMの挙動処理を演算機からフィードバックされているのだ。
それも、自分用に適応させた物ではなく、現状のコレは訓練用……つまり、万人が扱えるように大雑把な設定になっているヤツだ。
結構頑張って精密動作をさせている所為で、物凄く頭に負担が掛かっている。
駄目だ、頭悪く……じゃなくて、痛くて、集中力が途切れそうだ。
けれども、だ。
視界の端に映る情報モニターの一つ。時刻表示がされているそのウィンドウには、残り時間が表示されている。
示された数字は、既に30sを切っていた。
「もうちょっと頑張れ、俺!」
声を上げて自分を鼓舞する。
本来、普段の俺ならばこんな面倒な事は態々やらない。
例え最新型HMに乗れる、と言われたって乗らないだろう。面倒だし。
が、今回は少し事情が違う。
コレは一種のテストだ。コレをクリアしなければ、此方の求めているものも手に入らない。
「ガンカタって、原典はなんだっけね」
残り時間が短くなってきたせいだろう。左右に設置された、クレー射出用のHM達の動きが慌しくなってくる。競技ルールでは、5分以内に600のクレーを打ち落とさなければ成らないのだ。
つまり逆を言えば、5分以内に600のクレーを、彼等のHMは投げなければ成らない。
30秒に一個投げれば良い計算なのだが、序盤は様子見という事で投げる量を減らし、終盤にラッシュをかける、というのはよくあるパターンだった。
「――っ、リロード!」
残り20秒。クレーの投擲速度が上がっている。投げられたクレーを片っ端から撃ち落すが、肝心のこのタイミングで視界に映るウィンドウ……火器管制が、中の残弾が最後の一発である事を知らせていた。
即座にマクロを起動。単純な課題をこなす分には、完全にマクロ頼りでも問題ない。
グリップから弾倉を抜き落し、左右の腰部ポケットから無火薬で打ち出された新たな弾倉をグリップへ叩き込む。
初弾はまだ残されているから、態々スライドを引く必要は無い。
問答無用で更に弾丸を空へ放つ。
ドカドカドカドカッ!!
響く銃声はまるで一つの音であるかのようにつながり、中々に途切れる事がない。
「残り十秒!」
テンカウントを表示しつつ、残りを全力で撃ちっ放す。
文字通り、無我夢中で、ただただ弾丸を命中させる為だけに精神を維持して。
気付けば、タイマーの数字は既にゼロになって。
「――っ、よし! Perfect!!」
得票数を見て、思わず息を吐いたのだった。
続き執筆中とか言ってから結構放置。
一応再開させましたが、ちゃんと終わるかは不明。